
鳥だ、ドローンだ、あっ―。
農地が広がる見晴らしのよい京都府亀岡市薭田野町太田。東から西へ、直線道路を走る車窓から鳥のような影に気付いた。
車を降り近づいてみると、田畑に囲まれた空き地で3羽の“翼”が風に舞っていた。重厚な柱の上で、メタリックな構造体がその硬質さを裏切るしなやかさで両手を上下させる。陽光にきらきら輝く。いつまでも眺めていられそうだ。アート作品のようだが、周囲に説明はない。
どこかで見たことがあるような。JR亀岡駅北口のかめきたサンガ広場にあるオブジェだ。同市本梅町在住の彫刻家、西野康造さん(73)のシリーズ「風になるとき」と似ている。国際的に活躍する作家の作品ならば、人目につく公園ではなく、なぜ田園に?。
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答えはすぐ隣に立つ工場にあった。
工場前で、巨大な鉄柱をトラックの荷台から下ろす作業をしている男性を見つけた。西野さんだった。
「ここが工房なんです。できた作品の動きに癖がないかや耐久性を確かめるため、数カ月かけて屋外でテストしている」。突然の訪問者に快く疑問を解き明かしてくれた。
西野さんは京都市立芸術大で彫刻を学び、40年前に亀岡市に生活拠点を移した。現在は同市東本梅町のアトリエとこの工房で制作しているという。
チタンやステンレスなどの金属を素材にした大型作品が世界各地で展示されている。2001年米中枢同時テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センター(WTC)跡地の高層ビルに飾られている「スカイメモリー」でも知られる。頭上で揺らぐ半円の弧が漆黒の壁に反射して輪をなして見える作品だ。
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工房を案内してくれた。元々は板金工場だったのを12年に購入した。直径30メートルもある半円状のスカイメモリーを制作できる場所を探し、譲ってもらったという。
天井が高く広々した空間に、溶接や旋盤などの機械、金属素材が所狭しと置いてある。2階の窓は透明ガラスにして、翼の動きをつぶさに観察できるようにした。「透けているのでトンボの羽と言われることもあるが、上から見れば翼の形だとよく分かる」
30年以上にわたるシリーズ「風になるとき」の羽ばたく翼は「亀岡だから、生まれたともいえる」。自宅に鳥が迷い込んだり、ヤンマ(トンボの仲間)が身近に飛び交ったり、自然との接点が源泉になったという。「亀岡に来て、作品が優しくなりましたよ」
広がると6メートルや8メートルにもなる空き地の翼たちはしばらくすると、亀岡から国内外の展示空間に羽ばたいていくのだろう。
空は世界とつながっていると、改めて感じた。公開前の作品だと思うと、何だか得した気分にもなる。ぜいたくな田園のギャラリーだ。
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(まいどなニュース/京都新聞)