日本のIT職の給与「中国・香港の半分以下」 問われる経営陣の決断力

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2025年03月30日 19:20  ITmedia ビジネスオンライン

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ヘイズ・ジャパンのグラント・トレンズ氏

 生き残るためにデジタル化を迫られている日本企業。喉から手が出るほど欲しいのが高度なデジタル人材だ。だが、これまでの年功序列型の賃金体系では、獲得するのが非常に難しい。


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 外資系の人材紹介会社ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパン(東京都港区)は、2024年に仲介した同社の人材紹介取引で判明した各国の給与水準と、雇用実態調査「2025ヘイズアジア給与ガイド」を発表した。同調査は2024年9〜11月、アジア6カ国・地域の社会人8790人を対象にインターネットで実施。内訳は中国が2134人、香港が746人、日本が1442人、マレーシアが2682人、シンガポールが1519人、タイが267人だ。


 同社が発表した給与水準によれば、中国やシンガポールと、日本の格差拡大があらためて浮き彫りになった。主なIT職の給与を各国別に年収で比較すると、データサイエンティストでは、中国が5400万円から2600万円、香港が5100万円から2400万円、シンガポールが3500万円から2100万円。一方の日本は2400万円から1600万円と、中国と香港とは倍以上の開きがある。日本より低いのはマレーシアだけだ。


 幹部クラスのCFO(最高財務責任者)でみると、中国が1億800万円から2600万円、香港が1億100万円から2200万円、シンガポールが6900万円から2800万円なのに対して、日本は5000万円から3000万円と大きな開きがある。


 「日本のハイクラスIT人材の給与は、中国やシンガポールと比較して大きく見劣りしている。日本が国際競争力を維持するためには、成果やスキルに見合った報酬制度を導入し、賃金を国際水準に速やかに見直す必要がある」(調査での提言)


 日本企業の経営者は、ITの高度人材を求めている。だが実際には、将来への経営リスクに備えて内部留保を積み増し、株主配当の引き上げを優先している状況だ。IT人材の給与改善に資金を振り向ける企業はまだ少ない。日本企業の“喫緊の”課題を、ヘイズ日本代表のグラント・トレンズ氏にインタビューした。


●中国と香港は日本の倍以上の高給 「2025年の崖」も課題に


 実力主義が当たり前のIT業界で、日本企業の給与水準が低いことは数年前から指摘されてきた。ヘイズが公表した世界各国の給与水準によって、中国やシンガポールなどとの格差拡大があらためて明確になった格好だ。


 加えて日本企業は「IT人材の崖」に直面している。


 IT人材の不足は2018年から経済産業省のレポートでも指摘されてきた。2030年には45万人〜80万人も不足すると予想。「2025年デジタルの壁」に直面すると言われてきている。2018年9月に出された報告では「少子高齢化の中で新人の採用が困難な中、人材の確保は一段と厳しくなり、このまま放置しておくと、2025年以降日本経済は最大で年間12兆円の損失を被る可能性がある」と警告している。


 十分な対応をしないと、日本のユーザー企業は爆発的に増加するデータを活用できず、データ競争で敗者となり、ベンダーもクラウドベースの競争に負けてしまうと予想。この状況を防ぐため、2025年までにレガシーシステムを集中的に刷新する必要があるとしている。


●満足度も低く、転職傾向強まる


 トレンズ氏は「給与面と仕事面の両方で、日本のビジネスパーソンの満足度は、ほかのアジア諸国と比べても低い」と指摘する。


 「アジア企業の仕事満足度が64%なのに対して、日本企業の満足度は39%しかない。一番大きな不満が給与水準の低さ。2番目は給与が自分の職責にマッチしていないことへの不満になっている。調査結果を見ても、他社へ転職する割合が、その実態を証明している。2024年に転職した人の割合は29%だった。2025年以降に『転職を希望する』とした人も66%と増加傾向にある。日本はアジアの中で、最も転職傾向が強くなっている」


