KENZO2020年に立ち上げ、現在は登録者数97万人超えをする人気YouTubeチャンネル『新宿109』。
当初はさまざまな企画を試行錯誤するも、自身が遭遇したマルチ商法の被害経験を活かしてマルチ商法組織や詐欺師に突撃して糾弾するチャンネルに方向転換したところ、チャンネル登録者数が急増。同ジャンルのYouTubeの中でもダントツの知名度と視聴再生数を誇る。
そんなチャンネルを運営するKENZOが、詐欺を撲滅する突撃系YouTubeを始めたきっかけ、悪質な詐欺師に拉致された驚愕の過去、今後の目標までを余すところなく語ってくれた。
◆ヤンチャをして10歳から児童保護施設で生活
――幼少期はどんな子供だったのでしょうか?
KENZO(以下、KENZO):シングルマザーだった母親と姉と暮らしながら、県内の借家や団地を転々として暮らしていました。
当時住んでいた団地の治安がよくなかったせいもあって、悪い先輩とつるんでは夜中まで遊んだり、万引きをしたりっていうヤンチャな生活が続いていて、最終的には不登校になりました。
母親がうつ病で生活保護を受けている家庭だったので、生活に不満を抱いていたことも非行に走った理由だったかもしれません。
そんな状況を見かねた母親が僕を10歳から児童養護施設に入れて、僕は高校3年までそこで育ててもらいました。
――児童保護施設ではどんな生活を?
KENZO:6時30分起床で18時に門限、就寝は21時。規則正しい生活を義務付けられていました。辛かったですけど僕自身も「変わりたい」と思っていたので、苦ではなかったです。
施設で生活していくうちに、団地で暮らしていたときより性格も丸くなっていきましたね。周りは中学校を卒業して就職する同級生も多かったのですが、僕は高校をちゃんと卒業して短大に進みました。
◆友人に誘われて“典型的なマルチ商法”に騙された
――更生して短大卒業間近になったころ、マルチ商法の被害に遭ったそうですね。
KENZO:短大2年生のときにチェーンのピザ屋でアルバイトをしていたんですが、悪気なく店内を撮影した動画をインスタグラムのストーリーに載せ、出勤停止処分を食らってしまったんです。
ただ、卒業まであと3カ月ほどだったので雇ってくれるバイト先が決まらず焦っていて、図書館で投資の本を読み漁るようになりました。
――投資に興味があったのですか?
KENZO:当時、ネットやSNSで投資やFXにまつわる広告や記事をよく見ていたからですね。やはり昔から裕福な家庭ではなかったことがコンプレックスだったので、若くして金持ちになっている人に憧れがあって……。
――その流れでマルチ商法の勧誘を受けることに?
KENZO:高校時代に同じ野球部だった友人に「稼いでいる知り合いがいるから紹介したい」と言われ、会いに行ったんです。
そしたら当日に友人が来なくて、知り合いのタカハシという若い男性と対面で話すことになり、ハワイの不動産を共同購入して家賃収入で利益を得るビジネスを紹介されました。
そういった勧誘を受けたことがなかったし友人の紹介だということもあって、タカハシの「今やらなかったらもったいない」という熱い言葉に乗せられて、その日にバイトで貯めていた60万円を払ってしまって……。
今思えば、典型的なマルチ商法のやり口で、マニュアル通りのセールストークや即決を促す手口でした。あのときの自分は本当に無知でした。
――たびたび『新宿109』の突撃動画でも見る光景ですよね。お金は戻ってきたんですか?
KENZO:地元の先輩に相談したときにようやく詐欺だと気づいて、解約手続きをして40万だけ戻ってきましたが、残りの20万円はよく分からない手数料という名目で持っていかれました。
――お金を取り戻そう、仕返しをしようとは考えなかった?
KENZO:引っかかった詐欺のグループラインがあったので、まだ信者ではなさそうな人に「詐欺なんで辞めたほうがいいですよ」と送ったんですけど、バレてしまってグループを退会させられました。当時はこれ以上関わってもしょうがないなと思い、勉強代だと割り切って泣き寝入りしました。
◆同僚とグループYouTubeを結成するが解散
――その後、YouTubeを始めるまでのいきさつは?
KENZO:当時の彼女が東京で就職することになったので、僕も上京して訪問営業の会社で働いていました。半年ほどでその会社は辞めて、IT系の派遣会社に就職したときに、同僚から「YouTubeを一緒にやらないか?」と誘われたのがきっかけです。
それが今の『新宿109』というチャンネルの始まりですね。最初はいわゆるグループユーチューバーで、街中でコンドームをぶちまけたり、隣席の人の食事にマヨネーズをかけたりするドッキリ系の動画をアップしていました。
当時流行していた『ゲンキジャパン』や『えびすじゃっぷ』などのYouTubeをマネした感じです。
――そのYouTubeは人気が出たのでしょうか?
