春節期間中の成田空港。数多くのハイヤーやタクシーで溢れていた 日本が観光大国となりつつあるなか、SPA!でもたびたび報じてきたのが違法タクシー「白タク」の問題だ。だが、最近では新たな潮流が生まれている。いわゆる緑ナンバーの名義貸しだ。実態に迫った!
◆名義貸し「緑ナンバー」で摘発リスクはゼロになる!?
インバウンドが隆盛するなか、白タクの存在はもはや風物詩となりつつある。今年の春節期間中も有名観光地で集中取り締まりが行われ、ドライバーが摘発されたという報道がいくつも駆け巡った。
しかし、今年はさらなる異変が起きていた。都内のタクシー運転手はこう述べる。
「銀座や新宿なんかは最近、緑ナンバーを付けたアルファードやハイエースのハイヤーが多くなったね。ドライバーはほとんど中国人。なかにはVOXYやフリードのようなハイヤーに向かない大衆ミニバンにも緑ナンバーが付いてることもあって、見るたびに不思議に思ってたんだよ」
さらに別のタクシー運転手もこう証言する。
「羽田空港によく行くんですが、最近、他県の緑ナンバーのハイヤーが増えたよね。今まであまりなかったね」
緑ナンバーは、道路運送法で定める「事業用自動車」に交付され、営業ナンバーとも呼ばれる。運賃を徴収して人や物を運ぶ場合、必要になる。
違法行為である白タクが減り、正規に営業するハイヤーが増えたということであれば、喜ばしい事態だろう。だが、決してそうではないようだ。在日中国人事情に詳しいライターの山重慶子氏は言う。
「実はコロナ禍が明けた頃から、中国系のハイヤー会社が増え、緑ナンバーの名義貸しが横行するようになった。というのも緑ナンバーを付けていれば摘発リスクはゼロ。警察は白ナンバーしか見てないのでスルーしますからね」
◆トラックからハイヤーに乗り換えて月収は3倍に
今回、SPA!は30代前半の中国人ドライバー・陳さん(仮名)に取材することができた。彼は現在、緑ナンバーのアルファードで主に中国人観光客を運んでいると言う。
「UberやDiDiなどの配車アプリに登録して仕事を受けている。成田空港から都内、都内から富士山・箱根のルートが多いね。前はトラックの運転手をやってたんだけど、長時間労働の上、月30万〜40万円しか稼げなかった。でも今は毎月100万円以上稼いでるよ。車は中古で買って、緑ナンバーは知り合いのハイヤー会社に月10万円払って借りてる状態。リスクのある白タクの時代は終わったよ」
山重氏によると、中国のSNS「小紅書」には「緑ナンバーを貸します」という業者の投稿があるという。試しに見てみると、確かに月に8万〜15万円で貸し出すという投稿がいくつか発見できた。
「ドライバーはまず買うかリースするかして車を用意し、ハイヤー会社にお金を払って形式上“所属”している体裁にする。ハイヤー会社がその車を運輸局に申請すれば、正規の緑ナンバーが交付される。その後、得た収入から決まった額を会社に渡すのさ。仲間のドライバーも、そういうパターンが増えてる」(陳さん)
◆完全アウトもグレーゾーンも混在する中国系ハイヤー会社の実態
しかし、こうした行為は名義貸しとなり、れっきとした違法行為だ。個人所有の車両を会社に持ち込んで登録してもらい、緑ナンバーを取得することを業界用語では「増車」と言う。
だがこの場合、会社とドライバーの間で正規の雇用契約があったり、車両の保管場所が会社であったりするなど、さまざまな要件をクリアする必要がある。
しかし山重氏によると、そうした要件を満たさずに、名義貸しを行う中国系ハイヤー会社が少なくないと言うのだ。先ほどの陳さんのケースも、建前上はハイヤー会社所属となっているが、勤務実態はない。
取材班はSNS上で宣伝していたいくつかの業者にドライバーを装って質問してみた。ある業者は、「月8万円で緑ナンバーを貸す」と話していた。
一方で「二種免許(旅客運送に必須の免許)がなくてもOK」と答えたハイヤー会社も。明らかに違法だが、質問を続けると返信が途絶えた。
ただし、なかには「正社員になることが条件」と言う、合法らしき業者もあった。
「要件を満たした上で緑ナンバーを登録してもらう場合でも、ドライバー側が会社にお金を払うのはかなり不自然です。合法とも言えますが、グレーな状態ですね」(自動車関連に詳しい都内の行政書士)
◆1枚の緑ナンバーを仲間内で共有!? 国交省も未把握の事態
現状では合法、違法、グレーが入り交じった状態だが、追跡を続けると、取材班はとんでもない投稿を「小紅書」で発見した(現在は削除)。
男がドライバーを用いて緑ナンバーを取り付ける動画で、「東京でナンバーを共有しよう」と書かれていたのだ。
一般的にナンバーの付け替えは運輸局でしか行えない。この動画は、明らかに民間の駐車場で行われていた。
「名義貸しで得た1枚の緑ナンバーを自分たちで付け替え、仲間内で使い回すケースも実際にあるようです。さらにSNSを見ると、緑ナンバーの車をレンタカーとして貸し出す業者や、緑ナンバー付きの中古車を販売する業者までいます。どういうカラクリかわかりませんが、怪しい業者でいっぱいです」(山重氏)
こうした状況を国土交通省の自動車交通局旅客課に問い合わせると、初耳だったようで「どうやって知ったのか」と逆に質問されつつ、以下のように回答した。
「(勝手な付け替えや要件を満たさないケースは)名義貸しにあたり、道路運送法で禁止され、貸した側も借りた側も3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金となります。また貸した側は事業停止30日間の行政処分となります」
摘発を逃れるため、白タクはますます巧妙化している。
取材・文/週刊SPA!編集部
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