「ジャパネットクルーズ」10万人が乗船、好調の背景に思わず「なるほど」と感じる理由

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2025年04月07日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ジャパネットのクルーズが人気のワケ

 ジャパネットグループの旅行事業「ジャパネットクルーズ」が好調だ。2017年に事業を開始して以来、累計利用者数は10万人を突破し、年間売上高は150億円規模に達した。テレビショッピング事業で成功した同社が、なぜ専門性の高いクルーズ事業でも成果を上げられているのか。その背景に迫った。


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 ジャパネットクルーズの主力商品は、大型客船「MSCベリッシマ」を丸ごとチャーターした日本一周クルーズだ。別料金になることの多い、ドリンクパッケージ(アルコール飲料の飲み放題)やチップ代などを旅行代金に含んでいる点が特徴となっている。


 「最初の料金だけで、追加の支払いなく旅を楽しめる点が最大の売り」と、同社旅行企画戦略部の松川清志さんは説明する。


 寄港地の観光は通常、オプショナルツアーに参加するか、自分でタクシーやバスを利用する必要があるが、同社では無料の循環バスを運行しており、港から主要駅や観光地までバスが巡回する。好きな時間に降りて、好きな場所で乗り継ぎながら観光できる。


 さらに、船内にはスタッフが常時添乗するなどのサポート体制も整備。サービス品質が評価され、2023年には「クルーズ・オブ・ザ・イヤー2023」グランプリ(国土交通大臣賞)を受賞した。


●ジャパネットグループの販売チャネルを最大限に活用


 好調な業績を支える要因のひとつが、効果的なメディア活用だ。ジャパネットグループのテレビショッピングという販売チャネルを最大限に活用している。


 一般的に、旅行事業は手数料ビジネスで利益率が低いため、旅行会社は広告費に見合う効果を得にくいとされ、テレビでの宣伝に消極的なことが多い。しかし、ジャパネットは既存の通販事業で確保している年間放送枠を活用することで、媒体費用を抑えている。


 さらに、販売するツアー商品を絞っていることも強みだという。「定番の『MSCベリシマ』クルーズは、年9回のうち8回が日本一周という同一ツアー(2025年出港分)。同じテレビ番組で同じ商品を繰り返し販売できる」と松川さんは説明する。


 全船チャーター方式も、差別化要因の一つだ。すべての乗客がジャパネットの顧客となるため、飲み放題サービスや循環バスの運行などを効率的に提供できるほか、同じ商品を販売することで、大量仕入れによる単価の引き下げが可能になり、その恩恵を顧客に還元できている。


 こうしたビジネスモデルが安心感を与え、利用者の約8割をクルーズツアー初心者が占めるなど、支持を集めている。利用者からも「至れり尽くせりで、移動も食事もついてくるので安心できる」という声が寄せられている。


●「高級路線」の販売も好調に推移


 国土交通省によると、クルーズを利用する日本人乗客数はコロナ前の10年間で2倍超に成長し、コロナ禍以降も再び乗客数は増加が見込まれている。


 商船三井クルーズの「MITSUI OCEAN FUJI」(2024年12月就航)や日本郵船の「飛鳥III」(2025年7月就航予定)といった新造船のほか、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが「ファミリーエンターテイメントクルーズ」(2028年度就航予定)の計画を発表するなど、市場は今後もさらに活性化しそうだ。


 ジャパネットクルーズも、新たな戦略として高級路線の展開を強化している。同社の主力商品である「MSCベリッシマ」のツアーは、最安値が約25万円で、最高級の客室が約150万円(いずれも2名1室料金で、2025年出港分の金額)に達するが、意外にも予約は高級客室から埋まる傾向にあるという。


 高級路線として、2024年にチャーターしたシルバーシー・クルーズ社の豪華客船「シルバー・ムーン」のツアーでは、最安値を約110万円とした。ところが、この価格設定が裏目に出た。「一気に価格を上げすぎたために、販売が苦戦した」と松川さんは振り返る。


 その後、チャーターしたバイキング・クルーズ社の「バイキング・エデン」のツアーでは、反省を生かしてメイン価格帯を85万円程度に設定したところ、ほぼ完売した。価格帯の見極めも、今後の高級路線拡大の鍵となりそうだ。


●多様化するリピーター需要を取り込む


 国内ツアーで実績を重ね、現在では海外クルーズにも乗り出している。4カ国8都市を巡る12日間の地中海クルーズツアーは、販売開始直後に完売するなど好調だ。ネット上に情報を出しただけで、告知もほぼしていないが、順調に売れたという。


 背景について松川さんは、「ジャパネットクルーズというブランドがある程度認知され、信頼されてきた」と分析する。サービス品質の向上と顧客満足度の高さが、「ジャパネットのツアーなら安心」という評価につながっているようだ。リピーターの需要を取り込む新たな展開として、追加の日程も計画中だという。


 一方で、課題もある。まずは「オーバーツーリズム」の問題だ。同社のクルーズツアーの場合、MSCベリッシマであれば約4000人の乗客が一度に降りるため、寄港地に与える影響は小さくない。


 対策として、有料のオプショナルツアーを多数用意し、専門ガイド付きの観光や体験型アクティビティーを提供するなど観光客の分散を図っている。特に、チャーターしている船が外国船で、バスタブのある客室が少ないこともあり、温泉ツアーは人気が高い。


 そのほか、港を出発する時間や運行の間隔なども調整し、できるだけ広域に乗客を分散させることで、地域全体に経済効果が波及するよう工夫している。


 もう一つの課題は、リピーター向けの選択肢の拡充だ。同じ商品を売っているのは強みだが、2〜3回目の選択肢が少ないことも意味する。そこで、高級路線のほか、定番のMSCベリッシマのツアーでもルート拡大を進めており、今年の分はすでに完売した。来年はそのツアー本数も増やす方針だ。


●日本人の「観光寿命」を伸ばす


 ジャパネットは、高齢化が進む日本でシニア層の“観光寿命”を延ばすことを目指す。荷物を持ち歩く必要がなく、移動の負担が少ないクルーズは、高齢者に適した旅行スタイルといえる。実際に、同社が提供するツアーではシニア層の旅行意欲を引き出しており、旅を終えた参加者の中にはリピートする人も多い。


 「自分で電車や飛行機に乗って移動する観光は体力を使うが、クルーズは本当に楽」と松川さんは説明する。


 一方で、若年層の取り込みについて、現時点では特別な戦略を立てていない。「シニア向けサービスと位置付けてはいないが、現役世代はまとまった休暇を取得しにくいため、10日間程度のクルーズの良さを体験するのが難しい」と松川さんは説明する。


 ただし、コロナ禍以降はリモートワークなど働き方の変化もあり、意図せず若年層の利用も少しずつ増えているという。


 ジャパネットの利用者に寄り添ったサービスと、テレビの力を生かした販売戦略は、クルーズという異なる分野でも成功を収めている。「当社をきっかけにクルーズツアーに興味を持つ人も多いため、業界の成長にも貢献できている」と松川さんは手応えを語る。


 拡大が期待される日本のクルーズ市場において、ジャパネットの船旅は順調に航海を続けていきそうだ。


(カワブチカズキ)



このニュースに関するつぶやき

  • 船内で完結してくれるから、オーバーツーリズムに無縁てのはいいよね。新型伝染病の急速な感染拡大は困るけど。
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