マンガ編集者の原点 Vol.17 「花に染む」「銀太郎さんお頼み申す」の北方早穂子

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2025年04月07日 17:01  コミックナタリー

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マンガ編集者の原点 Vol.17 「花に染む」「銀太郎さんお頼み申す」の北方早穂子
マンガ家が作品を発表するのに、経験豊富なマンガ編集者の存在は重要だ。しかし誰にでも“初めて”がある。ヒット作を輩出してきた優秀な編集者も、成功だけではない経験を経ているはず。名作を生み出す売れっ子編集者が、最初にどんな連載作品を手がけたのか──いわば「担当デビュー作」について当時を振り返りながら語ってもらい、マンガ家と編集者の関係や、編集者が作品に及ぼす影響などに迫る連載シリーズだ。

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今回は、くらもちふさこの「駅から5分」「花に染む」シリーズ、東村アキコ「美食探偵 明智五郎」「ハイパーミディ 中島ハルコ」「銀太郎さんお頼み申す」のほか、一条ゆかり、槇村さとるらを担当し、集英社の少女マンガ・女性向けマンガを支えてきた編集者・北方早穂子氏が登場。くらもちの作品では「さっほー」、東村の作品では「一見殺し屋みたいなKさん」と、肉体派で仕事の速い編集者として読者にも馴染みの深い北方氏。作家の父を持ち、マンガと歌舞伎、宝塚をこよなく愛す編集者だ。ベテランから新人まで、女性作家からの信頼厚い北方氏の、初ロングインタビューをお届けする。

取材・文 / 的場容子

■ 「はいからさん」と「スター・レッド」の衝撃
北方氏の子供時代は「適度に外で遊び、適度に家でマンガを読む、普通の子」だったという。

「5つ上のいとこがいて、彼女からお下がりのマンガをもらうことが多かったです。最初は『ベルサイユのばら』(池田理代子)と『はいからさんが通る』(大和和紀)を小学校1年生の入学式のときにもらい、そこから4年生ぐらいまで新たなマンガを買い足してもらえず(笑)。2作品合わせて18冊なんですが、それを1日1回、ひたすら読んでいました」

「ベルばら」と「はいからさん」。最初に手に取るマンガにしては、子供向けとは言えない少女マンガである。

「最初、全然わかっていなかったんです。オスカルとアンドレの初夜シーンは『2人でかけっこした後に、疲れて寝てるのかな?』って思っていたくらいで(笑)。成長した後に読むと全然違って読めますね。いまだにこの2作品は好きで読んじゃいます」

2人でかけっこ! なるほど、何も知らないとそう読めてしまうのか──なんともかわいらしいエピソードだ。

「風邪を引くと親が 3巻完結くらいの作品を買い与えてくれるルールが我が家にあったんですけど、私自身があまり風邪を引かない子供で。小学校4年生になって萩尾望都さんの『スター・レッド』と萩岩睦美さんの『小麦畑の三等星』が加わってからは、毎日その4作を繰り返し読んでいました。

なぜその2作だったのかはわからないのですが、『スター・レッド』もすごく難しかったし、『小麦畑』もやっぱりSF系のお話。どちらも最後がハッピーエンドでめでたしめでたし、みたいな終わり方ではない。そういうマンガがあることに鮮烈な驚きを覚えて。そこから、世の中にはほかにもマンガがたくさんあるのではと気づき、親にお願いしてりぼんを買ってもらうようになりました」

確かに、特に「スター・レッド」はラストはもちろん全体のストーリーも、大人が読んでもかなり深淵で、小学生には難解だろう。ともかくこうした体験が「忘れもしない、小学4年生の出来事」だったと語る。そこから北方氏が毎月りぼんを買ってもらい、なかよしを買ってもらっていた友達とお互い貸し借りをして両誌読む日々が始まった。

当時、なかよしの看板作家はあさぎり夕で「ミンミン!」を連載中。北方氏のお気に入りはホラーの名手、松本洋子。りぼんは一条ゆかり、谷川史子、吉住渉、水沢めぐみを執筆陣に迎えた「黄金時代」だったという。

