入場料1万円超えは当然 ディズニーやUSJの止まらない値上げが、「消耗戦」を招くワケ

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2025年04月04日 08:11  ITmedia ビジネスオンライン

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入場券を値上げしたUSJ(出典:USJの公式Webサイト)

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)の入場券が値上がりするという。USJだけではなく、東京ディズニーリゾート(以下、TDR)や、その他のテーマパークでも入場料の高騰が続いている。値上げの背景や、そのメリットとデメリットについて考察していこう。


【画像】チケット値上げが「消耗戦」につながる理由とは?


●どんどん高くなるテーマパーク


 USJは5月から、1日入場券「1デイ・スタジオ・パス(大人)」の最高価格を1万1900円とする。現行の価格から1000円の値上げだ。これによって、横並びだったTDRの1日入場券「1デーパスポート(大人)」の最高価格1万900円を上回る。USJは2010年以降、ほぼ毎年値上げを行っていて、開園時と比較するとチケット料金は約2倍となっている。


 本原稿の担当編集者も最近USJを訪れたらしいが「ユニバーサル・エクスプレス・パス4と、1デイ・スタジオ・パスをそれぞれ購入したら、1人約2万7000円かかった」とのこと。飲食代やお土産代なども含めると3万円以上の出費になったそうだ。


 担当編集者の言うユニバーサル・エクスプレス・パスとは、アトラクションの待ち時間を短縮して乗れる、ファストパスのようなチケットだ。アトラクションに早く乗りたい場合は購入する必要がある。大人は2950円からだが、これだと待ち時間なしで乗れるのは1種類のアトラクションのみ。4つのアトラクションの待ち時間を短縮するチケットは6800円から、7つだと1万800円から、全アトラクションだと3万5200円からとなっている。


 TDRも、コロナ禍以降値上げを繰り返しており、2023年にはチケットが1万円を超える日も出ている。USJと同じく、アトラクションへの優先搭乗券「ディズニー・プレミアアクセス」も有料で、こちらは1枚1500〜2500円程度だ。


 オリエンタルランドが発表しているファクトブックによれば、2023年4月時点でのディズニーリゾートの1人当たり売上高は1万6644円。この数値は2020年以降、毎年ほぼ1000円ずつ高くなっている。着実に客単価を上げているのだ。


 東のTDRと西のUSJ。どちらもかなりの値上げを実施している。


●テーマパークの値上げ、原因は?


 「夢の国なのに夢がない」「金持ち優遇か」など、さまざまな意見が噴出しているこの値上げだが、まずは冷静にその背景となっている事情を考えてみたい。


 相次ぐ値上げの理由の1つには、光熱費や人件費をはじめとした諸経費の大幅な値上がりがある。こうした諸経費は多くの施設の運営に影響を与えているが、乗り物や装飾で多くの電気を使い、大人数のスタッフを必要とするテーマパークでは特に痛手だろう。帝国データバンクの調査によると、国内190の主要レジャー施設(遊園地・テーマパーク・水族館・動物園)のうち、2024年にチケットを値上げしたのは約2割となった。


 2つ目は入場者のコントロールだ。特にTDRやUSJで顕著だが、コロナ禍をきっかけに、これまでの多すぎた入場者数をある程度制限しようとしている。観光立国を進める国の政策も相まって、ここ数年で外国人観光客が爆発的に増えていることもあり、テーマパークに入る人数を適正化する必要が生まれたというわけだ。


 そもそも観光業全体の流れとして、それまで「量」を取っていたマスツーリズムのあり方から、「質」を重視する動きがある。つまり「客数」よりも、「客単価」を高めていこうという流れだ。テーマパークの値上げは、人口減少時代における観光の変化と連動した動きと見ることもできるだろう。


●値上げは経済学的にもブランディング的にも良い?


 では、こうした値上げによるメリットはどこにあるのだろうか。1つは、値上げを行うことによって、来場者の満足度が相対的に高まることだ。


 チケットが安いために園内に多くの人がいて、何をするにしても並ぶ……となると満足度は上がらない。場合によっては「疲れるだけだし、もう行かなくていいかな」と思われてしまいかねない。


 一方で、チケット料金を値上げし、ある程度園内が空くようになれば、顧客はそれだけ多くのアトラクションに乗ることができ、十分にパークを楽しめる。企業側にとってみれば、顧客が浮いた時間でグッズを買ったりレストランに行ったりする時間を増やすことができるため、客単価も上がる。論理的に考えてみると、消費者・企業側にとってWin-Winな戦略なのである。


 事実、こうした値上げにも関わらず、USJの客足はコロナ禍前をしのぐ水準にまで回復しており、ディズニーの客単価がしっかり上がっているのは前述の通りだ。


 さらに、値上げ戦略がテーマパークの「ブランディング」にもなることを指摘しておきたい。


 『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』(ジョン・ムーア著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)によると、スターバックスは安易な値下げ戦略を行わなかったことで、そのブランド価値を高めたという。色々な意味で「安売り」しないことで、消費者から特別なブランドだと認知されるようになったのだ。


 デフレ文化が染み付いている日本人からすると「値下げ=善」のように思われている節があるが、むしろ値下げをしない方がいいこともある。特にテーマパークのように「特別感」を演出するのが大事な場所で、その重要性は高まっている。


●値上げによるデメリットは?


