名古屋駅のもう1つの顔。ミニシアター、町中華…昭和ムードと雑多さの残る「駅西エリア」が面白い理由

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2025年04月06日 21:20  All About

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名古屋駅の「駅西エリア」は、超高層ビルが並び立つ東側とは雰囲気が異なります。ミニシアター、雑多な商業ビル、短歌の聖地とうたわれる町中華、1日中モーニングの喫茶店など、個性的なスポットがあちこちに。慣れるとハマるディープな魅力をリポート!
名古屋観光の定番といえば、味噌カツやひつまぶしなどの「名古屋めし」や、金色のしゃちほこがシンボルマークの「名古屋城」、三種の神器の1つ草薙神剣を祭る「熱田神宮」などが有名ですが、“地元っ子が教えるおすすめスポット”に行けばもっと楽しい旅になるかも!?

今回は「駅西エリア(JR名古屋駅西側エリア)」をフィーチャー。名古屋在住の筆者が実際に歩きながら、街の特徴や見どころ、楽しみ方などを詳しく紹介します!

名古屋駅、西と東で異なる街の雰囲気

旅行などで名古屋を訪れる人たちのほとんどがまず降り立つのが名古屋駅。新幹線、JR在来線、名鉄、近鉄、高速バス、地下鉄が乗り入れ、名古屋観光の起点となります。
太閤通口の待ち合わせスポットは新幹線改札前の「銀の時計」。桜通口に近い「金の時計」と間違えるのも「名古屋あるある」なので要注意

このとき、名古屋の街へと繰り出す人の大半は、JR名古屋駅東側の桜通口を利用します。名古屋城、栄、大須などの主だったスポット、エリアはそろって駅より東に位置し、これらの場所へのアクセスにも便利だからです。また駅前の超高層ビル群もすべて東側に集中していて、桜通口側から望む景観は大都会・名古屋を印象づけます。

一方の太閤通口から西側エリアへと出ると、街の雰囲気は東側とは随分異なります。高層ビルはほとんどなく、量販店や昔ながらの商店、飲み屋やラーメン店が混在する雑多なムード。観光客がこの周辺エリアに目的地を求めることはあまり多くありません。

しかし、だからこそ面白いのがこの通称「駅西」エリアです。個性的なショップが点在し、名古屋ならではの歴史を感じられる散策ルートもあります。名古屋をよりディープに楽しめる要素に事欠かないのです。

秘境への入口となるミニシアター

「名駅(メイエキ=名古屋駅)のはずなのにアジアの雑踏街のような秘境っぽい雰囲気があるんです」というのはシネマスコーレの坪井篤史さん。太閤通口から徒歩1分の場所にあるミニシアターの支配人です。
シネマスコーレは1983年開業で約50席のミニシアター。「コアな映画マニアだけでなく若い映画ファンにも関心を持ってもらえるラインアップを心がけています」と支配人の坪井篤史さん

「“変なところ”がこの辺りにとっては褒め言葉。最初は少しハードルが高いけどハマると何度でも来たくなる。ちょうどうちのシアターが境界線のようなものなので、ここに映画を見に来られれば、さらに奥にも足を伸ばして、いろいろ面白いところがあると気付いてもらえると思います」

この言葉はシネマスコーレにもそのまま当てはまります。もともと映画監督の故・若松孝二氏が「若い映画製作者が作品を上映できる場を」との思いで開いた劇場だけあって、上映作品の大半はインディーズ映画。

「ここで上映したい!」「上映記念イベントもやって盛り上げたい!」という監督や俳優も多く、上映、企画のラインアップは唯一無二。映画マニアからカルト的支持を得ていて、ここをきっかけに映画、さらには駅西エリアをより深く好きになる人も多いのです。

商店街のようなごちゃごちゃ感が面白い複合ビル

ディープな駅西の入口、シネマスコーレを越えて先へと進みます。この一帯は輸入食材店や立ち飲み店など新旧の小規模店舗が目立ちます。一方でリニア中央新幹線の開通に向けた再開発の対象エリアでもあり、所々に真新しいカフェチェーンやホテルが。開発の波が寄せて引いている様子を街の景色から感じ取ることができます。
古くからの商店が並び、タイムスリップしたような気分も味わえる