「マンガにはカラーページがあるとか、月に 1回雑誌が出て新しい話が増えるという文化があることを知りました。それまでは単行本でしか読んだことがなかったので、雑誌が売っていることも知らなかったし、書店でも児童書のコーナーにしか行っていなくて。マンガのコーナーは大人が行くところというイメージでした」

当時の「なかよし」は、武内直子が「美少女戦士セーラームーン」を連載する前。「ま・り・あ」やフィギュアスケートものの「Theチェリー・プロジェクト」を描いていた頃だった。

「ちょうどなかよしが付録にすごく力を入れだした時期で、あの頃のりぼんとなかよしは紙ものの付録の戦争でした(笑)。りぼんでは、作品の絵柄のトランプが付録でついてきたことがあって、後年吉住さんを担当させていただいたときに、当時私がすごく大切にしていたトランプの原画を見せていただく機会があってすごく感動しました」

北方氏と同じように、姉とりぼん・なかよしを毎月食い入るように読んでいた我が身としては、今回取材後にトランプの絵柄をネットで調べ、懐かしさに胸がつぶれそうになった。

「その頃になると、『はいからさん』で描かれていることも、『かわいい子が元気にがんばって暮らしている』以上のことを理解できるようになってきて。日露戦争、満州、関東大震災──いろんな言葉や歴史背景を教わりました。主人公の紅緒さんは職業婦人になっていくんですが、自分が働くようになってから、女の人が働くことについても実はしっかり描いていたマンガだったと気づきました。すごいマンガだったと思います」

■ 「はいからさん」が教えてくれた「編集者の真の喜び」?
実は、北方氏が編集者を志したのにも、「はいからさん」が大きく関わっていた。

「編集者という存在を知ったのは『はいからさん』が最初でした。紅緒さんは職業婦人になるというお話をしましたが、それが雑誌編集者なんです。彼女は作家さんに原稿を頼みに行き、三顧の礼を尽くして丁寧にお願いするのですが、作家さんが『書きます』と言った瞬間に豹変して、締め切り守らせるためにムチを振るう、物理的に(笑)。『これぞ編集者の真のよろこび』とあって、どういうことだ?と思っていました。

紅緒さんがムチをふるったのは、純文学でくすぶっている高屋敷先生という作家さんで、彼女はその先生に娯楽ものの新連載を書かせるんです。すると話題になって人気が出て、廃刊寸前の雑誌が蘇る、といったストーリー。それを読んだときに、『物語の向こうには、誰か別の人がいるんだ』とハッとしました。本や雑誌は作家さんと編集だけでもできなくて、いろんな人がいて作品になっているということを『はいからさんが通る』で知ったんです」

「物語の向こう」に気づいてからは、編集者という存在を気にするようになった。

そうして、北方氏のマンガ好きはにわかに加速。中学生頃からは、貪るようにマンガを読むようになったという。秋田書店では「やじきた学園道中記」(市東亮子)、天城小百合、姫木薫里。白泉社では、「ここはグリーン・ウッド」(那州雪絵)や「ぼくの地球を守って」(日渡早紀)。小学館では「BANANA FISH」(吉田秋生)。加えて、大和和紀や池田理代子、萩尾望都の過去作を読み漁る日々だった。

「吉住渉さんの作品も大好きで。『ハンサムな彼女』の可児くんが好きなのですが、髪にトーンが貼ってある男の子に出会った最初の作品です(笑)。りぼんは毎月3日発売なのですが、毎月1日には、本当に具合が悪くなるくらい楽しみでした。2日には、もう売ってないかなって書店に見に行ったりしていました。

マンガは、自分のペースで読めるところが好きで、そこがいいところだと思います。アニメや映画だと一度聞き取れなかったり、いいシーンの余韻に浸っていたりするとそのまま物語が進んで置いてかれちゃったりする。映画よりも本よりもマンガが好きでしたね」

