MVNOは通信以外の付加価値を求めないと先がない 海外MVNOから学ぶこと、eSIMや生成AIの活用も重要に

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2025年04月03日 11:01  ITmedia Mobile

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MVNOの消費者向け市場シェアは約3%にとどまる

 テレコムサービス協会MVNO委員会は3月21日、「MVNOが創る新たな価値 - Empowering Connections」をテーマとした「モバイルフォーラム2025」を開催した。基調講演やMVNO委員会の活動報告の後、「New Value Creation: MVNOのミライ」をテーマとしてパネルディスカッションが行われた。本記事では、このパネルディスカッションの様子をお伝えする。


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 パネリストは、情報通信総合研究所の岸田重行氏、フリーランスライターの房野麻子氏、イオンモバイル商品G統括MGRの井原龍二氏、オプテージ(mineo)の松田守弘氏、テレコムサービス協会MVNO委員会委員長の佐々木太志氏の5人。モデレーターは、日経ビジネスLIVE編集長の堀越功氏が務めた。


●MNOメインブランドからMVNOへの移行は重い


 パネルディスカッションに入る前に、堀越氏がMVNOの現状を説明した。総務省の資料によると、通信モジュールや法人相対契約を除く消費者向け市場のMVNOシェアは約3%となっている。近年では、消費者向け市場において、MNOのシェアが微増している状況も見えている。


 これまで、MNOでは高額な大容量プランと安価な低容量プランに分かれていたが、現在は中容量プランも強化されてきた。MVNOの特徴であった「低価格」という優位性も薄れてきており、MVNOとMNOの競争が激化。MVNOでも新たに中〜大容量プランの拡充が行われている。


 オプテージの松田氏は、mineoも50GBプランを導入した背景として、スマートフォンの利用状況が変わってきていると説明した。「スマートフォンの通信量は、ここ5〜6年で倍増しており、この先も5年くらいでさらに倍になると考えられる。mineoでは最大で20GBのプランしかなかったため、先を見据えて50GBの大容量プランを新設した」とのことだ。なお、中〜大容量プランを拡充しつつも、5GB以下のプランも依然として人気があり、利用者のニーズが二極化している状況だとしている。


 イオンモバイルは、2016年のスタート時から50GBプランを提供しているが、2024年4月には200GBまでのプランを追加した。井原氏は、大容量のニーズが高まっていると感じていると説明し、「20GB以上のプランの構成比は、2021年2月は2.5%だったが、現在は29%と10倍以上になっている」と述べた。


 こうした大容量プランが登場してきた背景には、料金プランの低価格化があると井原氏は分析する。「われわれが2016年に出した頃は、50GBが1万円を超えていた。今は5000円切り、4000円切りという状況になっている。価格が下がったことで、大容量プランを利用しやすくなってきたというのが大きいのではないか」としている。


 大容量プランの増加について、消費者の目線から房野氏は、「既にMVNOを使っていれば、大容量プランに移ることもあるだろうが、最初に大容量プランを選ぶとなると、MNOのサブブランドがまず目に入るという印象で、MVNOは選びにくい」と指摘する。


 オプテージの松田氏も「MNOメインブランドからMVNOへの移行は、ちょっと重いという感覚がある。サブブランドやオンライン専用プランに一度乗り換え、そこからMVNOに移る人が多いと感じている」と述べている。


●コミュニティーが付加価値の重要なポイントに


 全体的に料金が安くなってきており、特に中容量帯の競争が激化している点について、イオンモバイルの井原氏は「ahamoなども容量を増やしたが、30GB以上の市場が注目されたのではないかと思う。容量を気にせず使える環境になってきたが、MNOとMVNOの価格差がなくなってきている」とした上で、「いろいろな事業者が出てきて、自由に選択できるようになったことをプラスと捉え、利用者にどういう価値を提供するかということが重要になってくる」と指摘する。


 なお、MNOやサブブランドが中〜大容量を拡充しても、イオンモバイルの契約数は伸びているとのことだ。MVNOを含めた市場全体が中〜大容量にシフトしている様子がうかがえる。


