
身近な存在や家族との別れは誰でも悲しいものです。コミックエッセイをSNSに投稿する家事しないと死ぬ旦那さんの『死んだ夫からのプレゼント』は、亡くなった夫が生前に予約したクリスマスケーキを妻である作者が取りに行く様子を描いた一作。X(旧Twitter)にポストされると、約9000もの「いいね」が寄せられています。
クリスマスイブの12月24日、夫が他界したばかりの作者は喪に服すため、静かに過ごそうと決めていました。
しかし、生前使用していた夫の携帯電話に、とあるケーキ屋さんからの着信が。電話に出てみると、どうやら夫が生前にクリスマスケーキを予約していたようで、取りに来ないために確認で連絡をしたとのこと。
時刻は夜の8時、そのケーキ屋は、到着するまで1時間弱ほどかかる距離でした。慌てて家を飛び出して全力でケーキ屋に向かう道中、夫が毎年クリスマスケーキを買ってきてくれたことを思い出す作者。今年に限っては、夫が肺の難病によって辛そうにしていたこともあり、ケーキの予約にまったく気づきませんでした。
|
|
急いで電車に乗り、目的地に向かっていましたが、時間もギリギリだったので「もし間に合わなかったら…ケーキはどうなっちゃうんだろう」とあらぬことを考える作者。夫が残した最後のケーキ…どうにか手にしたいと考え、再度電話しようとするも、夫の携帯電話を忘れてきたことに気づきます。
そして駅に到着し、全力疾走でケーキ屋に向かうと、まだ店は閉店していませんでした。ギリギリで駆け込んだことを詫びて無事にケーキを受け取ると、店員は笑顔で「ぜひ旦那様と一緒に召し上がってください!」と言葉を送ります。店員による優しい笑顔で夫が亡くなったことは伝えられなかったものの、嬉しい気持ちになり、さらに家に帰ったら夫が待っているような気にもなったのでした。
帰宅途中、電車に揺られていた作者は夫のことを思い出していました。入院が必要な病だったのに「外にいないと気が滅入るよ」と言って会社に通い続けたこと。作者は「苦しいなら苦しいと言ってくれないとわからないんだよ」「打ち明けて苦しみを分け合いたかった」と心の中でつぶやきます。そこでふさいでいた感情のフタが開き、改めて自身が悲しんでいることに気づくのでした。
帰宅後、ケーキを取り出すも、夫による最後のケーキのためになかなか手が出ません。チョコレートプレートに書かれたメッセージも、夫が言っているようにも感じ、作者の悲しく、寂しい気持ちは溢れていく一方。そして、作者は、夫が最後に予約してくれたケーキの味を一生忘れないと誓うのでした。
読者からは「気づいたら涙が…」「泣けて仕方ない」など感動の声が。そこで作者に同作を描いたきっかけについて話を聞きました。
|
|
―同作を描いたきっかけを教えてください。
12月はじめに夫が亡くなって49日も経ってないので、ひとりで今年のクリスマスは静かに過ごそうと思っていたら、作中に描いたことが起こりました。この感動を一生忘れられないし忘れたくないなと思い、メモ感覚で描きました。
―同作の中で特に思い入れが強い場面があれば、理由と一緒にぜひお聞かせください。
やはりケーキ屋さんの閉店ギリギリに駆け込んで無事にケーキを受け取れた瞬間が一番記憶に残ってます。でも漫画にある通り、実はケーキ屋さんが閉店して店を閉めても声をかけてくれればケーキ渡せると聞いたときは心の中でズコーとなりました。
―様々な反響のなかでも心に残っている感想を教えてください。
|
|
同じ店舗で働いてらっしゃる方にも見てもらっていたようで「クリスマスシーズンはやはり繁忙期で目まぐるしいので来なくていい」という気持ちだったそうですが、私の漫画を見て「『幸せを売る仕事』なんだな」と思えるようになったそうです。そして「売る側もお客さんが幸せだと自分も幸せだと思える」というコメントを見てちょっと泣かされました。
―読者にメッセージをお願いいたします。
夫とのことを漫画にしようと思ったのは、生前、夫が「いつか自分の自伝本を出版社に売り込みたい」と話していたことがキッカケでした。本当にアホで面白い人でしたが、実は自分の苦労を誰かに知ってもらって、寄り添ってほしいという気持ちがあったのだと思います。
夫は大変苦労の多い人生だったので、ひとりでも多くの方に夫を知ってもらうことは夫自身の弔いになるかなと考えてます。微力ながら私が叶えてあげられたらいいなと思いますので、今後とも夫との思い出絵日記をSNSで綴っていきたいと考えております。少しでも自分のSNSを見て、今は亡き夫の夢を叶えるお手伝いをしてもらえますと嬉しいです。
(海川 まこと/漫画収集家)