《降灰30cmで木造家屋が倒壊。3cm未満でも鉄道・飛行機が運航停止》
3月21日、内閣府は富士山の大規模噴火で首都圏に火山灰が降った際の影響と対策について報告書を公表。
降灰量に応じて地域の危険度を4段階に分け、住民行動の基本指針を示している。
「富士山は、もはや噴火スタンバイ状態です」
と語るのは、地球科学者で京都大学名誉教授の鎌田浩毅先生。
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今回の報告書では、火山灰が2週間以上も降り続け、江戸の町に5cm、横浜に10cmの厚さとなった1707年の宝永噴火を想定しているが……。
「その噴火を最後に富士山は300年間沈黙を保っています。その間、地下ではマグマをため込んでいる。
次の大噴火では前回の5割増しのマグマが噴出し、大量の火山灰が10日以上降り注ぐことも考えられます」(鎌田先生、以下同)
2020年の政府の中央防災会議では、宝永級の噴火があった場合、東京新宿区で10cmの降灰があるとされているが、それ以上の降灰量もありえるという。
降灰による影響は甚大だ。鎌田先生がこう続ける。
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「火山灰は細かいガラスのかけらです。火山灰が5mmも積もると、ぜんそくや気管支炎を患っている人は容体が悪化。2cmを超えるとほとんどの人の気管や肺に症状が出ると考えられます。
また火山灰が1cm積もっただけで1平方mあたり重さは10kgほどに。雨が降ると20kg程度と倍になり、木造住宅の屋根は持ちこたえられません。
1991年に起きたフィリピンのピナツボ火山の噴火では、直後に台風が襲い、火山灰に水の重さが加わり避難先の建物が倒壊。700人以上の死者が出ています。同様のことが首都圏で起こってもおかしくありません」
報告書でも降灰量30cm以上は、命の危険があり原則避難を求めている。
さらに降灰量が少なくてもインフラに大打撃を与える。
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「降灰が3cm未満だとしても電車、バス、新幹線、飛行機はストップします。エンジンに灰が詰まったりスリップしたりして自動車の運転もできません。信号など電気系統が故障して、交通機関はすべて機能しません。物資が届かない状況に陥る可能性も。
また電力、ガス、水道、通信などインフラを制御しているコンピューターや精密機器に灰が入り込むと使いものにならなくなるため、すべてのライフラインが長期間にわたって止まります。緊急連絡をとりたくてもスマホが使えないという事態もありえるのです」
そんな火山灰の影響をまとめた図を参照に。
さらに影響は首都圏だけにとどまらない。
「東名高速道路や東海道新幹線といった東西の大動脈が分断。
また運輸や金融などのシステムにも深刻なダメージを受けますが、このシステムのホストコンピューターの大部分は首都圏にあるため、経済的な被害は日本中に及びます。
2002年に内閣府が出した富士山噴火による被害額は最大で約2兆5千億円ですが、想定外の被害も考えられ損失は一桁大きくなると考えています」
「富士山火山防災協議会」は、富士山が噴火した場合の人的被害として1万3千600人が死傷と想定しているが、10倍の10万人以上が命を落とすこともありえるのだ。
■ふだんの防災用品に加え降灰にも備えた備蓄を
死者32万人が想定されている南海トラフ地震との連動も危惧されている富士山大噴火。どうやって命を守ればいいのだろうか。
「富士山は突然噴火するのではなく、3週間から1カ月ほど前から低周波地震、有感地震、火山性微動といった『前兆現象』が次々と起こります。この時点で避難することで噴石や泥流など直接的な災害死を防ぎます。
また水、食料、医薬品、簡易トイレといった地震などのほかの災害の備えに加え、降灰に備えた備蓄が重要です。
火山灰を吸い込んだり体に付着させたりしないための防じんマスクやゴーグル、レインコート、傘や帽子などの用意を。帰宅したら玄関先で火山灰を払って入室する必要もあります。
さらに、火山灰を家に入れないことも重要。窓を閉めることはもちろん、窓ガラスを目張りするテープを用意するのもいいでしょう」
首都圏だけでなく全国におよぶ富士山噴火の被害を最小に防ぐためにも、事前にできる限りの対策を心得ておこう。
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