岩手県の一次産業が抱える課題の解決を目指す - 「食とエネルギーの総合産地化プロジェクト」が2年目に突入

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2025年04月07日 10:10  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
NTT東日本 岩手支店は、岩手銀行、JDSCとともに「食とエネルギーの総合産地化プロジェクト」を2024年4月より本格始動。本プロジェクトは、ICT・IoTを活用したスマート農業システムとAI・データサイエンスを活用した岩手県の一次産業およびエネルギーの流通と循環を実現することを目的としており、2025年4月より2年目を迎える。


「岩手県の主要産業は農業を含めた一次産業が中心」というNTT東日本 岩手支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当 チーフの竹村健次氏は、「そこに我々のITやDXのテクノロジーを導入して、さまざまな農業課題を解決し、“岩手モデル”を構築することが本プロジェクトの大きな目標」と説明する。


本プロジェクトにおいて、各社の役割は、一次産業を発展させていくためのファイナンス面を支える岩手銀行がプロジェクトに賛同する営農者および圃場の選定、NTT東日本がセンシング機器などデバイス面の提供、AIスタートアップであるJDSCがデータ分析を担当。最終的には、農業の効率化を図り、稼げる農業を目指すとともに、新規の就農者の敷居を下げられるようなパッケージの構築を目指すという。



「今回のプロジェクトでは、地域課題に対し、銀行としてどのようなチャレンジができるか。そういった切り口で参画している」という岩手銀行 フロンティア事業室 プランナーの岩渕将知氏。「今の食糧危機が、今後岩手に対して大きなインパクトを与える危険性を鑑み、何か打ち手を考えておかなければならない」との想いが、本プロジェクトのきっかけになっていると振り返る。


岩手県の農業が抱える課題はいくつかあると前置きしつつ、そのひとつとして岩渕氏は「荒廃農地」について言及。「農業従事者がどんどん減っていく中、農作物を作らなくなって荒廃した農地は、基本的には元に戻せなくなる」という農地そのものの問題に加え、「荒廃農地は、シカやイノシシ、さらには病害虫の住処になったり、不法投棄の温床にもなってしまう」という二次的な問題についても指摘する。



岩手県で大きな問題となりつつある荒廃農地の増加は、農業従事者の高齢化と労働力不足が大きな原因のひとつ。「農業は身体への負担が大きく、専門性も求められるため、なかなか新規の若い就農者を確保するのが困難」という岩手銀行の岩渕氏。実際、農業に従事する人は、30年前に比べるとおよそ3分の1にまで減っているとのことで、「このままのペースで進むと、どんどん食べ物がなくなる世界というのが現実になっていく」と警鐘を鳴らす。一方、昨今の異常気象も大きな問題となっており、岩手県でも、夏には35度を超える日が増えていることから、「年々、農家さんにとっても、農作物にとっても厳しい環境になっている」と訴えかける。



多くの課題を抱える中、2024年4月からスタートしたプロジェクト第一弾となる取り組みでは、岩手県金ヶ崎町の農家に協力いただき、20アールの飼料用米圃場を確保。圃場の6カ所にセンサーを設置し、水温や水位を計測する一方で、自動給排水などによる作業環境の検証、さらに年4回のドローンによる生育状況調査などが行われた。


田植えから収穫のギリギリまで、30分単位でデータを計測。データ分析を担当したJDSC 博士(社会工学)の辻本隆宏氏は、今回の調査結果を検証した際、事前の想定とは大きく異なる結果もあったと振り返る。「水田において、水の入ってくるところと出てくるところでは、当然水温が異なるわけですが、入ってくるところのほうが水温が低いため、生育状況も悪くなる」と想定していたが、実際に計測したところ、水の入ってくるところのほうが生育が良いという結果になったという。



「よくよく考えてみると、猛暑によって通常の水温が上がりすぎてしまい、水温が低いはずの水が入ってくるところのほうが実は適温だった。こういった予想外のことをデータからきっちり確認できたのが良かった」という辻本氏に対して、NTT東日本の竹村氏は「それが今年も同じ様になるかどうかがまさに検証したいところ」と反応する。

「もし寒い冬になった場合、どうなるか。データを分析する立場としては、データはあればあるほどうれしい」と、辻本氏が今後のプロジェクト継続に期待を寄せると、NTT東日本 岩手支店 ビジネスイノベーション部 ビジネス企画担当の外久保貴恵氏も「実際、一年で答えが出るものではないと思っています」と同意。