 物価高騰が進んでおり、MNOからも値下げが続いている現状から、業界としてプラス付加価値の方向に進んでいきたいという意見も出てきている。


 この付加価値という点について、オプテージの松田氏は、価格以外の面をアピールしていくのは難しいと感じているという。「mineoではコミュニティーを非常に大事にしており、利用者とのコミュニティーから速度制限付きの無制限プランなど、新たなサービスが生まれている。ただ、こうした独自のプランを作ったとしても、そうした独自性を知ってもらう、理解してもらうのは難しい」と述べる。


 とはいえ、利用者の細かな要望に応え、オプションや無料サービスなど多様な選択肢を提供することで、ライフスタイルに合わせた利用が可能になってきているということもあり、強力なコミュニティーがmineoの強みになっているのは間違いないようだ。


 イオンモバイルは、日経ビジネスが実施した「推し企業ランキング」でモバイルサービス部門の1位を獲得したとのことだ。こうしたユーザーから評価されるサービス作りについて、井原氏は「格安スマホ、格安SIMといわれる以上、安さは大前提にあるが、ちゃんと使えるサービスということが重要だ。このため、利用者の声を聞くようにしている。年に2回アンケートを実施する他、毎年5〜10人のユーザーにインタビューをさせてもらっている」と利用者の声を積極的に収集しているとのこと。


 また、イオンモバイルは実店舗があるため、スタッフによる顧客との会話やお客さまセンターに入る声なども確認している点を強みに挙げている。


 消費者がMVNOに期待する点について房野氏は、端末の多様性と料金プランの細かさを挙げた。「IIJmioなら、iPhoneやPixelは置いておいて、端末が何でもそろうというイメージがある。また、料金プランの細かさは各社工夫が見られ面白いが、もっと周知していく必要がある」「MVNO自体は知られており、昼に速度が遅くなるといったことも理解された上で選ばれている。あとはIIJmioやmineo、イオンモバイルなど、名前とイメージが一致するようになるといい」と述べ、ブランド認知が今後の課題だとした。


●海外MVNO事例から学ぶ、料金プランの多様性と戦略


 基調講演では、情報通信総合研究所の岸田氏から海外でのMVNOの事例が紹介された。モデレーターの堀越氏から、海外の事例が日本に導入される可能性について聞かれた岸田氏は、「米国では昔から値下げ競争は行っておらず、おまけや特典などで付加価値を付け、むしろ単価を上げる方向に動いている」と日本の市場との違いを指摘した。「シンプルにユーザーをある程度囲ってしまうと、急に増える、急に減るということが少なくなる。この状況で単価を下げると、収益に直接影響してしまう。このため、米国のMNOは値下げ競争を極力避けてきた」


 一方でMVNOに関しては日本以上に多様性が進んでおり、米国や欧州では裕福層向けや低所得者層向け、特定民族向けなど隙間を狙いやすいマーケットになっているという。日本でもMNOが値上げ路線に方向転換すれば、価格競争から一転して付加価値を付ける米国的な環境に近づく可能性もあるとしている。


 また、米国ではデータ容量無制限が当たり前になっているという話も出ている。これについてイオンモバイルの井原氏は「povoのような少し特殊なサービスも出てきており、非常に面白いと思っている。今後、他からも同様のサービスが出てくるだろうし、行きつく先は無制限ということになるだろう。一方で、日本では、もったいないという意識から、使わないのに無制限ということよしとしない利用者も多い。そこがきれいにすみ分けられていくのかもしれない」と文化的な違いを指摘した。


 「mineoでは、必要な容量を必要な形で組み合わせて使ってくださいというコンセプトを当初から掲げている。容量的なサービスの分部もあれば、通信速度を制限する代わりに使い放題になるプラン、夜間だけ使い放題になるプランなど、ライフスタイルに合わせた提案を行っている。今後も組み合わせて使っていただく形で提案していきたい」(オプテージ松田氏)。


●ポストペイ比率が高い日本は、世界的に見ると特殊な市場


 海外のMVNO事情について聞かれたMVNO委員会委員長の佐々木氏は、世界的に見ると、日本市場が特殊だと指摘する。それは、「日本はポストペイの比率が極めて高い」から。


