新入社員を迎える季節になると、「何を言っているのか分からない」「言っていることが曖昧(あいまい)で理解できない」といった声をよく耳にする。
Z世代の若者とのコミュニケーションが難しいという悩みは珍しくない。なぜ世代間でこのようなギャップが生じるのか? その原因はSNSなどの影響で「文章の型」を意識しなくなったことにあるのではないか、と私は考えている。
そこで今回は新入社員の言葉がなぜ理解しづらいのか、その原因と対策について解説する。若手社員とのコミュニケーションに悩むマネジャーはぜひ最後まで読んでもらいたい。
●極端な短縮化とテンポ重視の若者言葉
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若者の言葉が分かりにくい大きな理由の一つは、スタイルが「極端な短縮化」と「テンポ重視」だからだ。2025年の若者言葉のトレンドを見ても、既存の略語をさらに短縮・強調する動きが進んでいる。
AさんとBさんの会話を読んでもらいたい。テーマは「テストの点数」だ。
Aさん:「どう?」
Bさん:「微妙」
Aさん:「70?」
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Bさん:「下」
Aさん:「50?」
Bさん:「上」
Aさん:「60?」
Bさん:「近い」
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Z世代はSNSの影響もあり、短文でゆるいラリーを求めている。ショートメッセージでのコミュニケーションに慣れた若者は、長い文章を組み立てるよりも、短く印象的なフレーズで伝えることを重視する。この傾向が職場での曖昧なコミュニケーションにつながっているのだ。
●「体言止め」が多すぎる新入社員の言葉
言葉を短くするのに便利なのは「体言止め」だ。体言止めとは、文章を名詞や形容動詞の語幹で終わらせる表現のこと。
ある社長が「入社して心掛けることは?」と3人の新入社員に聞いたところ、
Xさん:「自己管理」
Yさん:「柔軟性」
Zさん:「営業活動」
このように返ってきて戸惑ったそうだ。「単語で答えるんじゃなくて、もっと詳しく」と注意したら、
Xさん:「自己管理の徹底」
Yさん:「柔軟性アップ」
Zさん:「新規開拓」
このように「体言止め」で答えられてしまった。
「私は体言止めが大嫌いなんです」
社長はそう言うが、確かにスローガンや標題ならともかく、コミュニケーションで使うのなら控えたほうがいい。相手に正しく伝わらないし、自分の頭も整理しづらいからだ。
●「体言止め」の問題点を考える
例えば「生産性向上」というフレーズを考えてみよう。これだけでは「誰が」「何を」「どのように」向上させるのかがまったく伝わってこない。「今期のあなたの目標は?」と聞いて「生産性の向上」と答えられても、上司は戸惑うだろう。
それが「私が生産性を向上させる」という意味なのか、「何かが生産性を向上させてくれる」ということなのか判別がつかない。
「向上させる」と「向上する」では意味が大きく異なる。「向上させる」のケースでは、生産性は目的語になるはずだ。主語が省略されているので、はっきりさせるべきだ。一方「向上する」であれば、「生産性が向上する」となるので、生産性そのものが主語になる。
そしてもし「生産性を向上させる」という意味で表現したのなら、これは能動的な行動を指している。一方「生産性が向上する」という意味で使うなら、これは結果だ。どのようにしたら生産性が向上するのか、その根拠を示す必要があるだろう。
●英語の文型を意識して話す重要性
英語では「SVO(主語+動詞+目的語)」「SVC(主語+動詞+補語)」「SVOC(主語+動詞+目的語+補語)」といった明確な文型が存在する。日本語では文型が英語ほど厳密ではないものの、これらの構造を意識することで格段に伝わりやすくなる。
例えば「生産性の向上」という体言止めの代わりに、英語的な文型を意識して「私は(S)生産性を(O)向上させます(V)」と言えば、はるかに明確だ。あるいは「私たちのチームは(S)新しい業務プロセスを導入して(手段)、生産性を(O)向上させます(V)」とすれば、さらに具体的になる。
