2024年から「AI PC」という言葉を聞く機会が増えた。「ただのPCメーカー側のマーケティング用語ではないのか?」と指摘されると、確かにそうした側面は多分にある。
しかし、一方でAI PCと呼ばれる世代以降のPCと、それより前のPCではターゲットとする市場が少し異なる面がある。AI PCは今後登場してくるであろう新しいアプリや、ユーザーによる新しい使い方に応えられるだけの性能を織り込んでいる。ある意味で、5年以上先を見据えた“未来志向”の製品だともいえる。
PC業界における2025年は、10月14日(米国太平洋時間)にWindows 10のサポート終了(EOS:End of Service)が控えている。Windows 11のハードウェア要件から古い世代のPCが“引退”を余儀なくされる中、PCメーカー各社は2025年に入ってからメインストリームに当たるミドルレンジ以下のPCにもAI PCを拡大しつつある。
AI PCを選ぶ決め手となる「キラーアプリ」がまだ存在せず、さらなるAIの活用に向けた試みが進んでいる中、いかにユーザーに対してAI PCのメリットをアピールするのか――米HPが3月18日から19日(米国中部時間)にかけて開催した「HP Amplify Conference 2025」では、同社に半導体チップを供給するパートナー4社のトップによる社内でのAI活用方法や将来の展望が語られていたので紹介したい。
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●最先端半導体メーカーがAIでやっていること
「皆さんも同じようなことをしていると思いますが、人事から営業、マーケティング、法務部門など、非常に基本的な従業員の業務での活用のみならず、AI技術でより優れたチップを開発する高度な業務まで、さまざまな分野で活用しています」というのは米AMDのリサ・スーCEOだ。
同氏は「AI導入は企業全体で見てもまだ初期段階だ」と認めているものの、この最新技術を活用することでビジネスや従業員の生産性をどう高められるのか、生成AIの活用により1日に何時間を節約できるのかを考えつつ、仕事の未来のために企業のあらゆる業務にAIを取り入れていくべきだという考えだ。
具体的な活用について見えていない部分こそあるものの、将来的に全てのPCにAIを動作するためのNPUのようなコンポーネントが導入されるのは間違いない。スーCEOは「半導体メーカーとしては、HPのようなPCメーカーと協力しつつ、実際に顧客がこれを受け入れやすくなるように業界として推進していくのが役割だ」と話す。
先述の通り、2025年は「Windows 10のEOS」が見えている。スーCEOは「人々が次に使うべきPCの選定に入るであろうタイミングで、適切な商品やアドバイスを行う優れたパートナーが求められている」とも語る。
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AIの積極活用については、米Intelのミシェル・ジョンストン・ホルトハウス製品担当CEOも同社の事例を紹介している。
AMDのスーCEOは「過去1年間に何百ものパイロットプログラムを動かしてAIの実務検証を行っている」と述べていたが、ホルトハウス氏も同様に「大量のパイロットプログラムを工場全体で走らせている」と強調する。主にソフトウェア開発部門でプログラムコードの精度向上や動作速度の改善に活用されているようだが、「テクノロジー企業であるならば“先駆者(First Mover)”であれ」というのが同氏の考えだ。
AIを見て「怖い」「導入方法が分からない」ということで様子を見るのも自由だし、私たちのように先駆者を目指すのもいい。先駆者になることにはメリットとデメリットの両方があり、何かを間違えたときにはそれを学ぶ必要が出てくる。一方で、テクノロジーの最先端に位置し、競争相手に勝ちたいのであれば、テクノロジーを積極的に受け入れるべきだ。
AI半導体メーカーとしての評価が定着した米NVIDIAも、ソフトウェア開発にAIを積極活用している点で同様だ。同社のジェンスン・ファンCEOは「NV Bugs」と呼ばれるバグデータベースの存在を紹介している。
同社では、チップデザイナーやシステムエンジニア、ソフトウェアエンジニア、アーキテクトといった開発メンバー全員が動作する機能やそうでないものについて、必要な情報を全て共有している。ただ、その“バグ”の解析は非常に難解だ。特にチップとシステム内の別のチップと相互作用する部分など、互いの影響範囲の検討は難しい。
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NVI Bugsは、関連する人物やその内容/原因/影響範囲などを集約し、当該のバグの解析に役立つAIだという。単純なデータベースの上にAIという“セマンティックな”レイヤーを設け、理解するのに役立つエージェントとしての役割を担うという。
この他、ファンCEOはサプライチェーンの立案にAIを活用する事例を紹介しており「困難な問題解決にAI活用を進めている」とのことだ。
またファンCEOは、個人的に活用しているというのが家庭教師(チューター)とAIアシスタントとしての役割だ。
