絶好調「オーケー」を倒せるか トライアル&西友タッグが秘めている巨大な可能性

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2025年04月01日 06:11  ITmedia ビジネスオンライン

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勢いがある「トライアル」

 福岡発祥のディスカウントスーパー「トライアル」を経営する、トライアルホールディングス(HD)が、大手スーパーの西友を3800億円で買収すると発表した。実際の株式取得は、7月1日の予定で、西友はトライアルHDの完全子会社となる。トライアルHDは2024年3月に東証グロース市場へ上場したばかり。ディスカウントスーパーとして新興に属する企業が、実績十分の老舗を飲み込んだ意外性で、話題になっている。


【画像】え!? トライアルってこんなに安いの? 1個「29円」の激安商品や「299円」の激安弁当を買ってみた(計6枚)


 トライアルは、郊外で駐車場付き、売場面積1500坪前後を標準とし、かつ24時間営業の店舗を構える方式で成長している。2024年6月期の連結決算では、売上高7179億円(前年同期比9.9%増)となっており、成熟産業のスーパーマーケット業界にありながら、数少ない伸び盛りの企業だ。しかも、増収は24期連続となる。


 現在、都内こそ店舗がないものの、隣接する各県にはあり、多くが街はずれの幹線道路沿いで営業している。2025年2月現在で343店を展開する。


 同じ九州地盤の安価なチェーンとしては、業種こそ異なるがドラッグストア大手のコスモス薬品が展開する「ディスカウント ドラッグ コスモス」と双璧とされている。物価高の現在、庶民にとってありがたい存在といえる。


 トライアルHDはITを駆使したローコスト運営に長けており、自社で構築した物流網で中間流通マージンを省き、圧倒的な低価格を実現している。一方の西友は、かつてカリスマ経営者の堤清二氏が率いるセゾングループの中核として、成熟社会の消費者に値段相応の価値を提供する「質販店」を目指した歴史がある。


 バブル崩壊によってセゾングループが解体する中、2002年に米国・ウォルマートと包括的業務提携を結び、2008年には完全子会社となった。その後、米国投資会社のKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)と楽天DXソリューションが主たる株主となった。現在は楽天DXソリューションが離脱し、KKRが85%、ウォルマートが15%の株式を保有している。西友の店舗数は2024年11月現在で242。2024年12月期の売上高は4835億円だ。


 トライアルは西友をM&Aすることで年商が1兆円を超える、巨大流通グループとなる。国内ではセブン&アイ・HD、イオン、ファーストリテイリング、パン・パシフィック・インターナショナルHD、ヤマダHDに次ぐ6番目となる。


 そこで今回は、トライアルの西友買収のインパクトについて、論じていきたい。


●うどん39円、ロースかつ丼299円――「生活必需店」にも納得の価格破壊


 埼玉県にある、トライアルの中でも「スーパーセンター」と呼ばれる、最も標準的な店舗に足を運んだ。スーパーセンターとは、食品スーパーとホームセンターを合わせた業態で、食品とともに、生活雑貨や、家電にペット用品なども販売している。


 しかも、ディスカウンターなので全般に「激安」な印象を受ける。関東なら「ビッグ・エー」、関西なら「ラ・ムー」といった食品スーパーに、ホームセンターの「コーナン」や「コメリ」を足して2で割ったような店といった感じだ。


 特に食品の価格には驚いた。うどんは1玉39円。食パン1斤(6枚切、8枚切)は95円で、納豆が3パック65円。米は「北海道のお米」というブレンド米を4キロ2999円で販売していた。


 弁当や総菜では「三元豚ロースかつ丼」が299円、「たっぷり玉子サンド」は199円。おにぎりは最も安いもので59円と「これで利益が出るのか」と思えるほどの安さだ。生活雑貨では、歯ブラシが29円。ストレッチパンツ「ノビルノ」(998円〜)は、ワークマンに負けない価格破壊ぶりである。トライアルはノビルノのCMにおいて自らを「生活必需店」と呼んでいるが、確かに近隣住民からしたら必需店舗というくらいの存在感がありそうだ。


 気になるのが、利益をしっかり出せているのかだ。営業利益は191億円で、売上高営業利益率は、2.7%ほど。決して高くはないものの、しっかりと利益は出ている。


●なぜ「価格破壊」できるのか


 それにしても、なぜ「EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)」を貫けるのか。


 理由の一つは、グループ会社にMLSという物流の会社を有しているからだ。全国に常温、チルド、フローズンの倉庫を配置し、メーカーから集荷した商品を仕分けして、店舗に直接輸送するシステムを構築している。これにより、卸売業者の中間マージンが発生しないから、安く販売できる。


 もう一つは、明治屋という総菜・弁当の会社を有していること。さまざまな分野の料理人や職人が40〜50人在籍してメニューを考案しており、製造も自ら行うので、安い。


 加えて、トライアルの前身は1984年よりPOSシステムなど流通業向けソフトウエア開発やPCの販売を行っていて、IT系の会社だった。そのため、自社開発したITによる業務効率化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に長けている。


 スーパーに進出したのは1992年だ。その後、米国で流行していたウォルマートのような衣食住すべてをワンフロアーで展開する業態を目指し、1996年には北九州市で「スーパーセンター トライアル」1号店をオープンしている。


 トライアルのIT活用は多岐にわたる。中でもAIカメラによる店舗監視システムが面白い。カメラで店を見張るというと万引き防止が思い浮かぶが、トライアルの活用法はそこにとどまらない。AIカメラを使って陳列棚の状況をチェックし、店員が見回らなくても欠品を回避する仕組みだ。商品ごとの売れ行きを把握して、棚割の最適化をも実現できる。


