rai - stock.adobe.com 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
ニトリが家電とアパレルの商品開発を強化しています。今や家具販売から完全に抜け出して総合生活ブランドへと変貌を遂げました。いわば“無印良品化”が進んでいるのです。
◆エディオンと資本提携したニトリのしたたかさ
ニトリは家具と雑貨が収益の大半を占めていますが、家電を次なる収益の柱とする計画。数年以内に1000億円程度に引き上げ、売上全体の10%程度まで引き上げようとしています。
すでに2009年から中国のメーカーに製造を委託し、プライベートブランドの小型家電を取り扱っていました。しかし、2024年11月にドラム式洗濯乾燥機、12月にコードレス掃除機を販売するなど、大型商品へと幅を広げています。単身世帯から2人以上の一般世帯へとターゲットを拡大しているのです。
家電強化の兆しはありました。2022年4月に家電販売のエディオンの株式を取得していたのです。資本提携の目的の一つに「魅力的な店舗開発に向けた協働」を掲げていました。
◆「ニトリの家電」は現代の消費者にフィットする
大型の家具を扱うニトリでは、売場面積に限界があります。資本の論理により、物理的に家電売場の拡大を企図したのでしょう。
ニトリのドラム式洗濯乾燥機は9万9900円と安いことが最大の特徴ですが、家電量販店で競合の商品と横並びで販売することで、その優位性を際立たせることもできます。
かつて日本製の名門家電メーカーは消費者の圧倒的な信頼を得ていました。しかし、シャープや東芝などの各ブランドが外資系の傘下に入ったことで消費者の意識は大きく変わりました。韓国のLGエレクトロニクス、中国のハイアールなど、海外製品のクオリティが上がったことも、それに拍車をかけました。
現在はインフレも相まってブランドよりもコストパフォーマンスが重視される時代であり、ニトリの家電は消費者の意識の変化にフィットするものだとも言えます。
◆「ダウンパンツ」は「ヒートテック」に並ぶヒット商品になるか?
ニトリはアパレルも強化中。女性をメインターゲットとするアパレルショップ「N+」の店舗数は、2024年12月31日時点で47。今期は9店舗出店しています。
ヒット商品の一つが「ダウンパンツ」。2019年から販売しているシリーズで、すっきりしたシルエットかつ機能性が高いことが特徴。散歩やスポーツ観戦、ゴルフ、旅行などシーンを選ばず、暖かく過ごせる商品です。累計販売本数は6.5万本を突破していますが、人気の背景の一つに電気代を節約するために家の中でも暖かく過ごしたいという需要もあったでしょう。
ファッショントレンドを追わないN+のようなブランドの場合、息の長いヒット商品を生み出し、リピーター獲得のフックを作ることで店舗拡大の余地が生まれます。ユニクロのヒートテックがそうでした。機能性が高いという点でこの2つは共通しています。
ニトリは2021年2月期第2四半期の決算説明会にて、N+の店舗数を200まで拡大する計画を語っています。家具の製造販売というかつての姿は薄れつつあるのです。
◆家庭向けの家具は下り坂だからこそ…
実は日本の家具市場は停滞しています。
矢野経済研究所によると、2023年の家具の市場規模は前年の横ばいとなる1兆1330億円ですが、家庭用に限ると3.7%減の6830億円。2024年も1.3%減少すると予想しています(「家庭用・オフィス用家具市場に関する調査を実施(2023年)」)。
家庭用の家具は価格の高騰で買い控えも進んでいます。総務省の消費者物価指数によると、2020年基準(基準値を100とした場合)の2025年1月の家具の消費者物価指数は119.4でした。
家具のサブスクリプションサービスを提供するクラスは、家具に関する消費者調査を実施しており、「ここ1年、家具・家電の購入を見送りましたか?」との質問に対して、「はい」と回答したのは男性が5割、女性は4割に及んでいます(「1,000人への実態調査で見る、春の新生活の家具・家電事情2025」)。理由は、価格が高い、買う予算がないがそれぞれ3割を超えて圧倒的。インフレによって市場が更に冷え込むことも予想されます。
ニトリは2032年に3,000店舗3兆円という大きな目標を掲げています。停滞感が鮮明になった家具に固執するわけにはいかず、事業領域の拡大が必要なのです。
◆良品計画が家電開発を本格化した理由は?
2014年にキッチン家電の強化を図ったのが無印良品。世界的なプロダクトデザイナーの深澤直人氏を起用し、冷蔵庫やオープンレンジ、炊飯器などをラインナップに加えたのです。
無印良品のインテリアはシンプルなデザインで、組み合わせによる調和がとりやすい一方、当時の白物家電のテイストが馴染まないという問題がありました。また、家電の過当競争が進んでおり、機能性を高め続けた結果として複雑かつ過剰品質になってもいました。シンプルなライフスタイルを目指す無印良品のブランドと合わなくなっていたのです。
良品計画が家電の開発に乗り出したのも必然でした。生み出された製品のデザインと機能はシンプルで無駄が削ぎ落されており、ライフスタイルの提案をする無印良品の象徴的な商品だったとも言えます。そして家電の強化は、雑貨店というイメージが強かった無印良品を、総合生活ブランドに押し上げることに大きく寄与しました。
無印良品はDCブランドが大流行したバブル期に誕生しています。ブランドのラベルを貼れば売れる、という行き過ぎたブランド信仰へのアンチテーゼとして「ブランドがないブランド」を展開しました。そのブランド哲学が、シンプルなライフスタイルを求める今の時代にフィットしたと言われています。
ニトリは無印良品の市場に真正面から参入していますが、ブランドに大きな違いが生じているため、顧客の食い合いは起こりづらいでしょう。
ニトリは“安さ”が半ばブランド化しています。インフレ下において消費者の支持を集めやすいのは間違いなく、総合生活ブランドとしての認知を広げる土壌は整っているように見えます。家電やアパレルへと事業領域拡大に注力したタイミングも絶妙で、先見性の高さが際立っています。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界