 「ほぼ100%の人がポストペイに慣れている。そのポストペイについても海外では30日とか28日といった単位が一般的だが、日本では月単位で、月によって契約期間が変わる。当たり前に感じるが、世界的には珍しい。日本では電電公社の時代から、通信の契約はこの形だったので慣れている。povoが30日単位ということを導入したのは、思い切ったことをやったなと感じた」(佐々木氏)


 利用者は慣れたサービスを好むため、povoに続く(30日課金などの)サービスが出てこない理由の1つになっているのではないかともしている。


 これについて、堀越氏は「利用者は慣れたものを使いたがるため、意見を聞いてもこれまでにない新しいサービスを評価できない可能性がある。利用者の声を聞かずに、サービスを提供する側から新しい提案をすることで、利用者の生活を変えるというアプローチもあるのではないか」と述べる。


 これを受けて佐々木氏は「IIJで、通信速度が128kbpsで高速通信用のパケットを購入し、その分高速通信を行える『ミニマムスタートプラン』を企画したが、社内では『こんなものは売れない』と厳しい意見が出ていた。しかし、ふたを開けると、われわれのMVNOサービスの基本になっている。こういうプロダクトアウト的な考えで一気に文化が変わっていくということは当然あり得ることだと思っている。そこを狙っていくのがサービスを企画する人間の醍醐味(だいごみ)」だと、過去の事例を交えて説明した。


 その後、岸田氏から欧州でのMVNO市場についても紹介があった。「欧州はMVNO発祥の地ということもあり、多種多様なサービスが登場している。例えばドイツでは、新聞などを販売しているキオスクのような場所でもSIMカードを販売している。日本でいうと、コンビニでAppleギフトカードやゲームのカードを購入するのと同じような感覚だ。


 米国と同様に、トルコ人向けのSIMは、サービスセンターに電話をするとトルコ語で対応してくれたり、スパニッシュ向けではスペイン語で対応してくれたりする。他にも、子ども向けに親がコントロールできるサービスなどいろいろなものがある」


 こうした内容について、堀越氏は「日本が参考にできる部分もあるが、日本ならではの新しいモデルを日本がフロントランナーになって立ち上げていくようなターンになっている気もしてきた」と先行事例にとらわれないサービス構築の可能性を示唆している。


●eSIMを活用することで、さまざまな顧客接点を持てる


 最後のパートでは、MVNOのeSIM技術による販売モデルの転換や、IoT・法人向けのキッティングソリューションへの展開可能性などが議論された。


 岸田氏は、eSIMは顧客との接点を広げる上で大きなチャンスになると指摘。「契約そのものがアプリ上で完結するなど、eSIMは対面やリアルな店舗に縛られない」とし、eSIMと親和性の高いMVNOは、eSIMの活用次第でさまざまな顧客接点を持つことができると語った。


 例えば、イベントの公式アプリとeSIMを組み合わせることで、イベント参加者限定の特典を提供したり、eSIMをプリペイド方式で提供することで、利用者が自身の利用状況に合わせて柔軟にデータ通信を利用したりできるなど、新たなサービスが提供できる可能性が示唆された。


 イオンモバイルの井原氏は、eSIMは手軽に何枚もスマートフォンに入れられるという特徴から、「eSIMを認証に使うことで、持っている人だけが特別なクーポンをもらえるなどの活用ができるのではないか」と語り、eSIMによって顧客体験価値を高められる可能性に期待感を示した。


 オプテージの松田氏は、eSIMによって物理的なSIMカードのやりとりが不要になることに着目。「eSIMはスマートフォンだけでなく、さまざまなIoT機器との連携も容易にする。MVNOがeSIMとIoTを組み合わせたサービスを提供することで、新たな価値創造につながるのではないか」と語った。