KENZO:ダメでしたね(笑)。登録者が50人で再生回数は500回ほどだった気がしますね。でも、地元の友人にYouTubeを始めたことを知られていたので簡単に辞めたくないと思って、とりあえず続けることにしました。
そのうち2人が脱落して自分だけで運営することになって、いよいよどうしようかなと悶々と悩んでいるときに、マルチ商法の詐欺に引っかかったことを思い出して……。これを動画にできないかと思ったんです。
◆被害者経験を生かしてマルチ商法の突撃を開始
――自身の苦い経験が活かされるワケですね。それからすぐに詐欺撲滅系YouTubeに切り替えたのでしょうか?
KENZO:すぐに詐欺撲滅専門になったわけではないですね。まずは、マルチ商法セミナーの潜入をしてうまく撮影できたら動画にすることを繰り返しでやるようになりました。
それが徐々に再生回数も伸びて、1000回再生を超えたので「これならいけるんじゃないか」と思ってから、大きく舵を切った感じです。
――突撃動画を公開し始めたときの反響は?
KENZO:突撃動画の1本目の視聴回数がすごくて、それまで500人ぐらいだったチャンネル登録者も1500人まで増えました。ちょうどそれぐらいで収益化も達成できたんで「このジャンルでやっていこう」と覚悟が決まりました。
◆DMに届いた被害相談は1カ月で460件
――突撃相手はどのように探すのでしょうか?
KENZO:最初の頃は、インスタグラムで「投資」とか「ビジネス」といったワードやハッシュタグを入れているアカウントを探していましたね。詐欺師ってやたらブランドバックや高級品を投稿していたりするので、すぐに分かるんですよ。
そして、怪しいと目星を付けた人にDMで「稼ぎ方を教えてください」とカモになったフリをして近づいて情報を集めていくことをしていましたね。最近はそれをしなくても被害相談のDMが届くのでその中から選んでいます。
――何通ぐらいのDMが来るんですか?
KENZO:去年は特に多くて、1カ月で460件ぐらい来た月がありました。最初はすべてに返信していましたが、さすがに捌ききれなくて……。今はスタッフを集めてDMをチェックして、潜入や突撃の動画にできるのかを考えています。
◆突撃した詐欺組織の逮捕がきっかけで登録者が爆増
――こうして詐欺撲滅YouTubeとしての地位を確立。チャンネル登録者数の伸びも順調だったんですか?
KENZO:いや、ニッチな分野ではあるので10万人くらいまでは本当にコツコツと伸ばしていった感じですね。最初の転機になったのは僕が『BreakingDown』に出演したとき。これで2万人ほどは増えましたが、そこまで認知は広がらなかったです。
――そこから一気に伸びたきっかけはあるのでしょうか?
KENZO:2023年に『マーケットピーク』という悪徳マルチ組織のセミナーに突撃したんですが、その団体の関係者が逮捕されて、それをきっかけにテレビやメディアの取材を何度か受けたんです。そこから1カ月で50万人まで登録者が増えました。まさに転換期でしたね。
――登録者の激増とともに、一番変わったことは?
KENZO:突撃する際に過激な発言を浴びせたりしていたので、今までのコメント欄は賛否両論の嵐だったんです。「迷惑系と変わらない」とか。でも、メディア出演をきっかけに褒めてくれたり、活動を評価してくれたりするコメントが増えましたね。
◆「正義の押しつけはしない」動画を撮るために気をつけていること
――マルチ商法の突撃動画を撮る際に注意していることは?
KENZO:自分が被害に遭ったときに少し勉強していたんですが、さらにしっかりと理論武装できるように特定商取引法に関する法律や判例を頭に叩き込みました。
向こうも詐欺師で口が達者なので、言い返してきたり言い訳をしたりすることが多いので、正しい知識を知っているかどうかが重要なんですよ。
――最近の動画は、煽りまくる演出も減った印象です。
KENZO:確かに「やってんねー、やってんねー」と言いながら煽るスタイルでしたね(笑)。それが視聴者の反応が良かったので。でもやっぱり時代やYouTubeのルールも変わってきたので、今はより法律を意識しながら慎重に動いています。
でも、正義のヒーローに見えすぎないようにしたいとは思っています。あくまでYouTubeとしての面白さは追及したいし、詐欺師の言い分も聞きたい。正義の押し付けにはしないようにしています。
◆手錠を掛けられて拉致された壮絶な修羅場も
――これまでの活動で一番危険な体験は?
KENZO:のちに逮捕された、詐欺グループの一員だった元ジュノンボーイの男たちに拉致されかけたことですかね……。
彼らの飲み会に呼ばれて断り切れず参加してみたら、テキーラを大量に飲まされて酔いつぶれたんです。そしたら耳にイヤホンを付けられ、手錠を掛けられてアルファードの後部座席に乗せられました。
「海に連れていくか?」みたいな会話が漏れ聞こえてきて「もうこれ絶対死ぬやん!」と思っていたら、青山霊園に連れて行かれて……。結局ボコボコにされました。
――彼らはどういった意図でKENZOさんを拉致したんですか?