 転職が頻繁に起こると、雇用している企業にとっては定着率が低くなり、企業イメージの悪化につながる。業績面への悪影響も懸念されるところだ。


●スキルアップできないことへの不満


 調査では、日本企業のIT人材が抱える不満の一つに、スキルアップする機会が少ない点を挙げている。現在多くの業務において、AIを使って効率的に実行する動きが強まっている。だが日本企業のプロフェッショナル人材では、AIの最新技術の訓練ができない企業が多く、こうした不満から退職するケースもあるという。


 一方、企業側はスキルアップには費用が掛かるため、消極的になりがちだ。こうした姿勢の企業には、優秀なIT人材が集まりにくくなると指摘する。ITの世界は日進月歩のため、常に最新の技術を身に付けておく必要があるためだ。人材を採用したら終わりでなく、こうした人材を引きとめておくためにも、十分なスキルアップの場を提供することが求められている。


●日本企業の56%が「人員を増やす」 昇給する企業も増える


 今年は日本企業のうち56%が人員を増やすと回答した。これは前年の数字より10ポイントも増えていて、企業側の採用意欲が強いことがうかがわれる。今年に入って、より多くの日本企業がIT人材の給与アップに関心を持ち始め、最大5%の上昇を目指す企業が増えているという。「これは企業が優秀な人材を維持して競争力をつけていかざるを得ないと考え始めていることの表れ」だと分析している。


 国際的な競争に取り残されないために、人を増やし給与もアップしていこう──。この姿勢が、日本企業にも見えてきたようだ。ただアジア諸国との給与面の格差は依然として大きい。さらなる改善をしない限り、この格差は縮小しない。


●「経営者の意識改革が必要」


 トレンズ氏は、日本企業のIT人材の低賃金を改善するために、以下のようなことが必要だと提言した。


・給与の見直し。パフォーマンスベースの賃金に改める


・スキルアップするための制度


・社員の実績を公正に評価するEVP(バリュー評価計画)の導入


 「IT人材の給与を改善する答えとしては、結論的には経営者がマインドセット(意識改革)するしかない。すでに日本ではIT人材が不足していて、倒産する企業も増えてきた。経営者はこのことに気付き、早急にIT人材の給与体系を見直すべきだ」


 IT人材の獲得競争は日本だけでなく、海外でも激しくなっているという。国内だけでは優秀な人材を確保できなくなっているため、海外で調達を増やす動きもある。しかしIT技術に関して評判の高い大学の卒業生(主に修士課程卒業)は、就職時に給与の高い企業を選ぶため、欧米や中国系企業を選択する傾向が強い。


 こうした厳しい状況の中で、優秀なIT人材を獲得するには、海外の大学にまで足を運び、日本企業の良さを直接PRする必要性も出てきている。


●問われる経営陣の決断力


 多くの社員が年功序列の賃金体系で勤務する中、日本企業ではデジタル系の人材だけを実力主義によって特別に処遇することへ抵抗感がまだ残っている。これを緩和するため、数年前からニトリやカインズなど一部の大手では、本社と別の小会社を設立し、その子会社でデジタルIT人材を採用する形を取る動きも出てきた。


 数年前に富士通、NECなどが優秀なIT人材に数千万円の年収を支払うといった特別な人事制度を設けた。その後、採用活動で成果があったという話もあまり伝わってこない。仮に一人だけ飛び切り優秀な人材を獲得できたとしても、最近の先端技術開発はチームワークを持って取り組む傾向が強く、なかなか具体的な成果に結び付きにくい実態もある。


 このような環境の中で、どれだけの企業利益をIT人材の給与改善に振り向けていけるのか。経営陣の決断力が問われている。


(中西享、アイティメディア今野大一)



このニュースに関するつぶやき

  • トロンOSとか作ってもアメリカに潰されたりするからなぁ。テレビ局とかの既得権益が危ぶまれる新技術やアイデアは邪険に扱われるし。優秀な技術者を雇っても、宝の持ち腐れになったりね。
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