この英語的な構造の利点は、「誰が」「何を」「どのように」という要素が明確に示されることにある。文型を意識するだけで、曖昧さが大幅に減り、理解度が向上するのだ
●主語がない言葉は誤解のもと
日本語は主語を省略することが多い。これも混乱を招く大きな原因となっている。「生産性を向上させます」と言われても、誰が向上させるのかが明確でなければ「自分がやるのか」「チームとしてやるのか」「経営陣に要望しているのか」が分からない。
英語では主語なしの文章は成立しないが、日本語ではむしろ主語を省略するのが自然とされる。しかし、ビジネスの場では「私が生産性を向上させるために、〇〇を実行します」「チーム全体で△△という取り組みを行い、生産性を向上させます」というように、主語を明確にしよう。そうすることで相手に伝わりやすいし、自分の頭の整理にもつながる。
特に新入社員の言葉がぼんやりと受け取られてしまうのは、「誰がやるのか」が見えにくいことだ。やる気のある人ほど「私が」という表現を明確に使う。だから聞き手も「この人に任せられる」「主体的だな」と理解できる。いっぽう「生産性の向上」「売り上げの増加」と体言止めで言われると、「本人がやるつもりなのか、それともみんなで取り組むということなのか」疑問が生じる。
●「体言止め」に対する効果的な質問法
体言止めの癖が強い人には、どのような質問をすれば効果的だろうか。いくつかの例文を紹介しつつ、説明用使用。次のような問いかけが有効だ。
主語を明確にする質問
「その○○は、誰が行うことなの?」
「あなた自身がやるということ? それともチームで?」
動詞を引き出す質問
「○○するというのは、具体的にどのようなアクションをとるということ?」
「○○とは、実際に何をすることなのか、具体的に教えて」
目的や方法を聞き出す質問
「なぜそれをしようと思った?」
「どのような方法で実現しようと考えているの?」
時間軸を明確にする質問
「それはいつまでに完了させる予定かな?」
「スケジュール的にはどう考えているの?」
確認や要約を促す質問
「今あなたが言ったことを、もう一度自分の言葉でまとめて」
「つまり、あなたは○○をして、△△を実現したいということで、いい?」
難しく考える必要はない。質問を通じて、主語や述語、目的語、具体的な根拠、具体的な手段などを明らかにしていけばいい。
つまり上司は新入社員の曖昧な発言を聞いたら、いったん受け止めること。そして質問をしながら相手の考えを引き出すことだ。そうすれば、新入社員も自分の考えを言語化する練習になる。次第に体言止めの癖も改善されていくだろう。
●理解しやすい話し方の5つのポイント
最後に、新入社員に限らず「何を言っているのか分からない」とよく言われる人は、もっと文型を意識して発言するようにしよう。そのためのポイントを5つ紹介したい。
SVOの文型構造を意識する
主語(誰が)、動詞(何をする)、目的語(何に対して)の関係を明確にする。
体言止めを避け、「〜する」「〜させる」といった動詞で終わらせる
「生産性の向上」ではなく「○○が生産性を向上させる」「○○によって生産性が向上する」と表現する。
「私が」「チームで」といった主語を省略しない
「誰がやるのか」を常に明確にしておく。
行動の目的や手段も明示する
「なぜそれをするのか」「どのようにするのか」も具体的に加えると、さらに整理される。
一文一義を心掛ける
一つの文章には一つの内容だけを盛り込み、複雑な文章は避ける。
これらを意識するだけで、「言いたいことが伝わらない」という問題はかなり軽減される。とくに新入社員は、自分の発言が上司や先輩に理解されないと、否定された気分になるだろう。せっかくやる気があっても、その気分を失ってしまうことも多い。それを避けるためにも、文型構造を意識した話し方を心掛けてみよう。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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