■ 父との暮らしで、身をもって知ったこと
ここで、以前からずっと気になっていたことを聞いてみた。北方氏の父は、有名な作家。北方氏が編集者という職業を選んだのは、父親の影響が大きかったのでは、と勝手にストーリーを思い描きながら来たのだが、どうやらそうではないようだ。北方氏が編集者を目指すようになるまでの道のりに、父からの影響は「まったくない」という。

「父の作家業は、私が学校に入った頃にやっと仕事になってきたくらいでした。私がもともと小説は好きではないこともあり、父の作品はもちろん、家にある蔵書も読まなかった。6つ下の妹も同じで、妹にいたってはマンガも読んでいませんでした(笑)。ただ、父が自分の書いたものを読んでほしいと思ったのか、私たちがそれぞれ小学生のとき、小学館の「小学一年生」『子供向けの物語を書かせてくれないか』と持ち込み、連載させてもらっていました。

「父は、『マンガを読むのやめなさい』ってずっと言ってました。なんなら今も言ってます(笑)。私はマンガを仕事にしていて、働いているんだけどな、みたいな(笑)」

歴史は繰り返す、とは言うが、北方氏の父もまた、氏が小説家として身を立てていくことに最初は否定的だったという。その関係性と少し似ている気がする、と話すと、北方氏も「そうかもしれない」と笑った。

「本当にたくさんの方に父の作品を読んでいただいているんですよね。子供の頃は、だからこそ娘である自分はご飯が食べられる、と思っていました。『誰かが本屋さんでお父さんの本を買ってくれるから、家にお金が入って、私は学校に行けるんだ』って。だから、今編集として仕事をしていて父からの影響があるとしたら、もしかしたらその感覚かもしれない。誰かに作品を買ってもらわないと、そのマンガ家さんはご飯が食べられなくなってしまうという感覚が、一番の影響かもしれないですね」

■ 「道成寺伝説」を突き詰めた大学時代
さて、北方氏の少女時代に話を戻そう。中学で本格的なマンガ好きになった北方氏は、高校生になると、「マンガを作る過程のどこかに関われる人」になりたいと思うようになった。

「自分でマンガを描きたいとは思わず、『いつかマンガのあとがきに書いてもらえるような人になりたい』という、幼い夢ですね。それこそ『アイドルになりたい!』みたいなのと同じぐらいの感覚でしたが、印刷する人、写植を打つ、デザインする人か……何かどうにかマンガに関わりたい、と思っていました」

そんな夢を抱きながら、大学は清泉女子大学の文学部に進学。そこにもストーリーがあった。

「高校3年生のときにその大学の先生の論文を読むことがあったんですが、すごく面白くて。私は高校で歌舞伎が好きになったんですが、歌舞伎や芸能の起源はどこにあるのかについていろいろ探って読んでいるうちにその先生にたどり着いて。万葉集、貴種流離譚、異類婚姻譚や芸能の歴史をはじめ古代の文学における恋愛観などについて研究している方でした。その先生に教えてもらいたいと思っていたら、ちょうどその本を見た叔母が『私が通った大学の先生だ、あなたにもぜひ行ってほしい』と勧めてくれました。

実際入学してみると、少人数制でいろんな研究を深くやらせてくれるところで。とある友人は、大学生活を通して“恋と愛とは何が違うか?”について研究していて、『日本には“愛”はもともとなかったに違いない』みたいな説を繰り広げながら4年間を過ごしていました。変わり者がたくさんいて刺激的でした」

清泉女子大学の設立母体は聖心侍女修道会という、スペイン・マドリッドで誕生した修道会であり、キャンパスは五反田にある旧島津家の本邸。北方氏の言葉通り、少人数制の教育を伝統として持つ大学だ。それにしても、高校で歌舞伎、そして万葉集──渋い、渋すぎる。そして北方氏は、一度好きになったらとことん突き詰めるタイプであるというのがわかってきた。

「ひと言で言うとオタクでした(笑)。高校の文化祭でも1人で歌舞伎や文楽の展示をしたり。今思うと渋い高校生だったなと思いますけど、当時、私の中で一番の萌えだったんです。超萌えていました」