私個人としてAIを毎日使用しており、家庭教師として学びたいことにAIを活用している。もう1つのお気に入りが、研究アシスタントとしての活用で、将来的に私たち全員がこのような形でAIの支援を受けるようになると考えている。それは私のような研究アシスタントとしての活用かもしれないし、人によってはプログラミング、あるいは自身の業務アシスタントかもしれない。
自身をトレーニングするための家庭教師としてAIを積極活用するという事例は、AMDのスーCEOも触れていたが、便利な先端テクノロジーに躊躇(ちゅうちょ)がないというのは、固定概念がない層ほど該当するのかもしれない。
IT企業トップの話からは少し離れるが、今回のカンファレンスでHPのサミュエル・チャン氏(シニアバイスプレジデント兼コンシューマPCソリューション担当部門プレジデント)にインタビューした際に、チャン氏が「最初期のChatGPTユーザー」だとして紹介していたのが“高校生”だった。いわく「高校生はサービス開始から1週間以内に一斉に使い始め、半年後には米国の高校生におけるChatGPT普及率がほぼ70%に達していた」という。当時は「エンタープライズ(企業)における普及率が10%未満だった」にも関わらずだ。
インタビューの場にいた他のメンバーが大学の事例を挙げて「学生はみんなChatGPTで回答を求めてこようとするので、教授がそれ(ChatGPT)で解決できない問題を出題する“知恵比べ”が起きている」とも述べた。非常に興味深い。
●AIは「データセンター」から「ローカル」へ
今回のイベントのステージに登場した半導体メーカー4社のうち、Qualcommを除く3社はデータセンター向けのソリューションも提供している。しかも、一番の稼ぎ頭は間違いなくPC向けよりデータセンター向けの製品群だ。それにもかかわらず、各社が共通して指摘するのが「AIは将来的にデータセンターからエッジへ向かう」という点だ。AIがローカル環境で実行され、より個々に最適化された形になっていくという。
ある意味でエッジAIを積極的に開拓している先駆者と呼べるのがQualcommだ。同社はデータセンター向けの製品こそ持たないものの、スマートフォンからヘッドセット、組み込みのIoT機器、自動車まで、幅広い製品ポートフォリオを抱えている。同社はスマートフォン向けSoCにおいて早期からAIエンジン(NPU)を組み込む取り組みを行っており、「Snapdragon向けに開発したAIエンジンを活用したエッジデバイス」の事例が幾つも存在する。
Qualcommのクリスティアーノ・アモン CEOによれば、AIの活用事例が過去1年で倍以上に急増しており、PC市場においても同様のことが起きれば大きなビジネスチャンスになると考えているという。
(Qualcommは)バッテリー動作での駆動時間や、パフォーマンスにおいて競合に対する強みを持っており、Microsoftとの長年のパートナーシップにおいて揺るぎない優位性がある。決して“二流のPCで“はなく、ネイティブアプリも多数存在している。そしてAI活用が進む中、1ドル当たりどのくらいのパフォーマンスが得られるのか、クラウドとエッジの競合が始まっている。 クリエイター向けのサービスを考えると、クラウドで実行する度に料金(処理チケット)が発生していた。しかし、手持ちのデバイスで実行すれば、それは料金を掛けずに自身の持ち物とかける。AIアプリは進化し、端境期にある。だからこそ私たちはAIパフォーマンスに注力しているのだ。
同様に、HPのモバイルワークステーション「Z Book」向けにチップを提供しているAMDのスーCEOも「この製品がこれまでにない特別な点は、完全な大規模言語モデル(LLM)をローカルで実行できる点にある。これまでクラウド上で行う必要があると考えられていた作業を、自宅やオフィスにあるノートPCやワークステーションに持ち込めるようになる」と説明する。
NVIDIAでもつい先日、Grace Blackwellを搭載したAIワークステーション「DGX Station」を発表しており、LLMをローカルで動作させたい研究者や開発者たちの注目を集めたところだ。それだけ、半導体各社が現在最も注目しているトピックが「AIワークロードをいかにローカルで快適に実行させるか」ということなのだろう。
このようにAI PCの強化の方向性が定まりつつある一方で、本イベントで不安材料として話題になったのが「チップの供給問題とサプライチェーン」だ。
2020年から始まったコロナ禍でサプライチェーンが大きく混乱し、半導体の製造問題に発展したこと、そして“現在進行形”で不安視されているのが、米国でスタートしたトランプ政権による製造国に応じた関税問題だ。この問題には登壇したチップメーカー4社のトップがいずれも言及している。一方で、トランプ政権が示す「米国に製造業を戻す」という方針に準じつつ、いかに迅速かつ柔軟な製造/供給体制を築くかという点に注目したい。。
HPでは、この分野のプロフェッショナルとしてCEOO(Chief Enterprise Operations Officer)を務めるエルネスト・ニコラス氏が紹介された。過去2年ほどでいかにサプライチェーンを見直し、製品供給のリードタイムを短縮できたかをアピールしており、まだまだ未知数のトランプ政権下での制限がどようにビジネスに影響を及ぼすのか、適時見極めていく形となるだろう。
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