月面資源開発に取り組む宇宙スタートアップispace(東京都中央区)と中央大学は、内閣府のムーンショット型研究開発制度プロジェクトの実施に向け、小型AIロボット群を月へ輸送するための技術検討に関する覚書を締結した。この締結により、2028年以降のミッションで中央大学が開発した小型AIロボットを輸送し、月の地下にある「溶岩チューブ」探査を実現する。
●小型AIロボット群 月面探査の未来を切り開く
ispaceの月面輸送技術と、中央大学の最先端ロボット技術を組み合わせることで、日本の宇宙探査技術の発展を加速させる狙いがある。
内閣府ムーンショット型研究開発制度とは、内閣府の政策である日本発の破壊的イノベーションの創出を目指して、従来技術の延長にない発想に基づく研究開発を推進するプロジェクトだ。同プロジェクトの「中央大学國井ムーンショット」は、同大学理工学部の國井康晴教授が主導。生物の群れのふるまいを模した人工知能である「群知能」を活用した小型ロボットの開発を進めている。
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各ロボットは単体では低機能であるものの、分散搭載された高度なネットワーク知能によって組織化・制御されることで、群全体として月溶岩チューブ内部の探査、居住適地の調査、球形ロボットコンテナの搬送など、多様なミッションを遂行する。
月溶岩チューブは、日本の月周回衛星「かぐや」によって発見された、溶岩流によって形成された洞窟だ。内部は温度変化が少なく、放射線や微小隕石の影響を受けにくいため、将来的な有人探査基地の建設候補地として期待されている。
このプロジェクトは、2024年に月面で活動したLEV-1(Lunar Excursion Vehicle 1、レブワン)の後継のプロジェクトだ。レブワンは、JAXAの宇宙科学研究所、東京農工大学、中央大学が共同で開発した小型の月面プローブ。中央大のロボット技術に加えて、このLEV-1の月面での実績技術は、ispace社にとっても有益なものとなる。
月面溶岩チューブ横穴内部のミッションを実施し、研究開発に必要となる情報を得られれば、本格的な月面都市の開拓フェーズが始まる。國井教授は「中央大学國井ムーンショットPJ(プロジェクト)のチームのAI・ロボットによる探査ミッション技術と、ispace社の輸送技術の相乗効果により、わが国の宇宙探査技術から次の日本・世界初が生まれ、さらに月面の地下空間をはじめ難環境領域の将来的な利用可能性を明らかにできる」と意義を語った。
河合久学長も「中央大学の研究開発が宇宙時代をリードし、未来を拓いていく原動力となる」とコメント。「本プロジェクトが所属する中央大学研究開発機構を軸として、産学官連携による挑戦的な研究をさらに進めていく」とした。
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ispaceは、日本・米国・欧州に拠点を持ち、グローバルに宇宙開発事業を展開している。 2025年1月15日に日本法人が主導するミッション2の打ち上げを完了し、最速で6月6日に月面着陸を予定している。その後、2026年には米国法人が主導するミッション3、2027年には日本開発のシリーズ3ランダーを活用したミッション4の実行を計画しているという。
今後、ispaceはペイロードサービスやデータサービスを通じて、政府・企業・教育機関の宇宙探査ニーズに対応していく。CEO&Founderの袴田武史氏は覚書の締結に対して「当社が内閣府ムーンショット型研究開発制度のプロジェクトに月面での技術実証の機会を提供していることを示す新たな事例。当社のビジネスモデルの一環として、ispaceは顧客のニーズに合った着陸地点への輸送サービスを提供することで、先駆的なプロジェクトを支援していく」とコメントした。
(小松恋、アイティメディア今野大一)
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