HIDEOMIさん平成ギャルがトレンドになっている昨今。見た目だけではなく精神性にも注目が集まり、ポジティブに自分らしさを貫くマインドが支持されているという。そうしたブームに続くように、沸々と話題になっているのが“ギャル男”の再来である。
その中心となっているのが、HIDEOMIさん、misakiさん、kosukeさんが立ち上げたギャル男文化の復興を目的としたサークル「Lancer Noise Eldrago」(以下・LANDORA/旧チョベリグ)だ。彼らはギャル男ファッションやヘアセット、パラパラなどのダンス動画を発信しており、渋谷に出現した際にはSNSで「センター街にギャル男がいる!」と噂になっている。
今回登場するのは、 メンバーの1人であるHIDEOMIさん(年齢非公開)。なぜ令和の時代に、彼はギャル男に目覚めたのだろうか。
◆欲しているものは“チャラさ”だった
「今日はよろしくお願いしまーす!」とセンター街に現れたHIDEOMIさん。襟足長めの筋盛りヘアに、チェックシャツとダメージデニムのサーフ系ファッション。トートバッグとベルトには「COCOLULU」の文字をのぞかせる……まるで、かつての『men’s egg』からそのまま飛び出してきたかのようなルックスだ。
今では街中でもSNSでも見かけないギャル男スタイルだが、HIDEOMIさんが始めたきっかけはなんだったのだろうか。
「俺、容姿を気にするのが早すぎたんです。小学生の時から鼻を高くしようとマッサージしたり、毎日アイロンして少女漫画のイケメンキャラ風の髪型にしたりしてて」
両親は美容師だったこともあり、小さい頃からカラーやパーマをかけてもらうことも多かった。ただ、現在のスタイルは両親の影響によるものではないようだ。
「親はバンドが好きだったんです。それで俺も平成のカルチャーにのめり込んで。音楽だとDragon Ashが一番好きです。昔はスケーターっぽい格好もしてたんですよ。そこからヘビメタとかロックとか聴くようになって、パンクチックな格好もするようになって、ピアスめっちゃ開けたりして」
しかし、何かが足りない気がしていた。自分の中にもっと欲しているものがあるのではないか。HIDEOMIさんは考えた末にあることに気がついた。
「なんだろうなと思ったら“チャラさ”だったんです。ドラマ『ごくせん』の亀梨(和也)くんや赤西(仁)くんみたいなあのチャラさっていうか。今まで聴いてきた音楽は“かっこいい”ものだったけど、俺はそこに“チャラさ”も足したかった。自分はかっこよくなりたいというより、チャラさもある“イケメン”になりたいんだって気づいたんですよね」
◆「イタいことを言えば言うほど世の中から居場所はなくなる」
“かっこいい”ではなく、“イケメン”になりたい——そう思っていた中、ある人たちとの出会いがHIDEOMIさんを変えた。
「今みたいになったのは、ホストの人たちの影響です。いろんな仕事をしていた中で知り合ったんですけど、みんな超かっこよくて。で、この人たちの卒アルを見たら全員ギャル男だったんですよ!あ、俺もこうなりたいと思って。前からチャラチャラはしてたんですけど、もっとガチでやろうって」
ギャル男研究は、ネットで雑誌『MEN’S KNUCKLE』や『men’s egg』の切り抜き写真を探すところから始まった。平成ギャル男は、どんな髪型をしていて、どんなファッションをしていて、どんな表情をするのか。当時を完全再現しようと徹底的に調べた。
ギャル男雑誌が打ち出すマインドにも惹かれていったという。特に『MEN’S KNUCKLE』のストリートスナップに書かれていた挑発的なキャッチコピーには影響を受けているとのこと。
「もう部屋の壁に貼ってます(笑)。“モテの女神が舞い降りた…いやオレと同化したんだ”とか。ダサいってわかるけど、それをやるのがかっこいい。今ってこういうワードメーカーいなくないですか? 真に受ける人が多すぎて、こういうノリが伝わらない。イタいことを言えば言うほど世の中から居場所はなくなる。でも俺はこういうマインドに憧れますね」
◆地元では孤立していくも、かつてのギャル男たちが支えに
HIDEOMIさんの地元は栃木。現在も栃木から渋谷に通っているという。電車を一本逃すと30分以上は電車がこない田舎町だ。そこにギャル男仲間はいない。
「みんな半グレみたいな感じ。俺はそういうのとは無縁でした。“イケメンは無限大”っていうのが俺の中にあるんです。ケンカじゃなくて、イケメンが一番かっこよくね?みたいな。頭が悪くても、運動ができなくても、顔が良ければなんとかなるわと思ってました」
容姿をここまで気にしている男子学生は珍しく、地元では浮いていた。しかしそれをネガティブに受け取る様子はない。
「地元ではほとんど友達はいないですね。でも、みんな自分の本当の魅力をわかってないのかなって思うんですよ。自分に似合う髪型やファッションを研究してみたら意外と面白いのに、それをやろうとしないというか。周りに合わせた髪型にしてるから、クラスの半数以上が同じ髪型で。俺はそんな空間で常に一番に輝いていたかった」
