専門家「国のやり方不十分と判断」 鬼怒川氾濫訴訟判決、ポイントは

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2025年03月31日 07:46  毎日新聞

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毎日新聞

大雨で鬼怒川(右上)から水があふれ、冠水した住宅街=常総市で2015年9月10日午後4時33分、本社ヘリから長谷川直亮撮影

 1984年の大阪府大東市の水害を巡る訴訟の最高裁判決以降、各地で提訴された水害訴訟で住民側の敗訴が続いてきた。河川の改修には費用も時間もかかり、用地の制約もあるため、特別に不合理な点がなければ、行政の責任は問わないという考え方が最高裁判決で示されたからだ。常総水害訴訟では1、2審ともに国の責任を一部認めた画期的な判決と言われている。弁護士と水工学の専門家はこの判決をどう読み解いたのか。2回目は白川直樹・筑波大准教授に、河川管理の観点から判決の意義を聞いた。【信田真由美】


 水害訴訟で国の主張が認められないことは珍しい。判決では砂丘が堤防の役割を果たしていたという住民側の主張を認めて、国が開発を制限できる「河川区域」に指定しなかったため、砂丘が掘削されたとした。国の今までのやり方が不十分と判断された。


 砂丘は大雨で川が増水した時に川の外側まで水と砂が運ばれ、水だけ引いたためにできたものだ。同じような場所がどこにでもあるわけではないが、国は全国の河川区域の指定の仕方を見直す必要がある。


 現場の砂丘は砂の質が良く、建設の材料に使うため採取が何十年も前から続いて、砂が少なくなっていた。そして民間事業者が太陽光パネルを設置するために掘削してしまった。


 国は河川区域に指定した方が安全度が高まることは分かっていただろうが、土地を所有する個人の権利を制限しないよう、指定は最低限に抑えていたのだと思う。今後は国や県などの河川管理者が第三者に改変されないよう積極的に制限をしたり、土地を行政の所有にしたりなどしなければならない。


 一方で、河川整備計画の立案時に使われた、堤防の高さだけでなく幅も考慮した評価方法は、不合理ではないという国の主張が認められた。河川の氾濫は、水位が堤防の高さを越えて水があふれる場合だけでなく、水が堤防の内部に浸透し、壊れる場合もある。浸透による堤防破壊を防ぐには堤防の「質」が重要になる。本来であれば、堤防の土質や密度を計算すべきだが、煩雑なので幅を使って浸透に対する強さを評価しているのが現状だ。


 住民側は浸透による堤防破壊の事例は越水よりも少ないから高さを優先すべきだと主張した。しかし浸透の事例が少ないのは、浸透が起きると堤防に欠陥があることになるので、起きないよう行政が対策に力を入れているからだ。幅が足りない地域に住む人は欠陥のない堤防にしてほしいと考え、高さが足りない地域に住む人は高くしてほしいと願う。幅を全く無視して良いものではない。


 浸透が原因で洪水が起きると、より深刻な被害が出る可能性がある。雨量から越水する時期を予測でき、洪水量も分かるが、浸透の場合はより少ない流量で破堤する可能性があり、破堤した瞬間に大量の水が流れ出るため対策を取りにくい。そういう意味で妥当性があると判断されたのだと思う。


しらかわ・なおき


 1972年生まれ。東京大大学院工学系研究科修了。博士(工学)。同研究科の助手などを経て、2010年から筑波大准教授。国に河川管理のアドバイスをする「リバーカウンセラー」を務める。専門は水工学。


常総水害訴訟


 2015年9月の関東・東北豪雨で浸水被害を受けた住民ら20人が、鬼怒川が氾濫したのは河川管理に不備があったためだとして国に損害賠償を求めた訴訟。1審・水戸地裁、2審東京高裁では国の責任を一部認めた。住民側、国側双方が上告した。2審では水があふれた若宮戸地区は1審判決と同様に堤防の役割を果たしていた砂丘を国が開発を制限できる「河川区域」に指定しなかったことについて国の責任が認められた。ただ、賠償額は約2850万円で1審から約1000万円減額。堤防が決壊した上三坂地区では河川整備計画を立てる時に用いた堤防の評価基準が誤っていると住民側は主張したが、1審同様、認められなかった。



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