そんな北方氏が大学で研究テーマに選んだのは、道成寺伝説。いわく、「元祖女性ストーカーの話です」。ところは紀州道成寺、旅の若い僧・安珍に懸想した女性・清姫が、安珍恋しさに追いかけるうち大蛇に姿を変える。安珍は逃げ込んだ道成寺で釣鐘の中に身を隠すが、大蛇になった清姫は鐘に巻き付いて炎を吐き、安珍を焼き殺してしまう。清姫自身も川に身を投げる──といった、女の執念のものすごさが描かれた昔話だ。和歌山出身の筆者も小さい頃から絵本や紙芝居で馴れ親しんだ。

「能や歌舞伎にも道成寺ものがあるのですが、これは後日談なんです。こういう成り行きで道成寺に鐘がなくなってしまったので、もう一度落成します、というときに、道成寺に清姫の霊が現れるというお話。大学では、もともとの話がどこで生まれてどういう変遷を経て能に入り、その後歌舞伎に入ったかという研究をしました」

■ YOU──レディースコミック色に戸惑った新人時代
大学で道成寺伝説を突き詰めた北方氏。折りに触れ自身のことを「オタク女子」と称するが、北方氏の萌えどころの説明はわかりやすく、話を聞くと興味をそそられ、胸が高鳴る。そんなオタク女子は、いよいよ就職を考える。就活では、マンガ関係か歌舞伎関係、どちらも大好きな2つの道で悩んだという。

「私、“歌舞伎座の客席で座っている人”になりたかったんですよ。監視係だと思うんですけど、そういう人になれたら、『毎日歌舞伎観れるじゃん』と(笑)。基本、すごく短絡的に考えるタイプなんです。

でも、その年は就職氷河期だったこともあり、松竹の新卒募集はなかった。それで出版社を志望しようとなり、小学館、集英社、講談社を受けました」

見事集英社を射止め、入社した北方氏。大好きだった少女マンガ誌・YOUNG YOUに配属志望を出したところ、YOUに配属されることなった。

入社1年目、YOUでの担当作家は、桜沢エリカ、深沢かすみ、川富士立夏、尾形未紀──確かにこれまで北方氏の話に出てきたマンガ家とは少し毛色が違う。勉強の日々が始まった。

「最初に尾形未紀さんの『みきりんワイド』を担当させていただいたのは大きかったです。テレビ番組や芸能をネタにしたエッセイマンガですが、すごく勉強になり、ドラマを観る習慣がついたのもよかった。さっほーというあだ名をつけてくれたのも尾形さんでした」

そう、北方氏といえば「さっほー」。エッセイマンガの中に登場する北方氏は、宝塚と歌舞伎好きの頼りになる編集者としておなじみだが、その原点はここにあった。「さっほー」呼びは、その後現代洋子を経てくらもちふさこが引き継ぎ、木原敏江や萩尾望都まで「さっほーさん」と呼ぶという。

そして、北方氏が最初に担当したもう1人の作家は、桜沢エリカ。猫との暮らしを描いたエッセイマンガ「シッポがともだち」を、桜沢の産休明けから担当。

「YOU編集部も若いスタッフたちから、雑誌を変えようという機運も出てきました。YOUはもともと雑誌・月刊セブンティーンから派生したものなので、センセーショナルな男女の恋愛を描いていたり、枕本的な立ち位置でもありました。ですが、例えば森本梢子先生が『ごくせん』(2000年連載スタート)を描き始めたりするなど、エンタメとしての路線を目指すようにもなってきていました」

そうしたムードも後押しして、北方氏もこれまでYOUとは関わりがなかったマンガ家に声を掛け始める。小学館の週刊ビッグコミックスピリッツで「センチメントの季節」を連載中だった榎本ナリコに、知人の編集者を介して連絡。初めて作家を口説いた経験は、「えいえんのすむところ」という作品に結実した。