●ネットワークAPIの開放は、MVNOのビジネスモデルと親和性が高い


 5Gでは、異なるネットワークにアプリを介した通信を可能にする「ネットワークAPI」の開放が進んでいる。佐々木氏は、ネットワークAPIの開放は、MVNOのビジネスモデルと親和性が高く、MVNOが積極的に取り組むべき分野であると語った。その上で、ネットワークAPIの開放は、アプリ事業者と通信事業者との連携を促進する一方で、大手MNOが主導となる可能性があることを指摘。MVNOが積極的に議論に参加し、ビジネスチャンスを広げていくことが重要であるとした。


 情報通信総合研究所の岸田氏は、ネットワークAPIはこれまでも議論されてきたが、今回は通信事業者側の危機感がこれまで以上に高まっていると指摘する。


 「通信事業者は、通信ネットワークが単なるパイプラインとなり、端末やアプリ、クラウドで価値が生まれてしまうことへの危機感がある。ネットワークAPIの開放は、通信事業者が新たな収益源を確保するための手段の1つだ」(岸田氏)


●生成AIを活用することで、MVNOユーザーの体験価値も向上する


 AIエージェントの進化は、MVNO事業にも大きな影響を与えると考えられる。


 イオンモバイルの井原氏は、AIエージェントを活用することで、顧客に最適な料金プランやオプションを提案するなど、顧客体験価値の向上が期待できると語った。


 「われわれは細かい料金プランを用意させていただいているが、最適にご利用いただくためには、お客さまご自身でその確認をする必要がある。通話に関しても、かけ放題を3つ用意させていただいているが、どれが適切か、もしくはもともと入らなくてもいいのか、マイページなどにAIエージェントを入れて、最適なご提案をサポートすることは検討するべきだ」(井原氏)


 オプテージの松田氏も、AI技術を持つスタートアップ企業などと連携することで、MVNOのサービスに新たな価値を付与できるのではないかと語った。


 房野氏は、AIエージェントはまだ発展途上であるとしつつも、料金プランの提案など、MVNOのサービスにおけるAI活用に期待感を示した。


●MVNOは通信以外の付加価値を求めないと先がない


 パネルディスカッションでは、MVNOが今後も成長していくために、価格競争からの脱却を図り、新たな価値を創造していくことの重要性が確認された。


 岸田氏は、「これまでは通信が速いとか、データ容量が多いとか安いとか、トラフィックそのものの話が中心だった。一方で、通信事業者はAPIのように通信以外の付加価値を求めないと先がないと認識してきている」と指摘。AIなどの新たな技術を取り込むことで、MVNOのサービスは大きく変わる可能性があると語った。


 房野氏は、MVNOがIIJmioやmineo、イオンモバイルといった個別のブランド名で語られるようになる未来を期待すると語り、MVNOのさらなる個性化に期待を寄せていた。


 イオンモバイルの井原氏は、スマートフォンの重要性が増す中で、通信事業者には価格だけでなく、安心安全な通信環境やトラブル発生時のサポートなど、より高いレベルのサービス提供が求められるようになると指摘。その上で、「MVNO同士でもう少し連携しあえば、MNOには対抗できない部分を提供できる可能性もある」と語った。


 オプテージの松田氏は、MVNOはきめ細かいサービスを提供できる点が強みだとし、AIやIoTなど、さまざまな分野の事業者と連携することで、新たな価値を提供できると語った。


 MVNO委員会委員長の佐々木氏は、パネルディスカッションの総括として「パネリストがどんな結論を出すかということよりも、今回の議論をオンライン・オフラインで聞いていただいた皆さまがどんな気付きを得るのかということが重要」だとした上で、ネットワークのオープン化という大きな流れの中で、MVNOは、MNOのネットワークを利用するだけでなく、自ら積極的にビジネスを創造していくという視点を持つことが重要であると語った。


 「これまでは、MNOのネットワークをどう解放させるかというような、やや従属的な議論になっていた。今後は、MVNOがどのようにビジネスを展開していきたいのかという、もっとポジティブな視点に立って議論を進めていくことが重要なのではないかと感じている」(佐々木氏)



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  • キャリアが総務省、ガースーの意向を受けて値下げしてしまった今、MVNOは厳しい。ガースーは今高いものを安くするのではなく、安い方に誘導する策を取るべきだった。
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