倍率“100倍超” 応募殺到の甲子園開催「ドコモ未来フィールド」に潜入した

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2025年03月30日 19:51  ITmedia ビジネスオンライン

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NTTドコモが取り組む社会貢献事業「ドコモ未来フィールド」

 「ミスるかもしれん」


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 「ミスってもええんや。思い切りいけ。おー、ホームラン!」


 阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)の室内練習場でティーバッティングをする小学生。そのかたわらには一際身体の大きな男性が。北海道日本ハムファイターズ、オリックス・バファローズ、そして阪神タイガースで活躍した元プロ野球選手の糸井嘉男さんだ。奥のバッティングゲージには、同じく元プロ野球選手の今成亮太さんの姿も見える。


 指導を受けているのは、小学1年〜6年生の30人。約1時間半みっちり、ピッチング練習とバッティング練習が行われた。


 実はこれ、単なる野球教室ではない。NTTドコモが取り組む社会貢献事業「ドコモ未来フィールド」の一コマである。ドコモ未来フィールドとは、子どもたちがさまざまなプロの世界を体験できるプロジェクトのこと。2023年8月にスタートし、NHK交響楽団、大宮アルディージャなどとタッグを組み、文化およびスポーツに関する体験プログラムを提供してきた。


 NTTドコモ ブランドコミュニケーション部 コーポレートブランド担当主査の島﨑大介氏は、立ち上げた背景を以下のように語る。


 「文部科学省のデータによると現在、夢を持つ子どもたちが減少しています。未来に明るい希望を持てるよう、ドコモでできることはないか、ただ金銭的な支援をするだけでなく、企業や団体と協力して、より世の中にとって価値のあることができないかを考えました」


 その上で、本施策は「子どもたちに夢を、あるいは夢に近づく目標を持ってもらうためのもので、協賛などでつながりのあるパートナー企業とともに、スポーツや文化、学術などの体験機会の場を提供している」と説明する。


 「子どもだけを対象にするのではなく、保護者向けの体験プログラムも用意し、家族で将来を語るきっかけづくりができるよう、他部門や地域の支社とも連携し、復興支援や地域貢献も拡大しています」


 そして2月22日、通算17回目となるドコモ未来フィールドが開催された。過去にはサッカーをはじめ、ラグビー、ボクシングといったスポーツを題材にしたイベントはあったものの、野球は今回が初めて。しかも阪神甲子園球場が舞台ということもあって応募が殺到した。


 通常は倍率10倍程度とのことだが、この回は100倍以上。子どもと保護者などのペア30組の枠に対して全国から3000組を超える応募があった。最も遠方からの参加者は横浜市からやってきた親子。アツヤくんは現在小学6年生で、学童野球チームでは投手と中堅手を務める3番打者だ。


 「(今日掛けられた声で一番印象的だったのは)今成さんにもう少し前のポイントで打つようにと言われたこと」と、技術的な指導が心に響いたようだ。


 本稿では同日のイベントの模様とともに、このプロジェクトに対するNTTドコモの狙いなどをお伝えする。


●早々に写真撮影スポットがお目見え


 「皆さん、おはようございます!」


 本イベントの立案者の一人であるNTTドコモ ブランドコミュニケーション部 コーポレートブランド担当・三浦海帆氏がこう挨拶すると、参加者から一斉に大きな声で返事があり、拍手が巻き起こった。


 定刻の午前10時30分を少し早まるタイミングで、「第17回 ドコモ未来フィールド」が幕を開けた。三浦氏による一日の流れや注意事項などのオリエンテーションが終わると、参加者は控え室から通路に出て列を作るように促される。


 スタジアムツアー案内役の男性から説明があった後、一同が前方に注目すると、壁からパネルがゆっくりと降りてきた。そこは、阪神甲子園球場での試合後にタイガースの選手がインタビューを受けるスペースであることが判明。早くもその場で記念撮影が行われた。


 撮影が一巡したところで、参加者たちは再び列を成し、案内に従って通路を歩いていく。しばらくして到着したのは、一塁ブルペン。阪神甲子園球場が提供する有料のスタジアムツアーでは、三塁ブルペンを見学することはできるものの、一般の人たちが一塁側に入るのはかなり異例のこと。球場のスタッフに聞くと「ほんまにレアですよ」と何度も強調していた。


 ここでは20分ほど自由時間に。各々、マウンドに立って投球ポーズをとったり、打席でスイングしたりして、和気藹々(あいあい)と撮影に勤しんでいた。


 余談だが、ブルペンマウンドの固さに驚いたため、先述のスタッフに尋ねたところ、メジャーリーグベースボール(MLB)仕様になっているからだという。当然、球場の実際のマウンドも同じ固さだ。そのために特注の土を取り寄せているそうだ。多くの日本人選手がMLBを目指すようになった今、時代の流れだといえよう。


●岡田監督も座ったベンチ


 一塁ブルペンを後にした参加者たちが向かった先は……。なんとグラウンド内だった。午前のプログラムのメインイベントである。


 アルプス席とSMBCシートの間にある通用口からグラウンドに出て、ファールゾーンを歩き、一塁ベンチへと辿り着く。この場所もなかなか一般には開放しないため、実に貴重な体験となった。参加者は大人も子どもも大興奮だ。「あ、ここは岡田(彰布)監督が座っていたとこやな」などと口にしながら、感慨深い表情で撮影をしたり、ベンチに腰をかけたりしていた。