「YOUでは、『ちょっとエロいけど、女性キャラクターが少し年を取ってからのお話も描けそうなストーリーで』と榎本さんにお願いして描いていただきました。結局、YOUは2年弱で異動になったので、どの作品もそんなに長く担当はできなかったのですが、マンガの作り方や雑誌記事の作り方はもちろん、いろいろ勉強させていただきました。電車をモチーフにした『軌道春秋』というマンガでは、川富士立夏さんの原作を深沢かすみさんがマンガで描いたのですが、文字がマンガになっていく過程を勉強させてもらうことができ、のちのち『ハイパーミディ 中島ハルコ』という原作付き作品で役に立ちました」

■ 人事異動は突然に! コーラスで少女マンガ編集の日々
新人マンガ編集者として奔走する北方氏。入社から2年ほど経ったある日、コーラスに異動となることを知る。

「YOUでは新連載の準備もしていたし、急な異動に驚きました。同時に、 コーラスと聞いて喜びもありました」

さて、当時のコーラスの看板作家は、一条ゆかり、くらもちふさこ、槇村さとる。さらに、松田奈緒子、広田奈都美、聖千秋、佐野美央子、宮川匡代も活躍していた。北方氏がコーラスで最初に担当したのは、松田の「レタスバーガープリーズ.OK,OK!」 。その一方で、初めて作家の持ち込みからデビュー、連載を一緒に目指すという経験をする。同期デビューの下吉田本郷と板羽皆だ。

「私も初めて連載を立ち上げるという状況で、板羽さんも下吉田さんもよくわからないまま描くという初めてだらけの状態。当時のコーラス編集長が放任主義の人だったので、それでもやらせてくれる土壌があったおかげです(笑)。『万福児』と『サムライカアサン』は私にとってもすごく特別な作品になりました」

「万福児」(下吉田本郷)は、お寺の子・福志(幼稚園児)が巻き起こすさまざまな珍事件を描いた、ちょっとシュールな和風ギャグコメディ。デビュー作とは思えない達者な筆致で、くせになる作品だ。2004年にコーラスで連載開始、単行本は全6巻が刊行された。「サムライカアサン」(板羽皆)は、パワフルでちょいウザなおかん・よい子と、反抗期の息子・たけしのハートフルコメディ。こちらは2005年に連載を開始し、単行本は全8巻。続編として「サムライカアサンプラス」「サムライカアサンNEO」も刊行され、 2021年には城島茂をよい子役に迎えたTVドラマも放送された。いずれも、コーラスのコメディ枠を彩った名作だ。

■ くらもちふさこの「頭の中の神殿」を探る …
さて、北方氏が「一番長く担当している」と挙げてくれた作家は3人いる。くらもちふさこ、一条ゆかり、東村アキコだ。それぞれについて語ってもらおう。まずは、「さっほー」と言えばくらもちの担当編集、というファンも多いかもしれない。北方氏は2005年からくらもちを担当、最初の担当作は「月のパルス」の下巻コミックス 。同作は2004年から2005年にかけてコーラスで連載された。

「『月のパルス』も、その前に連載していた『α』もすごい作品なので、担当する前は、“頭の作りが普通の人とは違う、好きなものを描いて読者に受け入れられている作家さん”という印象を抱いていました。ところが、実際に担当させてもらうとこれがガラッと変わりました。くらもちさんは、誰よりも読者のことを考える人だったんです。『ここ、読者はわかるかしら?』『こうすれば、読者は喜ぶよね』と。一方で自分の描きたいものがちゃんとある方なので、迷われたときに編集が『こういう表現にしたらわかりやすいのでは』と意見することでお役に立てることもあり、すごく勉強になりました」

くらもちの作風を大きく特徴づけているものの1つが、「物語の語り方」のユニークさ。たとえば「α」。#1は“アルファ星”を舞台としたファンタジー、#2は東京で暮らす面倒くさがりやの女子が主人公、#3は田舎を舞台にしたホラー風の恋愛譚、#4は宇宙船の中で起こる艦長と助手のスラップスティックコメディ──と見せかけたある男子大学生の妄想……といったふうに、短編集のように雑多な物語が6話まで収められている。そして次巻「+α(プラスアルファ)」を読むと、それらの物語はすべて、俳優である「+α」の登場人物たちが出演している連作ドラマであることがわかるのだ。……こうして説明しても何を言っているのかわからない読者が大半であると思うので、実際に読んで体験してほしい。