こうしてギャル男に行き着いたHIDEOMIさんだが、難しいのは洋服集めだった。当時の雑誌に掲載されていたブランドはほとんどが撤退している。フリマアプリでブランド名を検索してみても出品すらされていない。常に探し回っていた。
そんな中で、支えになったのは親の知り合いたち。HIDEOMIさんの熱意に、かつてギャル男だった大人たちが動かされていったのだ。
「親の年齢的に“世代”なので、懐かしいと思ってくれているみたいで。その人たちが若い頃に着ていたものを譲ってくれるようになったんです。これいる?って声をかけてくれたりして。欲しい服があってもなかなか手に入らないので、本当にありがたいです。いい人たちに囲まれてます」
◆電車がギャル&ギャル男でパンパンに? サークル活動を通して“目覚める”人も
同世代の仲間も次第に増えていった。ギャル男に目覚めていた男性はほかにもいたのだ。誰もが気の合う仲間になかなか出会えなかったからこそ、いざ見つけたら結束は早い。
美容師でもあるmisakiさんとは、カットモデルに誘われたことを機に意気投合。その後、misakiさんの誘いによって、kosukeさんとの交流も始まり、ギャル男サークル「チョベリグ」(現LANDORA)は誕生した。
今ではさらに仲間を増やすため、興味がありそうな人たちに積極的に声をかけている。
「チャラい感じの人に『ギャル男やらないの?』って聞いたりするんですよ。そうすると『ヘアセットができないから』って言うんです。男はどうやったらいいのかわからない人が多いみたいなんですよね。よし、なら俺がやろうと思って。この間いろんな人に声をかけて“平成”やりました。俺、バッグに服いっぱい詰め込んで引きずりながら集合場所まで行って(笑)。みんなにはそれに着替えてもらって、俺はみんなのヘアセットして」
その日、集まったのは11人。HIDEOMIさんの手によって全員がサーフ系ギャル&ギャル男に変身し、全員で渋谷まで向かった。電車の座席1列が平成ファッションの男女で埋まっている様子は、 HIDEOMIさんから見ても異様だったという。
「新宿で乗り換えたりしたんですけど面白かったですね!座席パンパンにギャルとギャル男がいるのもめっちゃやべえ絵で。後でSNSを見てみたら『やばい、同じ車両にギャルとギャル男がいるんだけど』ってポストしてる人がいたんですよ(笑)。うわ、届いたと思って。俺、勝ったぜみたいな」
こうした活動によって、ギャル男に目覚めていく人も増えているとか。
「あれからヘアセット練習してるっていう声もめっちゃ聞きます。やっぱり一回ヘアメやるだけでもう意識的に変わるんだなって。そういう機会を作れたことがでかいなと思いました」
◆令和のギャル&ギャル男は「自分たちで作っていくもの」
平成ギャル男の中にはギャルにモテるために始めたという男性もいたようだが、HIDEOMIさんの場合はどうなのだろうか。
「モテたいっすよ(笑)。でもギャル男になってからは、モテるというより、話しやすくなったとか、印象が明るくなったとか、言われるようになりましたね。性格が変わったんですよ」
それまで初対面の相手には少々冷たいタイプだった。kosukeさんと初めて会ったときのことをこう振り返る。
「もともと俺の行きつけの服屋の店員で。kosukeさん、俺が服を手に取るなり『それめっちゃいいですよね、お兄さん』って話しかけにきて結構馴れ馴れしかったんですよ(笑)。俺は『いや、マジで無理っす……』って感じで。3人で会うようになるまでは、俺、kosukeさんにかなり冷たかったと思います(笑)」
それからどうやって変わっていったのか。そこにはHIDEOMIさんなりのギャル男へのこだわりがあった。
「ギャル男なのに冷たかったらなんかうざくね?みたいな。すかしすぎだろって思ったんですよね。だから、性格も変えて。今は誰彼構わず普通に話しかけるし、話しかけられたら全然話すし、フランクな感じ。そうなってから関わる人が一気に増えましたし、人間関係も良くなった気がします」
地元で孤立しながらも“イケメンは無限大”をモットーにギャル男を目指してきたHIDEOMIさん。これまでを振り返るなかで、最後にこう語ってくれた。
「今のギャルやギャル男って、自分たちで(1から)作っていくんですよ。まず仲間がいないところから始まる。一度はやってみたいと寄ってきてくれてもついてこれなくて離れていく人も多いんです。だから仲間は簡単に集まらないんですけど……でもガチで上を目指していると、仲間は自然と増えてくるんだなって。自分が今まで頑張ってきたからこそ、misakiさんやkosukeさんにも出会えた。ひとりでもやり続けていてよかったなと思ってます」
<取材・文/奈都樹、撮影/長谷英史>
―[“ギャル”のその後]―
【奈都樹】
1994年生まれ。リアルサウンド編集部に所属後、現在はフリーライターに。『リアルサウンド』『日刊サイゾー』などで執筆。またnoteでは、クォーターライフクライシスの渦中にいる20代の声を集めたインタビューサイト『小さな生活の声』を運営している。