令和の米騒動をどう見る? 「未来を耕す米農家交流会 Presented by マイナビ農業」が開催

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2025年03月31日 16:10  マイナビニュース

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マイナビは3月28日、「未来を耕す米農家交流会 Presented by マイナビ農業」を開催した。ここのところ米不足、米価の高騰といった“令和の米騒動”がメディアをにぎわしているが、農家の人たちはどのように見ているのだろうか? そして今後の展望は? 5名の水稲農家が登壇して、率直な意見を交わした。


○■この先、米価はどうなる?



本イベントの趣旨は、農業法人の代表者が集まり日頃の取り組み、現場での課題を共有し、未来の農業についても語り合うというもの。一般観覧者を入れて開催したが、イベントの模様はYouTubeでも後日公開する予定。



現役の若手農家として、イカリファーム代表取締役の井狩篤士さん、農事組合法人あぐりーど玉野 理事の高井淳匡さん、たけもと農場 代表取締役の竹本彰吾さん、トゥリーアンドノーフ 代表取締役の徳本修一さん、農事組合法人野菜のキセキ 理事の村上和之さんが登壇した。ファシリテーターを務めたのは、マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長の横山拓哉氏。


まずは昨今の米不足の原因、および農家の売上・利益への影響などについて話し合った。共通意見としてあがったのは、これまで米価はずっと安い値段で据え置かれてきた、ということ。「冷静に考えて、この10〜20年、米農家は儲かっていない。実際に、どんどん潰れてきた」「米の需要も年々下がってきている。今回の米不足で一時的に米価が上がっても、必ず揺り戻しがある。そこで潰れる農家がまた増える」と冒頭から白熱する。また「特に西日本ではこの数年高温が続いており、収量が減っている。米不足の原因として、そもそも収穫できていない、という現状もある。今後は酷暑でも安定して育つ品種・方法も考えていかないといけないのでは」と話す農家もあった。


令和7年度産の新米1俵(60kg)あたりの販売価格については、各農家で様々な予想が上がる。ある農家は「出始めの金額は3万〜3万5,000円、市況が落ち着いたら2万7,000円くらいになるのでは。でも令和8年度には7,000円くらいになる(笑)。米の価格は株と同じで『儲かる』と思う人が増えたら暴落します」とし、また別の農家は「私も3万円くらいを予想します。いまの時点で『最低価格で2万6,000円』と値切ってくる業者もいますから。問題なのは、農家さんは周りが右を向いたら皆んな右を向いてしまうこと。食べるお米を作ることは良いことと思いますが、食用米、加工用米、飼料用米と、もっとリスク分散をしないと大火傷をしてしまう」との見方を示す。


全国的に農地の集積が進んでいる。マイナビが実施した事前アンケートでは、視聴者から「うちでも9ha、20ha、100haと拡大を続けてきましたが、この先、先行投資するのが怖いんです。どうしたら良いでしょうか」という質問が寄せられていた。これに対して、ある農家は「ある程度の利益率があるならば、ざっくり5年で回収できるくらいの先行投資であれば安全だと考えています。個人的には投資をしない=衰退する、という感覚があります。市場は成長しますし、ライバルも強くなるので、アクセルを踏み込まないと現状維持もままならないでしょう。私も借金するのは大嫌いです。でも昔、親父が田んぼのために借金していた額をはるかに超える金額でいま借金しています」とアドバイス。



別の農家は「うちでは、できる限り農機具を持たない農業を目指しています。田植え機も手放しました、というのは外注できるからです。その代わり、その地域で核となる組織になることを目指しています。いま自営農家さんに10haずつ貸して学んでもらっています。ゆくゆくは個人農家さん、地域就農者さんに独立してもらって100ha、200haを任せてしまう考えです。すると大きな投資も要らなくなります」とした。

いま農業生産資材も高騰している。これについても様々な意見が出た。ここでイカリファームの井狩さんは「うちは農業法人でありながら、自ら農薬肥料の仕入れ販売も始めました」とアピールする。「というのも、世界的に見ても日本の農業資材は高いからです。まったく同じ商品でも、日本で購入すると世界一高い値段で買わされる。ひと昔前ならいざ知らず、現在は国内の農家さんも農地の集積が進んでおり、経営規模の大きな農家が増えました。物流の効率化なども進んでいます。でも値引き率などが見直されず昔のままなんです。実際、販売してみたら非常に大きな反響がありました。うちでも決して、農薬を売りたいわけではありません。ただ農家では製造原価を削り、一所懸命に労働生産性を上げる努力をしています」。



