『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(43)
SAGA久光スプリングス 荒木彩花
(連載42:SAGA久光の平山詩嫣は月島蛍と「少し似たタイプ」100点に繋がる75点がリードブロックに共感>>)
2025年1月に行なわれたSVリーグのオールスターゲームで、SAGA久光スプリングスの荒木彩花(23歳)は主審を買って出た。自らイジられ役になり、大会を盛り上げた。
「騒がしい人間なので......」
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本人は恐縮したように言う。明朗なキャラクターだが、実は照れ屋で、おどけた様子も見せる。
一方、コートの上の荒木はパリ五輪日本代表のミドルブロッカーで、SVリーグではトップクラスの実力者だ。身長185cmと体格にも恵まれ、ブロックでシャットアウトする姿は見応えがある。
攻撃面でも、クイックで跳び、ボールを叩き落とすような一撃は迫力満点。囮としても味方を生かし、敵を恐れさせる。トレードマークのゴーグルで空中戦を制する様子は雄壮だが......。
荒木はどんな選手、人間なのか?
荒木がバレーと巡り会ったのは少し遅かった。中学の入学式で、バレー部の顧問に声を掛けられた。
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「バレー部に来ないか?」
当時から背が大きかった彼女は、バスケットボールかハンドボールをやるかで迷っていたが、結局はバレー部の体験に行った。
「体験は1週間でしたが、1日目から、なぜか『もしかしたらできるかも』という自信があって入部しました。1年の頃はずっと走る練習で、ときどきサボってましたね(笑)。3年生が卒業するくらいから、徐々に『バレーと向き合おう』となっていきました」
彼女はそう言ってはぐらかすが、こうも続けた。
「できることが増えていくのが楽しかったですね。オーバー(ハンドパス)が真っ直ぐ飛ぶ、といった初歩的なところから。最初は全然続かなかったパスが、5回、10回と回数が増えていくなど、そういったうれしさにハマったのかなって」
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ただ、長く続けるとは思っていなかったという。
「バレーは中学でやめるつもりでした。結局は高校でも続けましたが、推薦で進学したのでやめるわけにいかなくて、高校2年までは『社会人まではいかない』と思っていました。バレーボールに人生をかけるタイプではなかったです」
彼女は言葉を継いだ。
「本格的にやると思っていなかった理由は、中・高での自分のプレーに自信が持てなかったからです。アンダーの代表に選出された時も『身長で選ばれているだけ』と感じていました。バレーは中学からやり始めたので、周りと比べて遅いし、『通用しない』と思っていましたし、将来を考えるとバレーに打ち込もうとは思わなかったんです」
荒木はそう明かすが、誰よりも"練習の虫"である。久光のチームメイトたちが目を丸くするほど、限界、それ以上まで自分を追い込んできた。だからこそ、ケガも多くなった。
2021年、右膝外側半月板を損傷。2023年には右足首の靭帯を損傷。2024年には左手を骨折。それぞれ、復帰まで数カ月から1年かかる大ケガだった。コートに戻って調子が上がってくると、またケガをする。心は打ちひしがれた。それでも立ち上がってきた彼女は不屈だ。
「足首のケガは、OQT(パリ五輪予選)前で精神的にしんどかったです。膝もそうですが、足首はジャンプに影響するので時間がかかってしまって。左膝も手術していたので、十分に両足が使えない状態でした 。復帰してからも高さが出なかったですし、感覚が戻るのに1年以上かかりました」
それでも、彼女はコートで夢を見る。
「ケガでつらくて、バレーから離れようと思った時期もあります。でも、『今だけの感情だから』と踏みとどまれました。もしバレーをやめたら、他の選手が活躍する姿を見た時に純粋に喜べるのか。そうはならない、と思いました。自分がコートに戻った姿を考えたほうがウキウキしたんです。自分からバレーを切り離したら、半端な人間になっちゃう。おかげで、今もバレーを続けられています」
最後に訊いた。
――タイムマシンで5年前の久光に入団した日に戻り、自分に会えたら何を伝えますか?
「これまでのケガは防げるものだったとは思います。納得がいくまで練習しちゃうので、オーバーワークが多いんです。体が痛くても無視して練習していたので、『練習量のコントロールをしたほうがいいよ』って伝えるかもしれません。それを聞いた(5年前の)自分はどう答えそうか? 『そんなの関係ない!』って言うでしょうね(笑)」
全力でバレーと対峙してきたからこそ、今の荒木がある。ふわりとした明るさは、強さの裏返しだ。
【荒木彩花が語る『ハイキュー‼』の魅力】
――『ハイキュー‼』、作品の魅力は?
「現実離れしていなくて、絶対にできないな、という技が出てこないところですかね(笑)」
――共感、学んだことは?
「烏野vs稲荷崎戦で、烏野の田中(龍之介)の調子がよくなくて、トスを呼ぶけどセッターに選択してもらえない場面がありましたよね? 決めきる信頼がなくてトスを上げられなかった、と感じる田中の気持ちがわかるんです。
自分も調子が悪いと空回りしちゃうタイプで、『やばい、やばい』としか思えなくなってしまう時があって。プレッシャーを感じているとセッターに伝わるし、ミスが多いと相手のブロッカーもマークを捨ててくる。あれは、メンタルにくるんですよ」
――印象に残った名言は?
「やっぱり稲荷崎戦での、田中の『ところで平凡な俺よ 下を向いている暇はあるのか』ですかね。でも、烏野の武田先生の『負けは弱さの証明ですか?』もグッときますし、影山(飛雄)が日向(翔陽)に言う『「諦めない」って口で言う程簡単な事じゃねぇよ』も好きですし......選べません(笑)」
――好きなキャラクター、ベスト3は?
「1位は稲荷崎の宮ツインズ! 侑も治も自由奔放で囚われない感じで、関西弁なところも含めて好きです(笑)。試合中に、変人速攻(日向と影山のコンビプレー)をマネして挑戦してみる場面もうらやましい。自分は自信がないとできないタイプなので。
2位は烏野のツッキー(月島蛍)。バレーに無関心そうだけど、冷静に考えている感じが好きです。私と同じようにゴーグルをしていますし(笑)。私の場合はケガ予防ですけどね。社会人1年目に相手選手のブロードが目に当たって、1週間見えなくなって『同じ衝撃を受けたら失明する危険がある』と言われたので。3位は、音駒のクロ(黒尾鉄朗)ですね。音駒が粘りのバレーをするチームで、リードブロックに対する考え方も共感できます」
――ベストゲームは?
「烏野vs白鳥沢学園戦です。白鳥沢学園の絶対的エース、ウシワカ(牛島若利)をツッキーが止めるシーンとか、いいですよね。青葉城西とのインターハイ、春高予選の2試合はどっちもいいですし、迷います(笑)」
【プロフィール】
荒木彩花(あらき・あやか)
SAGA久光スプリングス
2001年9月2日生まれ、福岡県出身。身長185cm・ミドルブロッカー。中学からバレーを始め、3年時にはJOCジュニアオリンピックカップの最優秀選手に選ばれる。東九州龍谷高校では、3年時に春高バレーを制覇。卒業後、2020年に久光スプリングス(現・SAGA久光スプリングス)に入団。度重なる大ケガを乗り越えて活躍し、2023年から日本代表でも活躍。2024年のパリ五輪に出場した。