写真保険の営業3年目、FPの資格を保持しているえぴこさん。将来を見据えて貯金をはじめ、瞬く間に貯金の才能が開花。
貯金ハイになる反面、これでいいの?という迷いも芽生えて……。
◆私、どうして貯金しているの?
『貯金オタク、5000円の石けんで目覚める。』(オーバーラップ)は、貯金をとおして生き方の重要性を問うコミックエッセイです。結婚、子育て、そして仕事。著者の小日向えぴこさんの生活と悩みは、まさに等身大。
100円を我慢して貯金に回すか、100円を使ってゆとりを買うか、ぎりぎりまで迷い、心を擦り減らす日々。ページをめくるたびに、「わかる!」とひざを打たずにはいられないのです。
◆先行き不安な未来を貯金でカバー
えぴこさんが貯金に目覚めたのは、ご自身の未来予想図を具体的に考えてから。独身ルートも既婚ルートも、それなりにお金がかかります。さらに年老いた時を想像したら、助けになるのはお金だけ。
老後二千万円問題を世間が掲げ、年金受給もままならない今、自分の身は自分で守るというのが鉄板になりつつあります。えぴこさんはさっそく貯金計画をたてますが、目標は「月7万円」。
漠然(ばくぜん)と、けっこうな金額だと思いますよね。えぴこさんは保険会社勤務で、ごく平均的な収入です。真面目な性分からか、ハードルの高さをうっすらと自覚しつつも、えぴこさんは目標を達成し続けます。
しかしやがて、過度な自制というストレスに、苦しむことになるのです。
◆将来と今、どちらが大事?
未来の自分や家族のために備えるのは、とても大切で必要不可欠です。とはいえ、一番若くて活動的な“今”を犠牲にしてまで、貯金に励むべきなのか。いざ、お金が使える年齢になった時、病気になってしまったら?
本業の会社員、副業として開始した漫画の仕事。多忙MAXで飽和状態の中、YouTubeを見てハッとします。
いわゆる「ていねいな暮らし」系のYouTubeですが、そこには純粋に「好き」で固められた世界が広がっていたのです。
思えば、生活必需品を購入するさいも、「好き」よりもまず「安い」ほうを選んできました。自分自身に妥協するというのは、自分の心に嘘をつくのと同じではないでしょうか。
気がつけば、身の回りのものが「中途半端」で埋め尽くされて、居心地の良さがなくなっていました。
◆友人からの贈り物の効果が…
将来への投資ばかりに夢中になって、今の自分をないがしろにしていたのではないか。戸惑(とまど)うえぴこさんに届いたのは、1本のハンドソープです。
友人からの贈り物で、惚れ惚れするほど素敵なデザイン。調べてみたら、なんと1本5000円。倹約を良しとしていたえぴこさんにとっては、破格のお値段です。
おそらくえぴこさんご自身では手にも取らず、到底購入しない代物。おそるおそる使ってみたら、これがもう、夢のような香りで洗いあがりもしっとり。
効果はそれだけではありません。洗面所にお気に入りのハンドソープが置いてあるだけで、そこで過ごす時間が宝物のようになるのです。
◆貯金に支配されず、自分を尊重する
生活にひとつ究極の「好き」があるだけで、心が潤う。元気が出て、明日も頑張ろうと思える。ささやかですが、人が生きている意味は、こんなところにあるのかもしれません。
もちろん、衣食住すべてを「好き」で満たすのは大変ですし、お金もかかります。貯金を崩すのは本末転倒。とはいえ、今の自分と将来の自分とうまく折り合いをつけ、日常を彩れば笑顔が生まれます。
1本のハンドソープが、えぴこさんのマインドを豊かなものに変えました。その後の貯金の計画がどう向上したのか、ぜひ、あなたの目で確かめてみてください。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx