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かつて、クレジットカードでの支払い時によく聞かれた「サインでお願いします」という言葉。しかし、このサインによる決済方法が、2025年3月末をもって廃止されることとなった。クレジットカード所有者本人のサインにより、カード会社により決済が承認される「サイン決済」だ。
レストランなどでクレジットカードを利用する際、自席で伝票にサインをして支払いを済ませた経験がある人は多いだろう。文字通り、サインのみで決済を行えることから、暗証番号の入力は不要だ。
ただ、クレジットカード決済の際は基本的に暗証番号の入力が必要となっており、万が一クレジットカードの暗証番号を忘れた際の救済措置として、「暗証番号スキップ(PINバイパス)」という仕組みが導入されていた。これがサイン決済だ。
●サイン決済の利点は何だったのか、暗証番号入力はなぜ定着したのか
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サイン決済は、利用者が席を立って暗証番号を入力する手間を省ける便利な方法だった。わざわざ席を離れてクレジットカードの読み取り機(リーダー)のある場所へ行かずに済む。
メリットはこれだけにとどまらず、不正利用があった場合は、カード裏面とレシートの筆跡を確認して、本人による利用なのかを判断することに加え、筆跡の異なる署名が確認できた場合には、カード会社や店舗が不正行為を疑える。
もともと例外的な措置として導入されていたサイン決済だが、利用者と店舗双方にとって利便性が高かったことから、フルコースのレストランやホテルのビュッフェなどで広く浸透していった。特に、レジでの会計を必要としないレストランでは、この方式が一般的に用いられていた。
一方、暗証番号の入力はどのように浸透したのだろうか。
日本では、クレジットカードのセキュリティ強化の一環で、ICチップを搭載したICカードへの移行が欧米に比べて遅れていた。しかし、2020年の東京五輪を控え、ICカード対応が急速に進み、店舗にも対応が義務付けられることになった。その過程で決済端末の切り替えが求められ、暗証番号入力が普及した。
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●テーブル会計のレストランは、モバイル決済端末の導入が有効に
ここで、店舗側にとっての懸念点についても触れておきたい。4月以降、サイン決済ができない店舗の増加が予想される。これまでテーブルでの会計を行っていた高級レストランなどでは、テーブル会計の代わりにレジを新設するか、決済端末のある場所まで客を誘導しなければならなくなる。
こうした手間を避けるためには、据え置き型の決済端末ではなく、モバイル型の決済端末を導入することが有効だ。近年では、クレジットカードに加えて、コード決済や電子マネーといった多様な決済手段が普及したため、店舗はこれら複数の決済方法に対応したオールインワンのモバイル決済端末を選択できるようになっている。
例えば、三井住友カードが提供する決済プラットフォーム「stera」では、オールインワンモバイル決済端末「stera mobile」を提供している。この端末は、5型のHDカラータッチパネルを搭載しており、クレジットカードやPayPay、Suica、IDなど、さまざまな決済サービスに対応。無線(LTE)通信も行える。
●なぜ暗証番号スキップ(PINバイパス)が廃止されるのか
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では、なぜサイン決済が3月末で原則廃止となるのか。ここからは、利用者の視点で解説していく。クレジットカードの業界団体である「日本クレジット協会」は2025年4月から、「暗証番号の入力がないクレジットカードは(原則)利用できなくなる」と案内し、主に安全面について次のように言及している。
「お店でのカード不正利用の防止、お店のイメージアップ、カード会員様の安心・安全なクレジットカードライフのためにも、暗証番号入力を推進しましょう」(日本クレジット協会)
日本クレジット協会が2022年に実施した消費者意識調査によると、サイン決済ができなくなった場合に困る人は約3割で、前回の調査からほぼ変わらないという。
さらに、「カード会員の8割超が暗証番号を知っている」とし、暗証番号を忘れる人はほとんどいないということを裏付けた。加えて、カード会員の8割近くが「カードを偽造されにくい」「カードを悪用されにくい」という安全性のメリットを評価しており、カード会員のセキュリティへの関心が高いとしている。
サイン決済は、暗証番号を忘れてしまったときにも利用できる手法だった。そして、不正利用された場合、筆跡確認が可能だが、第三者がカード所有者本人の筆跡をまねしてしまえば、筆跡確認は意義をなさない。仮に所有者本人であっても、サインを誤ってしまい訂正したり、後から上書きしたりしたりすれば、そのクレジットカードを使用できない。
●全てのクレジットカードで暗証番号を求められるワケではない
誤解を招かないように補足すると、サイン決済が原則廃止されたからといって、全てのクレジットカード決済で暗証番号の入力が必須になるわけではない。海外では主流になり、日本でも導入が広がる「タッチ決済」では、一定額以下の支払いであれば本人認証なしで決済が可能だ。
利用時の上限額は、店舗やクレジットカードブランドによって異なるが、一般的には1万5000円未満であれば暗証番号の入力なしで決済できる。ただし、1万5000円を超える決済では、必ず暗証番号などの本人認証が求められる。
●暗証番号を忘れたらどうすべきか
では、クレジットカードの暗証番号を忘れたら、決済できないのだろうか? 先述の通り、一部を除いて暗証番号は基本的に必要だ。そのため、暗証番号が分からなければ決済できない。また、クレジットカードの暗証番号を一定回数以上間違えると、セキュリティ上の措置としてカードがロックされ、利用できなくなってしまう。暗証番号に不安がある人や忘れてしまっている人は、決済前に確認しておくと安心だ。
例えば、楽天カードの場合は、楽天e-NAVIサービス内の「カードの暗証番号の照会」で確認できる。その際、暗証番号の照会にはカード裏面に記載されている3桁(American Expressは4桁)のセキュリティコードが必要になる。
自動音声専用ダイヤル0120-30-6910からも照会できる。「3」の各種照会を選択し、「カード番号」「生年月日」を入力した後、「5」のカード暗証番号の照会を選択すると、暗証番号を照会できる。
PayPayカードの場合は、PayPayアプリかWebサイトから手続きできる。PayPayアプリでは、暗証番号の確認(郵送)を開いて、届け先住所を確認し、「郵送を依頼する」をタップする。Webサイトでは、会員メニューの「管理」→「暗証番号の確認(郵送)」の順に進む。手続き完了後、カードの暗証番号が記載されたハガキが1週間程度で郵送される。
●クレジットカードの暗証番号、覚えていない人は確認を
このように、クレジットカード所有者が自筆のサインをすることで決済が承認される「サイン決済」は、長年に渡り利用されてきたが、より安全で効率的な決済手段の普及に伴い、この方式は役目を終えるようだ。暗証番号を覚えていない人は、今のうちに確認しておくことをオススメする。
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