人間の脳がガラスに──火山噴火で埋まった古代ローマ都市、遺体の頭蓋骨に“黒曜石”似の物質 海外チームが分析

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2025年03月31日 08:30  ITmedia NEWS

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 イタリアのローマ・トレ大学などに所属する研究者らが発表した論文「Unique formation of organic glass from a human brain in the Vesuvius eruption of 79 CE」は、西暦79年のベスビオ火山噴火で埋没した古代ローマ都市ヘルクラネウムで発見された人間の頭蓋骨内から、黒く光るガラス状物質が発見された研究報告である。これは“脳がガラス化”したと思われる世界で唯一の事例だ。


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 研究対象となった人間の遺体は、ヘルクラネウムのコレギウム・アウグスタリウム(アウグストゥス帝を祀る公共建築物)内のベッドで発見された20歳前後の若い男性(管理人の可能性が高い)とされている。


 彼の頭蓋骨内から発見された黒く光沢のある物質は、外見的に黒曜石に似ており、電子顕微鏡による観察では神経細胞やニューロン、軸索などの脳の微細構造が例外的に良好に保存されていることが判明した。


 通常、有機組織がガラス状に保存されるためには、液体窒素による極低温での急速冷却(凍結保存)が必要とされる。有機組織は水分を多く含むため、自然界の常温では液体状態に戻り、保存されることはない。


 しかし、研究チームが示差走査熱量測定(DSC)やラマン分光法などの分析を行った結果、この脳組織は510℃以上の高温でガラス転移(ガラス化)したことが判明した。研究チームは、この特異な現象が生じた過程を下記のように説明している。


 「西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火の初期段階で、非常に高温(510℃以上)の希薄な火山灰雲が短時間通過し、犠牲者の体を瞬時に加熱した。頭蓋骨や脊椎の厚い骨が脳組織を直接的な接触から部分的に保護したため、脳組織は完全に蒸発することなく高温にさらされた」


 「その後、火山灰雲が散らばると周囲の温度は急速に下がり、脳組織が極めて速い冷却速度(1秒間に約1000度の冷却速度)でガラス化した。このガラス化した脳組織は、後に到達したより低温の火砕流堆積物に埋もれることで現在まで保存された」


 このガラス化した脳組織は、ヘルクラネウム地域で発掘された約2000体の犠牲者の中で唯一の事例である。これは、脳組織がガラス化するためには非常に特殊な条件が必要であったことを示している。


 Source and Image Credits: Giordano, G., Pensa, A., Vona, A. et al. Unique formation of organic glass from a human brain in the Vesuvius eruption of 79 CE. Sci Rep 15, 5955(2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-88894-5


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2



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