「何年か計測を続けることで、ようやく仮説が出来上がって、データ化できるので、できるだけ長く続ける必要がある」という言葉に、岩手銀行の岩渕氏は「水稲の場合、一年に一回しか育てられないので、どうしても一サイクルが一年と長期スパンになってしまう」と指摘し、「だからこそ、これまでチャレンジする方が少なかったし、我々が挑戦する意味がある」と続ける。


そして注目の2025年度となるが、「昨年の調査結果をもとにして、本当に我々の考えた水温や環境が適切であるかどうかを検証するのが今年。もちろん、ただ検証するだけでなく、前回把握しきれなかったデータの収集も行いますし、もし可能であれば飼料用米だけでなく、食料用米でも検証してみたい」というNTT東日本の外久保氏。



そして、「最終的なところでは、農業従事者の高齢化および新規就農者の減少による労働者不足の解決に結びつけたい」というNTT東日本の竹村氏は、「そのためにも、農業に長年携わっている方の知恵のような部分をデータ化できれば、それを提供することによって新規参入の敷居も下げることができる」と言及。



さらに、温暖化などの気候変動に対しても、AI技術などを利用することによって柔軟に対応できる仕組みの構築を目指すという。そして、稼げる農業を目指すために、販路や流通に関しても検討する必要があるほか、SDGsの観点から、J-クレジットの導入によって、炭素の排出量を減らしながら、収入も増やすという方策も検討。「いろいろな角度からできることがたくさんあると思っていますので、その部分についてはさらにディスカッションを深めていきたい」と今後の展開に意欲を見せる。



「我々は本プロジェクトのターゲットを“一次産業”と定義しているので、まずは農業を中心に動いていますが、今後は畜産や水産へも拡大を図り、岩手県の一次産業全体をさらに活性化していきたい」というNTT東日本の外久保氏。



岩手銀行の岩渕氏は「プロジェクトの検討が始まった当初、“稼げる農業”を目指すうえで、スマート農業による効率化とともに、太陽光パネルなどを設置して、副収入にできないかという構想があった」と振りつつ、太陽光パネルと稲作の相性が良くないこともあって、計画はいったん棚上げになっていると話す。「ただ、畜産や水産との相性は良いはずなので、例えば畜産の場合、畜舎の上に太陽光パネルを設置して、エネルギーを作り出す一方で、我々が現在作っている米を飼料として利用する。そういった循環を作ることが理想」であるとし、みんながWin-Winになれる関係性を目指していきたいとした。


また、J-クレジットに関連して、「中干し期間の検証」を行ってみたいというJDSCの辻本氏。水田の場合、水を張っているほうが炭素発生量が多くなるため、中干し期間を延長することによってJ-クレジットが発生する。辻本氏は「J-クレジットのために、中干し期間を伸ばして、その結果として収穫量が減ってしまうのであれば本末転倒」だと話し、「中干し期間の長さが収穫量にどの程度影響するかをデータで検証し、最適な長さを見極める」ことを今後の課題として挙げる。



さらに、岩手銀行の岩渕氏は、「区画の最適化」について言及し、「現在は小さな水田がたくさんあって、それを個々の農家の方が持っているのですが、可能であれば整備して、一枚の大きな水田にできれば、効率的に農業ができるのではないか」という点も検証していきたいという。そして、若年層の就農を含め、「今年何かを始めるというよりは、何ができるかを考えていく年にしたい」と2025年度の活動を定義。



「農業に関わらず、NTT東日本さんが持っている通信やIoTに関する技術は、今後ますます必要不可欠になってくる」との見解から、「地域を活性化するためにも、協力して取り組ませていただきたい」と岩渕氏が呼びかける。JDSCの辻本氏も、「データ分析には、多種多様な観点かつ多くのデータ収集が不可欠」との観点から、NTT東日本が持つセンシング技術に注目。「ぜひとも今後長きにわたって勉強させていただきたい」と期待を寄せる。



NTT東日本の竹村氏は「今回は、農業をはじめとする一次産業を取り扱っていますが、そこに限らず、弊社のテクノロジーを活かして、広い県内の様々なご要望に応えていきたい」との展望を明かすと、同じくNTT東日本の外久保氏は「そのためにも、地域の様々なお客様の窓口となっている岩手銀行さん、データ分析に関する最先端のノウハウをお持ちのJDSCさんのような企業と連携して、さらなる活性化を目指していきたい」と締めくくった。(糸井一臣)

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