ソニー・ホンダモビリティの新型「AFEELA 1」が米国で予約開始となり、車体だけでなく、提供されるサービスなども明らかになっているが、その内容にどれだけの人が魅力を感じているのだろうか。
ベースモデルが8万9900ドル(約1300万円)、上級モデルは10万2900ドル(約1500万円)と予想以上に高額で、驚いた人もいるかもしれない。しかし、ソニーとホンダというダブルネームを掲げる以上、安売りはできない。
EVが完全に普及すれば、小型のパーソナルモビリティをより安価に提供する可能性もあるが、最初は数が売れなくても収益性を確保できる高価格帯を狙っていくのが王道だ。そう、まるでテスラのアプローチと同じである。
気になるのは、AFEELA 1がUX(ユーザーエクスペリエンス=ユーザーが得られる体験)をどの程度実現できるかだが、これに関しては発売後も開発を続け、商品価値を高めていくことも狙っているだろう。AFEELA 1がSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)であることが、大きく影響している。
|
|
●「SDVがクルマに革命を起こす」は幻想か?
SDVとは、ソフトウェアによってクルマが定義される、すなわちソフトウェアがクルマの内容を左右する仕様のことだ。
従来のクルマは、ハードウェアに合わせてソフトウェアが組み込まれ、それぞれが機能を担っていた。どちらかが故障すれば(ソフトウェアの故障は実質的にECUなどハードウェアの故障だが)、その部分を交換することで元の機能を取り戻す仕組みだった。それに対し、ハードウェアはそのままに、ソフトウェアを書き換えることでクルマの仕様が更新されていくのがSDVだ。
例えば、オートエアコンやオーディオの機能がさらに充実したり、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール=前走車追従型の巡航装置)の対応速度域が広がったりと、クルマの機能を向上できる。あくまでハードウェアの仕様で対応できる範囲内ではあるが、それまでになかった機能の追加や性能の向上を実現できるのだ。
すでに自動車メーカーは、新たに発売するクルマに、将来のファームアップ(ソフトウェアの更新)を見越したECUの空きメモリ領域の確保やハードウェアの実装を進めている。
|
|
これを最も活用しているのがテスラである。自動運転(実際にはレベル2程度)のオプションやバッテリー容量の増減などをソフトウェアの設定だけで可能にしている。バッテリーの容量に関しては、将来的な保証の仕組みも想定しているのだろうが、テスラのしたたかさを感じさせる部分だ。
従来は、グレードの仕様に応じてハードウェアも区別していたが、生産効率を高めていくと、できる限りハードウェアは同じ仕様にして、ソフトウェアで機能に差を付けた方がコストダウンにつながるケースも増えてきた。上級車種を選ぶユーザーの中には、ハードウェアの違いの少なさに不満を感じる人も出てくるかもしれないが、むしろ上級車種のコストダウンにつながるのだから、こうした傾向はさらに強まるだろう。
ユーザーの要望やビッグデータの解析、新しいOSやアプリの開発によって、搭載できる機能はどんどん広がっていく。それ自体は素晴らしいことであるが、クラウドサーバへの接続が必要な機能が増え、クルマ単独では完全な機能を確保できなくなってきている。
これに対する弊害はセキュリティであろう。セキュリティと自動車窃盗はいたちごっこであるし、窃盗犯も効率よく盗み出すためのデバイスや仕組みを生み出しているから、盗難の手法はますますハイテク化していく。実際、最新の盗難防止機能を搭載した車種でも、5分もあれば盗まれてしまうのだ。いかに高度なセキュリティシステムでも、その上流でハッキングされれば無力なのである。
盗難されても自動車保険に加入しておけばいい、と思うのは早計だ。特定の車種の車両盗難が続出すれば翌年の保険料は上昇し、それが続けばユーザー離れにつながるのは誰もが想像できるだろう。
|
|
●クルマの運転が簡略化されていくと……
クルマに限らず、楽であることや快適性ばかり追求すると、移動の楽しみや達成感も薄れていく。ある程度、体を使い、知恵を使い、目的地に到着してこそ満足感が高まるというものだ。
けれども実際は、より楽に運転ができて経済性が高く、安全なクルマが売れる。それはユーザーに訴求しやすく、買い替えを促進しやすいからだ。
そうしてクルマの運転が簡単になり、安全性が高まったことで、雑で身勝手な運転をするドライバーも増えている印象がある。
曲がると同時にウインカーを操作する(ウインカーを出さないケースも)。ボディが大きいからとセンターラインギリギリまで寄って走行する(わずかに越えるケースもある)。一時停止や徐行を忘れたドライバーの運転を見かけることも珍しくない。前のクルマだけを見つめて運転し、とっくに周囲は暗くなっているのに無灯火で走行を続けるドライバーもいる。