その新旧が混在するまさしく街のはざまに、建物自体に古さと新しさが同居するホリエビルが現れます。1階は名古屋関連、名古屋にゆかりのある著者の本だけを専門に扱う書店「NAgoya BOOK CENTER」、その奥にはレトロなクリームソーダやホットケーキが人気の「喫茶River」。2階はフリーペーパー専門店「ONLY FREE PAPER NAGOYA」(当然、すべて無料!)などが入居する、ちょっと……いやかなり不思議な複合ビルです。
名古屋駅太閤口から徒歩3分の場所にあるホリエビル。現オーナー・堀江浩彰さんの祖父が果物商を営んでいた物件で、現在は書店、喫茶店、ギャラリー、デザイン事務所などが入居する

「祖父が建てた築50年以上のビルをリノベーションしました。この辺りは戦後の闇市から発展し、小さな長屋ビルが立ち並んでいました。近年はリニア開通に向けた再開発が進んでいますが、大手資本のチェーンばかりにならないよう、商店街がそのままビルになったような場所をつくりたかったんです」とオーナーの堀江浩彰さん。
「若い人がワケの分からない店を出せる雰囲気を街の中に残したかった」とホリエビルの堀江浩彰さん。背景の「NAgoya BOOK CENTER」は名古屋にまつわる本だけを取り扱うとびきりコアな選書が魅力

ホリエビル1階の喫茶Riverは、七色のクリームソーダやホットケーキなどレトロな喫茶グルメが名物

ホリエビルから通りを1本隔てた場所には古い旅館を改装した名古屋土産専門店「オミャーゲ名古屋」があり、こちらも堀江さんが運営。いずれもここにしかない個性あふれるショップで、これだけで駅西エリアに足を運ぶ目的になりそうです。
「オミャーゲ名古屋」は名古屋土産専門店。ここでしか買えないオリジナルグッズが中心


短歌の聖地で注目度急上昇の町中華

名古屋駅の太閤口から西へ延びるメインストリートの商店街が駅西銀座(名古屋駅西銀座通商店街)です。銀座という名称からして昭和の香りが漂い、レインボーカラーのゲートもどことなくレトロなデザイン。このゲート越しに名古屋駅の超高層ビル群を望む景観も、名古屋駅の西側と東側のコントラストを鮮明に映し出しています。
駅西銀座のゲート。駅東側の高層ビルも望むコントラストある景観がダイナミック

この駅西銀座の中で長く愛され続け、かつ近年注目度が高まっているのが1972(昭和47)年創業の中華料理店、「平和園」です。

「最近、若いお客さんがとても増えています。町中華らしさが評価されているのか、10〜20代の子が炒飯を食べて『懐かしい〜』と言ってくれるんです(笑)」と2代目店長の小坂井大輔さん。

筆者も古くから足を運んでいる店ですが、安心、安定の正統派の味わい。その特別ではないところが、近年の町中華ブームに乗って、若い世代にもウケているのでしょう。 もう1つ、この店が注目を集めているのは“短歌の聖地”であること。
ザ・町中華、ともいうべき平和園の炒飯。誰にでも親しまれる最大公約数的なおいしさ

「7〜8年前に店で歌人の集まりがあり、参加者の発案で短歌ノートを作りました。それから歌人たちが立ち寄ってくれることが増え、普段は短歌を詠んでいない人も、せっかくだからとノートに一首残していってくれるようになりました」

かくいう小坂井さんも歌人という顔も持ち、この春には2作目の歌集『KOZAKAIZM』を出版しました。アウトロー的視点が個性的だと評価され、そのバックボーンにはやはり駅西エリアならではの空気があるといいます。
平和園2代目店長にして気鋭の歌人でもある小坂井大輔さん。趣味はボクシングとギャンブル。X(旧Twitter)のポストでもしばしばバズっている

「僕が子どものころは路上で裸で寝ている人とか客引きとかがたくさんいて、どこか憎めないそういう人たちに自分を重ねて短歌を詠んでいます。短歌の世界ではこのような環境で育った人はあまりいないので、面白いと思ってくれているんじゃないですかね」と小坂井さん。

超高層ビル群を背にしながら庶民的なムードが残る駅西。その空気を感じながら、初めてなのにどこか懐かしい町中華を味わうと、インスピレーションが湧いてきて思わぬ傑作を詠めるかもしれません。

