写真はイメージ 高齢になると思考が凝り固まったり、自己中心的になるとの話をよく聞く。すると、自分は正しいことをしているつもりなのに世間の常識から大きく外れ、トラブルが起こることも……。ゴミ屋敷などがよい例だが、特に口が達者でずる賢く立ち回る人が相手の場合、周囲の人々は大きな迷惑をこうむることになる。
◆住人が変わった途端に始まった騒音
都内の分譲マンションに住むデザイナーの山本さん(仮名・40代)が、そんなトラブルに巻き込まれたきっかけとなったのは、上階の住人が売却により入れ替わったことだった。事前の情報で新たに入居してきたのは70代の夫婦と聞いていたため、若い子育て世代が引っ越してくるより静かな環境が保たれると思っていたのだが、引っ越し翌日から予想外のことが起こった。
「ビックリしたのは、天井から響いてくる足音でした。まるで運動会でもしているかのようにドドドッと部屋中を走り回っている音が頻繁に聞こえてきたのです」
老夫婦世帯なのになぜこんな足音が響くのか。山本さんは数日様子をうかがい調べると、どうやら近所に子供が住んでいるらしく、孫を預かって自由に部屋で遊ばせているようだ。加えて、足音と共にドアや引き戸を豪快に閉める音。掃除機をあちこちにぶつけながら乱暴に使っているかのような音も頻繁に聞こえてくる。前者は孫たち、後者は老夫婦が発する音のようだ。
「いくらなんでもうるさ過ぎる!」と思ったある日、山本さんは苦情を伝えるべく上階に行こうとした。しかし、あまりに怒っている様子をみた山本さんの妻が「最初から怒鳴り込むと後が大変だから、今回は私が行く」と老夫婦宅を訪ね、足音などの騒音がひどいことを伝え、「気をつけてほしい」と丁寧に“お願い”をした。
すると「あ、そうなの。気をつける」と、老夫婦は能面のような顔で答えるのみ。
謝罪の言葉はなかったものの、その後しばらくは騒音が止み、山本さん夫婦はほっとしていた。
◆2日後に再び騒音が…
ところが、2日もするとまた同じ騒音が始まった。しばらく我慢しながら様子をうかがったが収まる気配がない。そこで1週間後、今度は山本さん自身が直接上階を訪ねた。インターフォン越しに名乗ると、出てきたのは老夫婦の妻だった。
「なんですか?」
あからさまに迷惑そうな顔をしていて、以前苦情を言われたことを根に持っているようだ。その後ろでは走り回っている孫が2人と、それをあやす夫の姿も見えた。怒りを抑えつつ、山本さんは再度音が響いて迷惑している旨を伝え、「静かにして欲しい。音が響かないよう対策してほしい」とお願いした。
すると、老人夫婦の妻の方が「ちゃんとしてるわよ。だいたい、以前のマンションの時は下の人からそんな苦情言われたこともないのに!」と、敵意むき出しの態度で言い放ったのだ。
孫たちが豪快に走り回っている現場を見られているのに、謝るどころか敵意むき出しの態度……。あまりの身勝手さに呆れつつも、こんな相手と言い争いしても仕方ないと思い、「とにかく静かにしてほしい」と伝えるのみにとどめた。
しかし、これで静かになるような相手ではなかった……。
◆「じゃあ、警察に訴えれば?」
予想通り、数日後には走り回る音が響いていた。週に3回ほど、主に平日の昼間にこの音が響く。山本さんは仕事に集中しきれない。もう穏便に話を進めてもダメだろう。だが、老夫婦相手に直接怒鳴り込むと、こちらが加害者にされかねないと感じていた。
そこで再び騒音が鳴り響いているそのとき、電話をかけることにした。顔を見なければ少しは冷静に話せるような気がしたからだ。
受話器を取ったのは夫のほうだった。山本さんが挨拶をして名乗ると、相手はぶっきらぼうに「なに?」と応えるのみ。
しょっぱなからカチンときた。それでも老夫婦の妻より話しやすいだろうと感情を抑え、足音が響いているので走りまわせないようにしてほしいと3度目のお願いをした。
すると「そんなに響いているとは思えない」と、いきなり否定してくる始末。
そして「だいたい子供なんだからさ、走り回るのは仕方ないじゃないか」と逆に文句を言い始め、最終的には「そんなにいうなら、役所でも警察でも訴えればいいじゃないか。どうぞ訴えてくれ!」とヤケクソな対応をしてきた。
◆ヒステリックに喚く妻
夫は完全に居直る言葉を残し、今度は電話口に妻が出てきた。そして「注意しても走っちゃうのよ、だいたい子供の走る音なんて生活音でしょ。わずか12センチの足でどんな大きな音がしているっていうの。音がするのはマンションの構造の問題でうちのせいじゃないわよ!」と、ヒステリックに喚きだしたのだ。
こうなると売り言葉に買い言葉。山本さんも「子供の走る音は生活音じゃない、これは躾の問題だ。お宅と上の階との問題は知ったことじゃない」と言い返すとガチャっと切られた。
◆騒音に対して“制裁を加えた”結果は…
騒音問題は本来なら管理組合などが間に入り解決を図るべきなのだが、住んでいるマンションは小規模の自主管理なので、ほとんど機能していない。また、分譲なので簡単に転居することもできない。
山本さんは考え方を変え、ひどい音がしたときは、直接的に苦情を伝えることを続けることにした。とはいえ、会いに行ったり電話だとイライラして精神的によろしくない。そこで、音が響いてくればベランダに出て上階から繋がる避難梯子を棒で叩き、音を出すことにした。目には目を、歯には歯をというやつだ。
図太い神経の老夫婦も、その音がどういう意味なのか分かったのだろう。1年ほど経つと、かなり静寂が戻ってきた。
◆騒音は落ち着いたのだが…
それでも、老夫婦が山本さんの悪い噂をよく話していると伝わってくる。ロビーなどでバッタリ会うと、敵を見るような目で睨んでくるうえ、たとえ山本さん夫婦が軽く挨拶をしても、あからさまに無視し、苦虫をかみつぶしたような顔で素通りされている毎日だ。
きっとこの老夫婦の考え方が変わることはないだろう。そして、またいつか、新たな問題が起きるかもしれない。
<TEXT/真坂野万吉>
【真坂野万吉】
フリーライター。定時制で東京を走り回っている現役の中年タクシードライバー