 さらには、スタッフが甲子園の土を手にして登場。触るだけならOKとのことで、その場の全員が前のめりに。筆者も体感してみたところ、サラサラとしていながらも、適度な粘度もあり、少し触っただけだが手にはしっかりと土がこびりついていた。


●元プロ野球選手が子どもたちを熱血指導


 正午からは約1時間のランチタイムである。参加者はプレミアムラウンジでビュフェ形式の料理を楽しんでいた。このラウンジも入場するためのハードルは相当高い。90万円を超えるプレミアムシート会員で、かつ年間予約席の1席につき約40万円を支払うことで初めて利用する権利を獲得できる。


 腹ごしらえをしたら、午後のプログラムである野球教室だ。一度、阪神甲子園球場の外に出て、近接する室内練習場へ。広さ3600平方メートルほどのスペースに、バッティングネットやベース、簡単なトレーニング機材などがある。もはや説明するまでもなく、一般の人々が室内練習場に立ち入ることも滅多にできない特別な体験である。


 参加者が集合し、司会役を務めたタレントのせきぐちりささんの話に耳を傾けている。一通り説明が終わると、せきぐちさんから呼び掛けとともに、糸井さん、今成さんが後方のドアから練習場へと入ってきた。わーっと歓声が上がる。


 2人から簡単な挨拶と自己キャリアの振り返り紹介があった後、学年別の3チームに分かれて野球教室がスタート。トスバッティング、ティーバッティング、そしてピッチングの3種類の練習をローテーションで体験した。


 トスを担当した今成さんは子どもたちに対して常に明るく、大きな声で接していたのが印象的だった。もちろん具体的な技術指導も欠かさない。その教えに従って子どもがスイングすると怪音が。その音に負けじと今成さんも「ナイス!」と声を張り上げる。


 ティーを任された糸井さん。こちらも明るい。そしてジョークなどをよく口にすることで、子どもたちの気持ちが和んでいるのがよくわかる。とにかく褒めて、褒めて、褒めまくる指導スタイルが目を引いた。


 ピッチングは元プロ野球選手の歳内宏明さんが一人で回していた。ハイテンションではしゃぐようなことはなく、クールな口調や振る舞いだったが、子どもたちも「気の良い兄ちゃん」という感じで親しげにコミュニケーションをとっていた。


 あっという間に1時間以上が経過し、プログラムはすべて終了。最後は記念品を受け取りながら、元選手たちとハイタッチして、参加者は会場を後にした。


 地元から参加した親子に話を聞くと、何よりもたくさん褒められたことが印象に残っているという。小学6年生のルナさんは「練習が一番楽しかった。バッティングが一番褒められた。今成さんとかに打つのが上手いねと」と振り返る。中学校でも野球を続けたいと話す。


 「野球教室は初めての参加で、野球を始めたのも1年前くらい。でも、さっきハイタッチする時も、『あ、野球めっちゃ上手い子や!』と言われていたから、とても嬉しかったです」と、母親も満足げな表情を浮かべていた。


●今後は事業にも貢献していく


 今回のイベントを企画した三浦氏は、本来の所属は法人営業部。社内ダブルワーク制度で、所定労働時間の2割ほどを、ドコモ未来フィールド事業を主幹するブランドコミュニケーション部での活動に費やしている。阪神甲子園球場とのプロジェクトは1年前にキックオフしたが、基本的にはスムーズに進行したそうだ。


 「当然、できること、できないことはありましたが、ドコモ未来フィールドはプレミアムな体験を届けて、夢を応援するものだという趣旨をご理解いただけたので、逆に球団側から『これだったらプレミアムな体験になるのでは』と提案くださったものもありました。例えば、通常なら入れない通路もあったのですが、撮影NGであることを条件に了承いただきました」


 同事業が掲げるコンセプトを十分に体現できたと三浦氏は胸を張る。


 島﨑氏は、1年半ほど取り組んできたドコモ未来フィールドについて一定の手応えを感じている。参加希望者は増加傾向にあり、上述したように今回のイベントは倍率が100倍を超えた。3月29日に開催予定の国立科学博物館との企画も非常に多くの応募があったそうだ。そうした状況もあり、従来とは違った形のプログラムも考えていきたいとする。


 他方で、この事業を継続するためには、社会貢献だけで終わらせず、事業貢献という視点も必要になってくるという。具体的にはCRM(顧客管理)システムと連携するなどして、マーケティング活動にも生かしたいと話す。


 「応募がかなり増えてきていますので、今後は参加できなかった方にも何かお届けするようなコンテンツが必要だと感じています。一方で、参加者ともずっとリレーションを構築できるようなプロジェクトにしていきたい。現状の課題はCRM的な要素がまったくないことです。メールマガジンに登録させていただき、こちらから発信していくことも検討したいです」


 なお、野球をテーマにしたイベントは、目下、タイガース以外の球団とも交渉中だという。児童の野球人口は減少傾向にあるとはいえ、まだまだスポーツの中では人気であることを、今回のイベントを通じて再確認したようだ。ドコモ未来フィールドの認知拡大という点でも、さらなる盛り上がりが十分に期待できるだろう。


(フリーランス記者 伏見学)



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