ことほどさように、くらもち作品では物語同士の関係が一筋縄ではいかない。入れ子構造であったり、同じ瞬間を別の人物の視点から語った話であったり──読者を驚かせ、不思議な感覚にさせる物語のギミックが満載なのだ。くらもち作品には、ある時間軸の物語を1から10まで順番に読むのとは違う快楽や驚きがあり、物語のプロデュース力とでもいうものが、格段に高いのだ。

「くらもちさんご本人も、ご自身について “企画屋さん”だとおっしゃることがあり、確かにそうだと思います。最初は劇中劇で、その後演じていた俳優たちのバックステージが始まるという構成の『α』は、私も連載当時、毎回違う読み切りが載っていると思って読んでいたのですが、『+α』が始まった瞬間に『こういうことか!』とわかってびっくりした記憶があります。くらもちさんは頭の中にできあがった物語が祀られている“神殿”があるタイプだと思っていたのですが、物語のかけらをかきあつめてのたうちまわるようにしてストーリーを紡いでいるのだと知って驚き、感動しました」

くらもちのの集大成とも言える「駅から5分」「花に染む」の2作で成る「花染町シリーズ」は、北方氏が初めて最初から担当したくらもち作品。この2作は世界を共有している。「駅から5分」は、町に住むさまざまな人が巻き起こす事件を描いた連作短編で、「花に染む」は、「駅から」にも登場する高校生・圓城陽大(えんじょうはると)とその幼なじみの宗我部花乃(そがべかの)、そして弓道が核になるサスペンス仕立ての人間ドラマ。両作はキャラクター、時間軸が複雑に絡み合っている。「駅から5分」は2005年から2009年にかけてコーラスで、「花に染む」は2010年から2011年にかけてコーラス、2012年1月号から後継誌Cocohana(2016年よりココハナ表記)で連載された。

「『駅から5分』連載中は、『ここ、前々回のストーリーと矛盾があるけどどうします?』『じゃあ、なんで矛盾があるのかっていう話を作ろう』みたいなことをずっとやっていました(笑)。『駅から』で決まっていたのは“陽大はほとんど出さない”ということ。『花に染む』は『駅から』のロングバージョンという形にしたかったので、陽大は『駅から』にちょろちょろ出てくるカッコいいお兄さんという形に──そんなざっくりした設計書だけはできていました」

くらもちの執筆動機は、意外なところにあった。

「このシリーズもそうなんですが、くらもちさんの場合、怒りや恥、コンプレックスなどのネガティブな感情が一番の根底にあって、そこから物語が出てくると感じています。『花に染む』では、陽大というキャラクターが『怒り』を秘めている。 ただ『怒りをそのままぶちまけてもエンタメにならない。じゃあどうする?』と自問自答され、ああした形になったんです」

思いもよらない、怒りの昇華。純粋に作品だけを読んでいると、よもや「やるせない怒り」が作品の原動力になったとは気づけない。だが、それこそが「『エンタメを描いている』というくらもちさんのプライドなんだろうなと思う」と、北方氏は言う。

「読んだ後に、やるせない怒りが読者にちゃんと届けばいい、と思っているのだと思います。『花に染む』の完結後に執筆された『駅から5分 last episode』では、『駅から5分』1巻で最初に出てきた登場人物に関する謎が明らかになっている。そこに物語のテーマは集約していると思います」

「花に染む」の最終巻が出たのは2016年11月。くらもちの緻密な設計図の読み解き方を北方氏が明かしてくれた今、ぜひもう一度読み返してほしい。そんなくらもちは現在、ココハナで「とことこクエスト」連載中。くらもちとさっほーが、気の向くままいろんな場所に出かけた思い出を2ページに描き留める、「妄想系スペシャル“絵”ッセイ」だ。