KENZO:もうこれ以上突撃をするな、関わってくるなという脅しだったんだと思います。被害届は受理されなかったんですが、彼らは別件の詐欺で逮捕されましたね。命だけはあってよかったです。
――撮影で一番大変なことは?
KENZO:張り込みですね。ロレックスを代理で購入して海外に転売して利益の配当を渡すと言って金を集めていた詐欺師を追っていたんですが、何度も約束をキャンセルされて……。
最終的には関西空港で張り込みをして捕まえることができましたが、肉体的にも精神的にも辛かったですね。YouTubeで伝わらない部分ではあるんですが、張り込みや移動はかなり大変です。
◆危険と隣り合わせでも突撃動画を上げる理由
――そのような危険な目や労力をかけてでも、YouTubeを続けているのは?
KENZO:YouTubeで稼いでいるので、生活のためというのは前提です。ただ、僕が被害に遭ったときに助けてくれる人がいなかったからこそ、今度は困っている人を助ける番だと思って活動しているのも事実です。
被害者に騙されたお金が返ってきたりトラブルが解決したりするとうれしいですし、やりがいがあります。視聴者のコメントもモチベーションになっています。
――YouTubeを始めてマルチ商法が減ってきたという実感は?
KENZO:「独立行政法人国民生活センター」のホームページにマルチ被害の相談件数の変化が載っているんですが、ちょうど僕がこの活動を始めてから毎年2000件ずつ減っているんです。自分のチャンネルも多少は影響力があったと信じています。
◆クレカ詐欺突撃動画が驚異の677万回再生
――YouTubeでの収益の変遷は?
KENZO:最初はなかなか収益も伸びなかったのでアルバイトをしながら活動をしていました。登録者10万人になったときに、ようやく余裕のある生活ができるようになった感じです。
――ちなみに、一番収益のあった動画は?
KENZO:顧客のクレジットカードを不正利用していた店員に突撃する動画を上げた月に、最高額の収益がありましたね。
セミナー突撃とは違う生々しさもあって677万回ぐらい再生されたんですよ。それ以外は月によって変動が大きいです。
――ご自身で編集されているのですか?
KENZO:最初は一人で撮影から編集もやっていましたが、今はスタッフを雇っています。そこに経費もかかるし法人として活動をしているので、そこまで稼いでいないですよ。
◆次なる突撃ターゲットは「ぼったくりバー」
――マルチ商法や詐欺師の突撃以外で撮りたいと思っているモノは?
KENZO:今年はぼったくりバーをターゲットにしたいと思っています。マッチングアプリで出会った異性にぼったくりバーに連れて行かれる被害報告が結構届いているので、どうにか撃退したいんです。
以前のYouTubeだとぼったくりバー潜入動画ってヤラセも多かったので、僕はガチで撮影したいという思いも強いです。
――探偵事務所も立ち上げたそうですが、これはどういった理由で?
KENZO:これまで培った経験やノウハウを活かせるし、YouTubeがBANされたときの収入源として作ってみようと思いました。現在法人登記中で、現場の尾行や張り込み、サイバー調査もできる探偵事務所を目指しています。
◆詐欺師を撲滅するダークヒーローでありたい
――チャンネル登録者も大台の100万人目前です。
KENZO:登録者数にあまり固執しすぎるのは好きじゃないので、今後も自分のペースで活動を続けていきたいです。でも、金の盾は欲しいかな(笑)。
――最後になりますが、詐欺を撲滅するために必要なこと、自身にできることは何だと思っていますか?
KENZO:お金がなくて精神的に不安な人が増えると、詐欺の加害者も被害者も増える。政府が景気回復に向けて頑張ってほしいとは思います。
ただ僕が政治家になるのは無理なので、この先もYouTubeというコンテンツで詐欺を止める活動をしていきたい。
もちろん、自分のチャンネルが清廉潔白だとも思っていないし、最低限のルールは守っていますがいつBANされてもおかしくないし、捕まる可能性もある。あくまで、ダークヒーローのような存在でい続けたいです。
【『新宿109』KENZO】
‘98年、三重県伊賀市生まれ。短期大学を卒業後、会社員勤務と並行して友人とYouTubeチャンネル『新宿109』を立ち上げる。その後、単独での活動になると、被害者になったことのあるマルチ商法やクレジットカード詐欺などの撲滅を促すYouTubeに方向転換。大きな注目を浴びるように。‘23年にはセミナーに突撃した組織の逮捕に関するテレビやメディアの取材を受け、一気に登録者数を増加させた。現在は登録者数97万人超。著書に『突撃 詐欺撲滅系YouTuber「新宿109」KENZO』(彩図社)がある。
<取材・文/瀬戸大希、撮影/山川修一>