もちろんある程度のルールを守って安全に運転しているドライバーが大多数ではあるが、そうなってくるとクルマは単なる移動手段へと成り下がっていく。完全自動運転になれば、ある程度問題は解決するが、それは自分専用のタクシーを持つようなものだ。便利だが、そんな乗り物に愛着が湧くだろうか。
運転しないで済むなら、その方がありがたいと思っているドライバーもかなりの割合を占めるだろう。交通事故や違反のリスクから逃れるメリットもある。運転が苦手なドライバーだけでなく、運転を面倒だと考えているドライバーも存在する。
●危険なドライバーの増加にもつながる
クルマの運転は本来、自分の能力や可能性を広げる行為で、喜びや爽快感が生まれるものだ。しかし、クルマの運転を簡略化していったことで、運転する楽しみは薄れ、運転に不向きな人もドライバーとなり、単なる便利な移動手段になりつつあるのだ。
それを補おうとして、自動車メーカーやサプライヤーはエンタメをクルマに盛り込もうとしているが、スマホでできることをクルマに搭載するのは愚策というものだ。大画面や高音質にこだわっても、そうした刺激にはやがて飽きる。
パドルシフトは、2ペダルATの運転をより楽しみたいドライバーからは好意的なアイテムだ。元々レーシングカーでステアリングから手を離さずシフト操作を行うために考案されたものだが、今やEVにも多く搭載される(こちらは回生ブレーキの強さ選択に利用)ほど普及している。だが、実際に利用しているドライバーは少数派のようだ。
運転を単純化し、楽で快適にすれば、残る操作に神経を使って安全に走れる、と思うのは性善説のようなものだ。実際にはより手を抜くドライバー、運転させてはいけないドライバーを増やすことにもつながってしまう。
その結果、前述のように危険なドライバーが増え、足もとがおぼつかない高齢ドライバーが日常の移動にクルマを使うことで、走る凶器と化している。
●エンタメ以外でも「魅力的な体験」はつくれる
UXを移動中のエンタメ観賞に頼るようでは、自動車産業の未来は暗い。では、UXを魅力要素の一つとするモビリティの代表格となるEVは、今後どのように進化していくべきだろうか。
ソニー・ホンダのAFEILA 1は、ドライブルートやプランの提案などにAIを活用するというが、前述の通りスマホでもできることをクルマに搭載するのはあまり意味がない。クルマというモビリティだからこそできる機能や能力を生かしたUXを提案できなければ、ユーザーは価値を見いださないだろう。
自動運転技術が進展しているが、ドライバーに必要なのは運転支援システムだけではないだろう。例えば、運転を評価・診断したり、危険要素を指摘したりして、運転の改善のために練習できるシステムを搭載したらどうだろうか。
筆者は以前、運転講習を行うベンチャー企業に参画していたことがある。だが、お金を払ってわざわざ自分の運転のダメ出しをしてもらうドライバーや企業はまだまだ少なく、最終的に事業は頓挫した。
しかし、人間ではなくAIが診断すれば、状況は変わるかもしれない。辛辣(しんらつ)な評価でも、機械的に診断すれば反発も少なく、受け入れられやすいはずだ。
高齢ドライバーによる運転ミスを予防・改善する効果も期待できるし、運転の楽しさに気付けるドライバーも増えるのではないだろうか。
●AIを「安全運転のサポート」に活用する
トヨタの高度運転支援システム「Advanced Drive」は導入当時、トヨタ・チームメイトというサブネームが与えられていた。これはドライバーと自動運転によって安全運転を目指すシステムであり、協力し合って走行するという考え方を示していたのだ。
レベル3を実現できる能力を備えていながら、あえてレベル2にとどめ、その余力をきめ細やかな運転制御に活用し、ドライバーを過信させないようにする。それこそが当時のトヨタの自動運転に対する考え方だった。
筆者の考えるシステムは、それに加えてコーチング機能を兼ね備えたものだと考えれば、理解してもらえるのではないだろうか。車線逸脱防止機能など、運転を補助してくれる機能は多くのクルマに盛り込まれているが、積極的にコーチングしてくれる機能はまだ存在しない。
そんな教習車みたいなクルマは欲しくない、という声も上がりそうだが、実際には普通のクルマであり、AIが提供するサービスの一つとなるのだから費用負担も少なく、クルマの内外装にも影響を与えることはない。高齢ドライバーには必要な装備として、家族など周囲の人には歓迎されるのではないだろうか。
(高根英幸)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。