 カートにタブレットを取り付けた「スキップカート」も1月時点で240店以上に導入している。商品のバーコードを読み込む機能があり、クーポンの対象商品ならば画面に表示されたクーポンを使える。バーコードを通した合計金額も表示するので、予算に合わせた買い物も可能だ。あらかじめチャージしたプリペイドカードとセットで使うので、専用ゲートにて簡便に決済ができる。長いレジ列に並ばなくて済む。


 このように、リアルとバーチャルの両面で、無駄なコストやストレスを解消しているから、EDLPを貫けるのだ。


●トライアルと西友は「相性抜群」といえる


 トライアルが西友を子会社にすることで、規模の拡大にとどまらないメリットを享受できるはずだ。もともとトライアルは「世界最強」のスーパー・ウォルマートを目標に、IT活用を含めた店づくりを行ってきた。西友は一時期、まさにウォルマート・ジャパンだったわけで、人材や店舗、システムを通して、ウォルマートのノウハウを学べる。


 「日本から撤退したのだから、ウォルマートは失敗したではないか」という反論もあるだろう。しかし、西友の売上高営業利益率は4.9%もあり、スーパーとしては相当高い。ところが、西友はウォルマート傘下にあった頃は決算を公表していなかった。


 高収益を生み出す仕組みは、果たしてウォルマートに起因するのか。それともKKRや楽天が参画した時に社長に就任した、ユニクロや無印良品の業革で実績のある大久保恒夫氏が改善したのか。真相を解明し、かつ経営に生かせる権利を、トライアル経営陣は手にした。


 しかも、トライアルと西友は、店舗の分布で見事に住み分けできている。


 トライアルは近年、福岡県内に「トライアルGO」という小型店を実験的に出しているものの、本来は郊外の幹線道路にある大型のスーパーセンターがスタンダードだ。中には売場面積が2000坪以上ある、メガセンターと呼ばれる店もある。


 一方の西友は、駅前の一等地にGMS(総合スーパー)を経営してきた実績がある。近年は地方の店を閉めて、首都圏に集中しており、商品も食品に絞ってきた。ちょうど、トライアルが出店してこなかった首都圏近郊の駅前店舗を、買収によって物流網ごと手中に収めることになる。これは大きい。


 西友は全国的に知名度が高いビッグブランドなので、当面2ブランド体制で経営する方針だ。AIカメラ、スキップカートといったDX関連のシステムは西友に導入していくのだろう。明治屋が活躍する機会も増えそうだ。


 トライアルGOは今後首都圏に進出して、同じ商圏でも平日は近所の衛星店トライアルGOで日常の品を買い、休日は母店の西友でちょっと良いものを買うという住み分けも想像しやすい。競合では、イオンが平日は暮らしに密着した「そよら」を使ってもらい、休日はエンタメ性が高い「イオンモール」で楽しんでもらう使い分けを提唱し、成果が出ている。


 同様の効果が、もっと小さい商圏で成立したら面白い。首都圏で2ブランド体制を確立すれば、全国の100万都市、県庁所在地クラスの中心都市に拡大できる。その過程でM&Aを駆使すれば、結果的に小売再編の台風の目になるだろう。


●相互補完によって、「オーケー」とも戦えるようになる


 トライアルとしては、西友で評判の良いPB「みなさまのお墨付き」を全国の店舗に導入できるメリットもある。みなさまのお墨付きは、一般消費者のうち80%以上が支持したものだけ商品化しており、激安ではないものの値ごろ感がある。「質販店」を目指した西友の伝統と、EDLPのウォルマート流が融合した成功例である。


 その他、西友は2023年4月から、生鮮三品(青果・畜産・水産)の新ブランドとして「食の幸」も立ち上げている。バイヤーが味と品質にこだわった商品を選定し、顧客が求めやすい価格で提供する狙いがある。近年は精肉店出身である「ロピア」のような、生鮮に強みを持つ強力なライバルも出てきた。生き残りには重要なテーマであり、トライアルにとって食の幸も獲得できるのは大きなメリットだろう。


 競合でいえば、銀座に進出して成功を収めている「オーケー」が大きな存在感を出している。同じ首都圏のEDLPを売りとするスーパーでも、これまで西友は駅前、オーケーは郊外と立地が異なっていた。しかし、近年オーケーは勢力を拡大しつつある。


 オーケーは、同じ商圏ならば競合店と比べて最も安く売るのをモットーとしている。西友としては、トライアルの激安商品を置くだけで、オーケーなどの競合ディスカウンターに対して、近隣に店舗をつくらせない抑止効果を持つだろう。トライアルの超絶安価な商品まではなかなか店頭に並べられないはずだ。


 価格破壊商品で集客しつつ、みなさまのお墨付きや食の幸のようなコスパの良い商品を売っていく――トライアルと西友の相互補完が実現すれば、低価格・高品質のEDLPで成長して顧客満足度も高いオーケーも、うかうかしていられないことになるだろう。


 トライアルHDは、IT化を主導してきた創業家の長男・永田洋幸取締役が4月1日付で社長に昇進する。M&Aを推進してきた亀田晃一氏は副会長となる。「西友から学ぶ点は多く、シナジー効果を最大化したい」とトライアルHD経営陣は強調していた。新体制で臨む、トライアルと西友の補完し合いつつ成長するビジネス展開に期待したい。


(長浜淳之介)



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