NECは2021年5月、「NEC 2030VISION」を発表した。これは2025中期計画の延長線上にある将来をまとめ、2030年までの中長期的な社会像を描いたものだ。その中で、同社の技術進化の方向性を示すものとして技術ビジョンも定めている。
NECは「量子コンピュータ」「衛星ネットワーク」「生成AI」、AI創薬などの「ライフサイエンス」といった4つの技術ブレークスルーを捉えて技術ビジョンを策定。積極的に研究開発に投資している。
この4分野の中で、特に生成AIは「インターネット以来の技術革新」と見る向きも少なくない。NECは、他の3つの先端分野も同列に重要視し、研究開発を進めている。同社は、どのような判断のもとに先端技術に投資しているのか。西原基夫CTO(Chief Technology Officer)に聞いた。
●100年に1回のテクノロジー変革 しかも4つ同時
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――NECでは、DXブランドの価値創造モデル「BluStellar」(ブルーステラ)の中で、新しい技術開発に積極的な投資をしています。こうした技術開発投資について、どのように考えていますか。
私は量子コンピュータと衛星ネットワーク、生成AIとライフサイエンスの4つの領域において、100年に1回起きるかどうかのテクノロジー変革が一度に起きているという印象を持っています。NECは、この4領域のいずれに対しても研究開発に取り組んでいます。
私もインターネットの勃興を見てきましたが、生成AIはこれと同等以上の変革だと捉えています。一方、過去の歴史を振り返ってみると、100年前にも同じことが起きています。1901年、イタリアのマルコーニが、欧州から米国に対して無線通信に成功しました。そしてその後、無線通信の進化とともに電話や電信が発展していきました。
これらの技術は実は全て、実験をやったらできたようなものなのです。これらの技術が理論化できたのは、1948年にMIT(マサチューセッツ工科大学)出身のクロード・シャノンが発表した「通信の数学的理論」という論文の賜物(たまもの)です。これにより、初めて情報というものが理論化できました。
われわれが研究開発をしている通信技術は、全てシャノンの理論をベースに発達してきたのです。他の革新的技術も、最初の50年間は実験ばかりしてきて、多額の投資があって生まれるような感じなのです。つまり100年に1回起きるテクノロジーのスタートには、その実験の段階があるわけです。
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私自身、生成AIは今そういう時期だと思っています。生成AIに関する論文はすごく増えています。そしてそれらのほとんどが、「ニューラルネットワークをこんなふうに考えたらこんなことができました」といったような実験的な論文です。生成AIに関する理論は、実はまだできていません。なぜ生成AIが動くのかは、まだ正しく理解できてないのです。
●技術ビジョンによって適切な投資を
――このような時流の中で、NECはどのように研究開発についての判断をしているのでしょうか。
こういう時期には、技術ビジョンを持つことが非常に重要です。なぜかというと、さまざまな技術革新に惑わされると、ものすごく多額の投資をしなければいけません。投資の判断を見誤ると、オーバーインベストメント(過剰投資)や、またはアンダーインベストメント、投資しなきゃいけないのに投資をしないという話になってしまいます。
やはりテクノロジーのトップの人たちを世界中から集めて「このテクノロジーはどこまでいくのか、どのフェーズなのか」ということをきちんと把握しながら、研究開発に投資しなければ、決定的な判断を見誤ってしまいます。
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一方で、先ほどの無線の例でいいますと、事業化するのに何十年もかかりました。100年前は30〜40年かかったものが、今では事業化までに3〜5年で終わってしまいます。こうした中で私が社内で言っているのは、技術ビジョンを作り、それを社外の人ともブラッシュアップして事業を組み立てることの重要性です。
NECの強みは世界中に研究者がいて、おのおのがアカデミックレコードを持つなどレベルが高いことです。半分弱の研究者が海外拠点所属なので、世界中の情報が集まってくるわけですよね。それで技術ビジョンを作り、2021年から外部公開しています。
――顧客への関係性は、どのように考えていますか。
多くの顧客にとっても、世界中に研究者を持ち、技術に詳しい企業の存在は貴重なはずです。当社は2024年11月から「先端技術コンサルティングサービス」として研究者が持つ最先端の技術知見の顧客への情報提供もしています。これはブルーステラの一環にもなっています。
NECは、トーマス=エジソンの部下の1人だった岩垂邦彦さんが126年前に創業したのが始まりです。米国から通信電話機を輸入して販売したことがスタートでした。ですから、テクノロジーをとにかく最重要視していたのです。
利益の出し方もさまざまです。成熟した技術でいかに信頼性の高い製品を作るかという考え方もあるでしょうし、先端技術によって社会をリードするものを作り、貢献するやり方もあると思います。
NECはテクノロジーの会社なので、どちらかというと後者を好む傾向にあります。幸いにして、グローバルでトップの技術分野がいくつかあります。それがあるうちは、それを生かす意識で技術開発をしていきたいですね。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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