1日中モーニングの喫茶や歴史散策コース

駅西銀座には、他にも古さと新しさが同居した人気スポットが。古民家を再生させて2019年にオープンしたのはその名も「喫茶モーニング」。名古屋の喫茶店の代名詞ともいうべきモーニングサービスを、8時〜15時30分までの営業時間中を通して楽しめる“モーニングサービス専門店”です。コーヒー代だけでトースト、ゆで卵、サラダ、ヨーグルトが付いてきてすこぶるお得。

さらに250円プラスすれば小倉トーストやカレーが付いたりと、追加料金で内容がグレードアップしていきます。

旅行で名古屋を訪れる人の多くが体験してみたいという、お得な喫茶店のモーニング。朝の時間帯でなくても楽しめるのが名古屋ならではです。
喫茶モーニングの「小倉トーストセット」800円(税込/コーヒー代550円+250円)

また、歴史好きなら、名古屋市中村区出身の豊臣秀吉にちなんだ「太閤秀吉功路」を歩いてみるのもおすすめです。これは名古屋駅から中村公園までの約3キロメートルの歴史散策ルート。秀吉のエピソードを絵本風に表したモニュメントが歩道に沿って数々設置され、その出世ストーリーを追体験できるのです。
秀吉の生涯を描いたレリーフに沿って歴史散策を楽しめる「太閤秀吉功路」

駅西エリアのさらにマニアックな楽しみ方は、リニアの工事現場チェック。名古屋駅へリニアが乗り入れるための工事が現在進められていて、それにともない駅の東西に緑地帯が整備されています。

駅西エリアでは、太閤通口を出てやや北西の一帯が対象。街の景観が刻一刻と変化し、現在見られる景色は今だけのもの。完成はまだ先ですが、過程の景色を見た記憶や記録は、リニアが開通したときにこそ貴重なものになるはずです。
リニア駅開通に向けて大規模な工事が進む。完成後には広々とした緑地帯ができ新たなにぎわいが創出される計画


名古屋めしストリートの地下街・エスカ

マニアックな街歩きを楽しめる駅西エリアですが、誰もが気軽に楽しめる名古屋めしストリートもあります。太閤通口直結の地下街「エスカ地下街」です。
新幹線口直結の地下街、エスカ。2000年代以降、名古屋めしに特化したショップラインアップの充実を図り、大きく飛躍した。味噌カツ、味噌煮込みうどん、手羽先、ひつまぶし、きしめんなど主要な名古屋めしが一堂に会する

約80のテナント中、半数が飲食店で、そのほとんどでいわゆる名古屋めしを味わえます。味噌カツ「矢場とん」、味噌煮込みうどん「山本屋本店」、手羽先「風来坊」などの有名ブランドをはじめ、最近ではあんかけスパゲティ専門店「パスタ・デ・ココ」がオープンし、主要な名古屋めしはほぼ網羅。

ここでまず腹ごしらえして駅西エリアを本格的に歩くもよし、駅西をたっぷり散策してからここで心おきなく名古屋めし三昧するのもいいでしょう。
山本屋本店の味噌煮込うどん、矢場とんのみそかつ、風来坊の手羽先、コメダ珈琲店のシロノワールと主要な名古屋めしがそろい踏み

パスタ・デ・ココはカレーチェーンCoCo壱番屋が手掛けるあんかけスパゲティ専門店。名古屋駅エリア初出店でここだけの限定メニューも。写真は台湾肉みそスパ。そのほか、カレーパンのテイクアウトやモーニングセットもある

名古屋の玄関口、名古屋駅のもう1つの顔、駅西エリア。昭和のムードと雑多さを残す個性豊かな店や通り、そして再開発で大きく変貌するダイナミズム。両者を同時に体感できる刺激的な地域です。長らく足を運んでいないという地元の人も、ちょっと変わった名古屋観光を楽しみたいという人も、一度……いや二度三度と歩いてみてください。

大竹 敏之プロフィール

愛知県常滑市出身。大学卒業後、名古屋の出版社に勤務し、その後フリーライターとして独立。雑誌や新聞、Webメディアなどに名古屋の情報を発信する。著書は『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)『名古屋の喫茶店 完全版』(リベラル社)など多数。
(文:大竹 敏之(名古屋ガイド))
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