激安のSnapdragon搭載Windows AI PCは本当に使えるのか?【道越一郎のカットエッジ】

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2025年03月30日 18:30  BCN+R

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へたくそな絵をみるみるブラッシュアップしてくれるAI機能「コクリエーター」でマグカップを描いてみた
 激安AI PCをAmazonで購入した。CPU(SoC)に英・QualcommのSnapdragon(スナップドラゴン)X Plusを採用したモデルだ。参考価格が12万9800円(税込み、以下同)のところ、割引価格が8万8645円。これに7978ポイントがついて実質8万667円、37.9%引きで買うことができた。Snapdragon Xシリーズのグレードは一番下。メモリーは16GBでストレージが512GB。マイクロソフトが提唱するAI PC、Copilot+ PCとしては最低レベルのスペックだが、価格も最安クラスだろう。具体的なモデルは、LenovoのIdeaPad Slim 5x Gen 9(83HL001FJP)。現在でも10万円前後で売られている。AI PCなるものを実際に試してみたかったのと、何よりARMアーキテクチャCPU搭載のWindowsマシンを使ってみたかった。そして激安だった、というのが購入の動機だ。ディスプレイは14インチで、重量が1.48kgありやや重いが、持ち歩けない重さではない。筐体は金属製。耐久性はありそうだ。ストレージはPCIe NVMe/M.2 SSD。2242とやや短めのタイプだ。残念ながら空きスロットはないので増設はできない。いろいろと問題が多いと言われているSnapdragon搭載のこのPC。果たしてどこまで使えるのか?

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 新PCが搭載しているSnapdragonは、そもそもの構造からしてIntelやAMDのCPUとは全く異なる「ARMアーキテクチャ」を採用している。そのため、互換性の問題から敬遠する向きもあるようだ。確かに、従来のOSやソフトは、本来互換性がない。しかし、まずOSについては、マイクロソフトがARMアーキテクチャ用のWindows11を開発、提供しており、問題なく走る。見た目も使用感も従来のWindows11と全く同じだ。さらに、ソフトもARMアーキテクチャ用に作られたものが必要になる。現状でも、マイクロソフトOfficeの各ソフトが対応。他社製ソフトも対応製品が徐々に増えてきた。一方、IntelやAMDのCPUが採用する、従来型のX86やX64といったアーキテクチャ用のソフトでも、実はそのまま問題なく動く場合が多い。ARM版のWindows11には、従来ソフトでも動かせる仕組みを備えているからだ。実は、マイクロソフト自身もSnapdragonを搭載したPC「Surface Pro」を発売。ARMアーキテクチャ対応を推進しており心強い。ただ、ソフトによっては動かなかったり、挙動がおかしいものがあったりするので注意は必要だ。特にゲームでは動かないものが散見される。ゲーマーにとっては、まだ手を出しにくいだろう。

 ゲーム以外ならほぼ問題ない、とはいうものの、試してみなけりゃわからないのがPCの世界。やってみたらやっぱり動かなかったということも「あるある」。特に長年愛用している古いソフトが動くかどうかは情報もなく、半ばギャンブルだ。結論から言えば全くと言っていいほど問題なかった。一番の目当ては、動画編集ソフトDaVinci Resolve Studio。旧マシンではパワー不足で動かなかったソフトだ。これはARM対応版がリリースされているため、もちろん問題なく動いた。重い作業は時間がかかるものの、普通に利用可能だ。マイクロソフトOfficeもARM対応版があるため、おおむね問題なく動く。しかしTeamsは、時々チャット入力を受け付けなくなるバグがあるようだ。それ以外のWord、Excel、Power Pointなどは普通に利用可能。オンライン会議ソフトのZoomも普通に利用できた。WebブラウザのGoogle ChromeもARM版があるので、問題なく動作する。ARM版のない旧来ソフトも、私が使っている範囲では全く問題なかった。メールソフトのThunderbird、現像ソフトのSylkypix 11 Pro、日々原稿書きに愛用している古いソフト、WZ EDITOR 6の動作も快適。動作スピードもサクサクだ。

 Snapdragonは主にスマートフォン(スマホ)に採用されているCPU。スピードなどの基本性能もさることながら、省電力性能が特に優れている。要するにバッテリーの持ちがいいのだ。モバイル機器を前提として設計されているためだ。湯水のごとく電力が使える環境を前提に設計された、IntelやAMDのCPUとは全く異なる。新PCのバッテリーも、非常に長持ちする。JEITA2.0基準での使用時間は約20.3時間。とはいえ、これは鵜呑みできない。JEITA2.0基準では、普通に使う実利用時間は3分の1程度。つまり、大体6〜7時間は使える計算だ。実際使ってみると、これぐらいは余裕で連続使用できる。テキストエディタで文章を書いたり、Webサイトを閲覧したり、オンライン会議を行ったりといった軽めの用途なら、7時間ぐらいは普通に使える。インターネットにWi-Fiで接続し、有線ヘッドセット、USB-C接続の外付けSSD、無線トラックボールをつなげた状態でこの程度の持ち。これなら、日常業務を内蔵バッテリーだけで運用しても、ほぼ問題ないレベルだろう。

 旧PCの連続使用時間が、JEITA2.0基準で約12.0時間だった。つまり、実利用時間は3〜4時間程度。AC電源が確保できないところで使うのは厳しい。基本的にはACに接続して使う、という利用形態だ。その際は、Lenovo PCに搭載されている「バッテリー保全モード」を活用していた。充電は60%で自動的にストップ。あとはバッテリーを経由せずにACで使えるモードだ。これでバッテリー寿命がずいぶん伸びる。しかし、ACが確保できない場合は極端に利用時間が短くなる。ACのない場所では、まず常に持ち歩いている25.6Ahの大容量モバイルバッテリーから給電しながら利用。モバイルバッテリーが空になったら、60%充電してある本体のバッテリーを予備的に使う、というスタイルだ。これで、大体8時間程度は利用できた。外でPC作業をする場合は基本、AC確保を優先した作業場選びになっていた。

 新PCにはひとつ問題があった。前述した「バッテリー保全モード」がないことだ。本来ならLenovoが提供するPC管理ソフトVantageに入っている機能のはずだが、それがない。サポートによると、今後もバージョンアップなどで付け加える予定はない、という。そのため、ACが使える環境であっても基本はバッテリー運用、ということになる。Snapdragonの制約とも思われるが、AC環境ではバッテリーを消費せずに済むよう、なんとかこの保全モードは備えてほしいところだ。とはいえ、バッテリー運用中心でスマホ気分でPCを使えるのも気楽でいい。ちなみにAI性能が高いのも、Snapdragon Xシリーズの特徴。しかし、本体搭載のAI機能はまだまだ発展途上だ。現時点では遊びで使える程度だと感じた。今後対応ソフトが増えてくれば、状況も変わってくるだろう。(BCN・道越一郎)

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