これに大きくうなずく出席者たち。昭和の時代は農家の件数も多く、そして1件あたりの経営面積も小さかったので欧米と比較して農薬が少し割高でも納得はしていたけれど、いまは時代が違う――。そもそも日本の農業を取り巻く環境は旧態依然としている、今こそ変えていかないといけない、という意見で一致する。「現場のことを考えていない農機・農薬メーカー、仕入れの流通業者、地域ごとの既得権益、そういったものに縛られた農業はもう2世代くらい古い」という意見も出る。


農業の最先端技術についても話し合った。ある農家は「xarvio(ザルビオ)は導入して良かったと思います。従来なら、一部の田んぼでは倒伏(とうふく、稲が倒れること)が酷く、一部の田んぼではもっと肥料を入れておけば良かった、というようなことも起きていましたが、そうしたムラがなくなりました。何年もかかる技術指導が必要だったことが、xarvioを活用することで誰でも90点を取れるようになった、そんな感覚です。人に依存しない農業が可能になりました」。



別の農家は「うちはドローンが出てきてから作業が楽になり、経営規模も拡大できました。DJIのドローンを外部委託で使用しています」とする。



農地を集積するにあたり、田んぼは購入する方が良いのか、それとも借りる方が良いのか、そんな話題では「いま私は、田んぼを放棄したい農家さんを主な対象として動いていますが、地域で共存共栄するためには、やはり借地で広げていくのが理想的なんだと思います。土地を購入するとなると、ライバルとの間にも火花が散って、果ては戦争に行き着くと思うから(笑)」と話す農家。



別の農家は「うちの地域では、高齢の農家さんから『息子は田んぼを受け継ぐ意欲がないので買ってくれ』とお願いされるんですが、購入するには割に合わないと感じていて、お借りしたい、とお願いしている状況です。こちらの言い値で譲ってくれるそうなんですが、かといって二束三文で買うわけにもいかないので、そこから話し合いが進んでいません」。また、別の農家は「この6〜7年、購入する田んぼが増えてきました。毎年5haずつくらい拡大しています。買うメリットがなくても買っているんです。その理由のひとつが、カードゲームの愛好者がカードを交換するように、ほかの田んぼと交換することができるからです。農地を集積するとき、エリアをつなぐこともできます」。


また別の農家は「私の地域は中山間地で、地権者のほとんどが高齢者。我々息子世代のうち、就農している人間は少ないのが現状です。継承しても維持管理できないから、ということで相続が浮いている田んぼも結構、出ています。うちでは農地集積のための田んぼは、借りています。ただ自作農主義の人もおり、水の管理が非常に細かい人もいる。最近ではもう、端からすべて買っていくのもアリなのかな、と思い始めています。というのも基盤整備をしたいんですよね。枚数だけ増えても基盤整備が進まないと、生産性は一向に上がりませんからね」と話した。


イベントの最後に、各農家からメッセージが寄せられた。ある農家は、政治家に対して「現場の声を聞いて政策を作っていかないと、日本の農業がさらに厳しさを増していくと思います」と訴える。別の農家は「メディアは、特に中山間地の農業が『危機的な状況だ』と伝えていますが、私は農業が生まれ変われるチャンスだと捉えています。AIなど新しい技術の導入も始まっています。農地集積、基盤整備、組織も含め、これまでの古いやり方を自分たちの世代がどんどん変えていきたい。そういった意味では、いまとてもポジティブでワクワクする気持ちでいます」。



このほか「米価が低い時代から潰れない経営をしてきたので、一時的に米の価格が高騰しても、そこは変わらないと思っています。今後も乱高下はあるでしょう。農家さん、それぞれのスタイルを持っているので、皆んなで頑張っていければと思います」、「実は、これからイチバン儲かる業種が農業だと思っています。若い人にも参入して欲しい」、「今日、参加したメンバーを見ても分かる通り、農業には明るい未来しかないんです。もちろん大局で見たら農家数が減少している事実はありますが、これから残っている農家さんがボロ儲けする時代に入ります。若い方にどんどん参入していただいて、この波に乗ってもらえたらと思います」と話す農家もあった。



近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら(近藤謙太郎)

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