 一方、値上げによるデメリットの1つが「長期的なファン形成が難しくなる」ことだろう。TDRがすでにそうなっているように、チケットの値段が上昇することは、若年層の来園者が減ることにつながる。


 TDRを運営するオリエンタルランドのファクトブックによれば、2019年3月には21.2%だった大人(40歳以上)の割合が2024年3月には33.2%と急増。一方で、大人(18〜39歳)の割合は同期間で50.7%から41.0%と減少。中人(12〜17歳)はほぼ横ばいだが、小人(4〜11歳)も15.2%から13.4%と減少している。大人(18〜39歳)の範囲が幅広いため断定はできないが、若年層の減少と高齢者層の増加が起こっている。こうなってくると、将来的なファン層の形成が難しくなる可能性がある。


 ただ、私がより注意すべきだと考えるのは、値上げをすることによって「期待値と現実のズレが起こる」ことだ。値上げによって特別感を高めるほど、実際にテーマパークを体験したときに消費者が「期待外れだった」と思う可能性も高くなってしまうのだ。


 マーケティング&ブランディングディレクターである橋本之克氏の記事によると、テーマパークの待ち時間表示は実際よりも長く書かれているそうだ。これにより、表示よりも少ない待ち時間でアトラクションに乗れた消費者の満足感は高くなる。最初に見た待ち時間が頭に強く残っているため、どこか得した気分になるのだ。結果として長時間の列でもクレームが出づらいのだという。


 基準となる数値をどこに置くかで人の満足度が変わるということだが、これは値段でも同じだろう。入場券にある程度高い料金を払うと、期待値は否応なしに上がる。すると、テーマパーク側としては常にその期待に応え続けなければならないという、ある種消耗戦にも近い戦いを強いられてしまうのだ。


●「値上げによるメリット」を感じられている?


 私が最近感じるのは「値上げをして、本当にテーマパークの人は減っているの?」ということだ。今はTDRにせよUSJにせよ、実際にテーマパークに行くと基本的に「激混み」状態である。私は昨年2回ディズニーランドを訪れたが、どのアトラクションも長蛇の列で、中には120〜150分待ちのものもあった。


 優先搭乗券である「ディズニー・プレミアアクセス」を使えばいいのではと思われる方もいるであろうが、ディズニーランドだとその適用対象のアトラクションは3種類のみ。それ以外のアトラクションでは、ものによってはかなり並ぶ必要がある。アトラクションの列だけでなく、来園者自体が多いのは変わらず、「結局、単にチケット料金が上がっただけか?」と思ってしまった。


 ファクトブックによると、来場者はコロナ禍を挟んで10%ほど減っているが、正直「快適」とは程遠い状態だ。そもそも、もともとの来場者が相当な量であったため、そのうちの10%が減ったとしても、私たちからすればさほど違いはないと感じるのが正直なところ。この落差で、人々がテーマパークに失望してしまうことは十分に考えられるのだ。


 ここ数年はまだ消費者も付いてきているが、彼・彼女らに「この値段で行くほどでもないな」と思われたら、おそらく離れていくのは早い。長期的な目線で消費者を喜ばせ続けることができるテーマパークを作れるのか、それが問題になるだろう。


 極論ではあるが、もし値上げによる客単価とテーマパークの快適さを両立したいのなら、もっとチケットの値段を上げたり、課金コンテンツを増やしたりして、徹底的に値上げするべきではないだろうか。現状では各テーマパークとも中途半端な状態になってしまっており、単なる値上げを行っただけの状態になってしまっているように感じる。


 ただ、そうやって値上げをすると、消費者からのイメージが悪くなるということは十分考えられる。こうした値段設定は非常に難しい。全体的な物価上昇と連動した賃金上昇などが起こっていれば不満の声もほとんど出ないであろうが、そこはテーマパークではなく、政治が解決すべき問題である。


 なるべく多くの人が、より良い環境でテーマパークを楽しめる日はやってくるのだろうか。今後の各テーマパークの値上げ戦略を注視したい。


著者プロフィール・谷頭和希(たにがしら かずき)


都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。チェーンストアやテーマパーク、都市再開発などの「現在の都市」をテーマとした記事・取材などを精力的に行う。「いま」からのアプローチだけでなく、「むかし」も踏まえた都市の考察・批評に定評がある。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』他。現在、東洋経済オンラインや現代ビジネスなど、さまざまなメディア・雑誌にて記事・取材を手掛ける。講演やメディア露出も多く、メディア出演に「めざまし8」(フジテレビ)や「Abema Prime」(Abema TV)、「STEP ONE」(J-WAVE)がある。また、文芸評論家の三宅香帆とのポッドキャスト「こんな本、どうですか?」はMBSラジオポッドキャストにて配信されている。



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