
アメリカのトランプ大統領は、27日、輸入自動車に4月3日から25%の追加関税を課すと発表しました。日本からの輸入も対象で、乗用車の関税は、これまでの2.5%から27.5%に、トラックは25%から50.0%へと、一気に上がることになります。日本側は、政府も企業もとれる対策が限られており、対応に苦慮しています。
【画像でみる】自動車関税25%の衝撃「トランプ・スタグフレーション」の瀬戸際
対米輸出依存が大きいほど打撃2024年に日本からアメリカに輸出された完成車は、130万台余りです。日米貿易摩擦が激しかった1980年代の後半には、輸出自主規制枠自体が230万台もありました。その後、現地生産の進展や、カナダやメキシコを活用した供給網の整備もあって、日本からの直接輸出の台数そのものは、かなり減ったことになります。それでも130万台というのは、アメリカにとって、日本は、メキシコ、韓国に次ぐ第3位の輸入相手国です。
日本からの輸出台数が最も多いメーカーは、トヨタの53万台ですが、現地販売台数に占める割合は23%に過ぎません。それだけアメリカ国内や北米での生産が多いのです。ホンダは米国販売の7割、日産は6割がアメリカでの現地生産だということです。
その一方、マツダはアメリカで販売される半分にあたる22万台が輸出車で、スバルも4割以上の29万台を輸出しています。三菱自動車は米国内に生産拠点はありません。アメリカへの完成車輸出の依存度が高い、中堅メーカーほど、打撃が大きい構図です。
|
|
関税が一気に25%も上乗せされるのであれば、価格転嫁するのが正当です。イタリアの高級自動車メーカーのフェラーリは、発動とほぼ同時に、一部車種で最大10%の値上げに踏み切ると発表しました。論理的には、日本やドイツ、韓国などの自動車メーカーが一斉に完全な価格転嫁のための値上げをすれば、アメリカの消費者にも事態の深刻さが伝わろうと言うものです。
しかし、日本の各メーカーは値上げには今のところ慎重な姿勢を示しています。得意の大衆車の分野では購入者の価格感応度が高く、稼ぎ頭である米国市場でのシェア急落は避けたいからです。当面は、コスト削減に努めつつ、横の各社の動向を睨みながら、少しずつ値上げ、といった形になりそうです。当然のことながら、その分、収益性は悪化し、部品会社などの調達への影響も心配なところです。
中長期的には現地生産拡大も高関税が続くのであれば、現地生産の拡大も選択肢です。ただ、現地生産の拡大は、新たな投資やサプライチェーンの変更なども必要で、直ちにできるものではありません。すでに自動車各社は、1980年代からの激しい貿易摩擦の末に、相当な現地化を進めており、それが日本を対米投資額第1位の国に押し上げることにも貢献しました。品質やコストなどを考慮して、最適な生産体制の構築に努めてきたと言って良いでしょう。
また、今年2月の石破総理の訪米に合わせて、いすゞのトラック工場新設など、「出せるタマは全部出した」というのが実情です。
基幹部品も25%関税の対象に今回のトランプ政権の発表で注目すべきは、完成車だけでなく、エンジン、トランスミッション、パワートレーンといった基幹部品も25%追加関税の対象にするという点です。アメリカで現地生産している車でも基幹部品を日本から輸入して組み込んでいるケースでは、関税分のコストが上がります。
|
|
また、北米大陸での自由貿易協定であるUSMCA(旧NAFTA)においても、関税適用があることも、ポイントです。USMCAで現在は関税ゼロが適用されるケースでも、トランプ政権は、今後、アメリカ製の部品の調達度合いを勘案して関税を調整すると明らかにしており、カナダ、メキシコとの完成車や自動車部品のやり取りに大きな影響を与えそうです。日本メーカーにとっても、輸出か現地生産かといった単純な選択ではなく、複雑なサプライチェーンの再構築が迫られることになります。
製造基盤再建めざすトランプ政権焦点は、トランプ大統領がこの強硬策をどこまで続けるのか、何が得られれば矛を収めるのか、です。トランプ大統領の思考回路を予測することは困難ですが、当のトランプ氏は、この措置を「恒久的だ」として、すぐには取り下げない姿勢をアピールしています。ホワイトハウスのレビット報道官も「大統領は製造基盤の再建の決意を固めている」と、その本気度を強調します。再選されて自信を深めたトランプ氏は、自らの「正しさ」に一層拘っているように見受けられます。
しかし、ホワイトハウスが主張する「アメリカで販売される乗用車の半分が輸入車だ」という現実には、それなりの理由があるはずです。関税を引き上げただけで、アメリカの製造基盤が再建され、米自動車産業の競争力が急回復するはずがないことは、自明です。
価格上昇と需要減退でトランプ・スタグフレーションか自動車の経済に占める大きさを考えれば、関税というコストによる値上りがアメリカのインフレを加速させることは間違いありません。その一方、価格の上昇が自動車の需要減退を招き、経済の減速を招くことも、容易に想像できます。
文字通り、「トランプ・スタグフレーション」が視野に入って来ました。アメリカ経済の変調は、世界経済に甚大な影響を与えることでしょう。そうなる前に、トランプ政権が、「ポピュリスト」らしく、何か別の方向に舵を切れるかどうかが、分かれ目となりそうです。
|
|
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)