北海道の成長の鍵? 次世代ネットワークIOWNの実力を目の当たりにした

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2025年03月31日 10:10  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
電話線を用いたダイヤルアップ接続からデジタル方式のISDN、ADSL、光回線と、進化を続けた通信回線。無線による移動通信システムも3G、4G、5Gと発展を遂げました。



そして今、次世代の通信基盤として注目を集めているのが、NTTグループのIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)です。



実現したら私たちの暮らしや仕事はどう変わるのでしょう。北海道札幌市で行われたデモンストレーションの様子を取材しました。


フレッツ光回線とIOWN回線の差は一目瞭然!



会場は札幌市の大通にあるNTT東日本のビルの一室。この日は約3キロ離れたTVh(テレビ北海道)のビルととIOWN回線で結び、リモートプロダクションのデモンストレーションが行われました。



リモートプロダクションとは、テレビ局のスタジオシステムを遠隔で操作し、映像切り換えや加工を行うこと。将来的にはクラウド上のシステムで場所を選ばず番組が制作できたり、テレビ局間でシステムをシェアしたりすることも可能になると考えられています。


放送関係者が集まった一室には、大学生のよさこいソーランチームのメンバー3人がスタンバイ。これからテレビカメラの前で演舞を披露します。すぐ横にはIOWN回線とフレッツ光回線でつなげた大型モニターが並びます。



「ハッ」という威勢のいい掛け声と音楽に合わせて、よさこいソーランの演舞が始まると、観客の視線はモニターに釘付けになりました。



目の前の踊り手の動きとIOWN回線のモニターの映像が全く同じなのに対し、フレッツ光回線のモニターは明らかにワンテンポ遅れていたからです。


イベントの進行役を務めたNTT東日本の沖杏奈さんは、こう言います。



「私たちも実際に環境を整えて試してみるまで、どのくらい目に見える形になるか分からない部分があったのですが、はっきりと差をお見せすることができて良かったです」


コロナ禍を経てリアルタイムのオンライン会議が当たり前になったと思い込んでいましたが、まだその先があったなんて……。本当のリアルタイム通信のレベルに驚かされました。

IOWNを地域課題の解決や経済成長につなげるユースケースとは



デモンストレーションではIOWNのリアルタイム映像伝送を実感。しかし、その特長はこれだけではありません。



NTT東日本の瀧野祐太さんはIOWNの特長を「高速・大容量」「低遅延」「低消費電力」の3つと説明します。

「東京では遅延ゆらぎゼロのIOWNを活用し、遠隔ダンスレッスンを実証。スポーツの指導や吹奏楽の合同練習にも応用できます。また、青森県では遠隔医療の実証も行いました。医師の問診だけではなく、たとえば患者さんのご家族がグローブで触った感覚が離れた場所にいる医師にフィードバックされるような触診、将来的には遠隔手術も可能です。



ほかにも技術者が東京や札幌にいながら、港湾のタワークレーンを操作したり、トンネル工事など危険が伴う作業の遠隔操作にも活用できます」(瀧野さん)


NTT東日本と包括連携協定を結ぶ北海道の職員で、今回のデモ・実証にも連携する土田直樹さんもIOWNに期待を寄せます。



「北海道は土地が広く、IOWNの特長である『低遅延』のメリットをより生かせる場面が多いと思います。また道内では今、災害時のリスク分散もあって大型データセンターの開設が相次いでいますが、そうしたデータの伝送の面でも威力を発揮するのではないでしょうか」


北海道が大規模データセンターの設置先として選ばれているのは、災害時のリスク分散という視点に加えて、広い土地があること、ソーラー発電や洋上の風力発電など再生可能エネルギーのポテンシャルが高いことも理由になっていると言います。



ここにIOWNの「高速・大容量」「低遅延」「低消費電力」が加われば、誘致にもより弾みがつきそうです。

光電融合の技術で、省電力を実現



いまAIが急速に普及して、リアルタイムで処理が必要なデータが増え、それに伴って電力消費量が増加しているといわれます。そこで大きな優位性を持つのがIOWNの「低消費電力」という特性です。



PCやスマホの中の半導体チップの信号処理は現状、電気で行われていますが、この処理を光で行う「光電融技術」のチップに変えると、ネットワークの最初から最後まで電気を使わず光で通信が可能になるそうです。


「フレッツ光は光通信だと思われていますが、PCなどの電気信号を一度光に変えて通信会社まで持ってきて、宛先や目的に応じて光から電気に変え、さらに光に戻して目的地に送ります。電車にたとえると何回も乗り換えが必要で非効率なんです。IOWNはこれを最初から最後まで光のまま送る、いわば新幹線のイメージです」(瀧野さん)



いま全国でさまざまな企業や自治体と幅広いユースケースの実証を行っているほか、大阪・関西万博のNTTパビリオンではコンピュータの中のマザーボードの細かな配線も電気から光に変えて、IOWNの次のレベルでの実用化の一歩につなげる計画です。



IOWN構想が目指すのは電力消費100分の1。実現されれば、スマホの充電は数ケ月に1回で済むレベルなのだそうです。



日本の政府はこれから目指す社会をSociety5.0と銘打ち、「サーバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題の解決を両立する人間中心の社会」と位置付けています。



狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く新たな社会(Society5.0)。



IOWN構想はまさにその中核を担うインフラであり、デジタル技術がもたらすイノベーションはまだまだ発展しそうです。



井上由美 いのうえ・ゆみ 函館生まれ、札幌在住。広告制作会社のコピーライターを経て2000年からフリーランスのライターに。好きなものはコーヒーとお酒、紙の本、海の匂いと波の音、犬、子ども、お風呂。嫌いなものは戦争と原発と大声。 この著者の記事一覧はこちら(井上由美)

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