「『とことこ』でもチラッと描かれていますが、くらもちさんは現在 お忙しくて、なかなかストーリーマンガを描いたり、考えたりする時間がとれないんです。時間的にも、半日取材に行くのが精いっぱい。ご本人も、『私は不器用だから、何かやりながら別のことはできない。だからちょっと今は(長めのマンガは)描けない』とおっしゃっていますが、私も『いつかまた描いてください』と伝えています」

2022年から2023年にかけては、電子版で「くらもちふさこ全集」を企画・出版した北方氏。くらもちの全集については過去にも出版されていたが、どれも今は入手が難しくなったりと、一部の過去作は読みづらい状態が続いていた。本誌掲載時の本文カラーをすべて掲載したという、編集者にとっては大変な労作! 今度は電子版なので、絶版はないのがうれしい。

「全15巻、死ぬ気で出しました(笑)。本当に電子って素晴らしいなと思うのが、読めないマンガがなくなりましたよね。昔は好きだった作品が文庫版で読めるようになるとうれしかったのですが、その文庫まで流通がなくなったら、『作家さんがあんなにがんばって描いた作品なのに、もう一生読めないじゃん!』と思っていた。それが、電子だと その心配がないから、私は電子版が大好きなんです。まだまだ少女マンガの素晴らしさを世の中に知らしめていきたいので、旧作もどんどん電子化するのが小さい夢ですね」

■ 一条流マンガ術に学ぶ
お次は2007年から担当している一条ゆかり。こちらもまた、少女マンガ史上比類なきレジェンドの1人だ。オペラをはじめとした声楽に情熱を燃やす女たちを描いた「プライド」は2002年にコーラスで連載を開始し、2010年に完結。全12巻の作品となったが、北方氏は最後の11巻、12巻を担当した。

「『プライド』は一条さんが最後の作品にしようと決めて描いた作品です。そのため『人はどう生きるべきか』がテーマになっていた部分もあり、打ち合わせでもそのことをずっと話していた記憶があります。一条さんは、これまで自分のために物語をずっと描いてきたけど、最後の最後は、読んでくれた人のために描きたいということで、物語もそれにふさわしい終わり方にしたとおっしゃっていました」

円熟期に付き添った北方氏は、一条ゆかりというマンガ家の生態をこう語る。

「ご本人が明かされているように、一条さんの本名は藤本典子(のりこ)さん。その藤本さんが、『一条ゆかりはこういう作品を描き、こんな発言をする』というふうに、『一条ゆかり』という人物をプロデュースしているんです。発言から作風、ライフスタイルを含めた何から何まで。一条ゆかりを“降ろして”マンガを描いている、といった印象でした」

幸運にも、筆者は10数年前、当時の仕事の関係で「一条ゆかり」と会食する機会に恵まれたことがある。 今思い出しても夢のような時間であったが、そのとき一条から発せられた言葉もまた、含羞に富んだ至言・金言だらけであった。

そんな滋養たっぷりの名言は、近年エッセイ集としてまとまっている。 ユーモラスなタイトルも含めて話題になった「不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集」(2022年)、「男で受けた傷を食で癒すとデブだけが残るたるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集2」(2025年・電子版のみ)だ。女性として、マンガ家として酸いも甘いも味わってきた一条による、人生の“特濃”エッセンスが詰まったエッセイ集である。後者は「一条ゆかりポストカードBOOK塗り絵倶楽部」と共に、この2月に発売されたばかりだ。

エッセイも貴重で大変楽しみなのだが、しつこいファンとしては、一条がまたいつかペンを手にマンガを描いてくれないかと諦めきれない心情もある。そう告げたところ、北方氏はあるエピソードを教えてくれた。

「マンガを描かなくなってもその人の作品は生き続け、愛されることを実感した経験があります。少し前、『プライド』が電子版でバズったんですよね。もう完結して10年以上経つ作品なのに」

きっかけは、電子書籍ストア・コミックシーモアでの宣伝広告だった。

「メインキャラである史緒(しお)と萌の“女同士のガチバトル”シーンにフォーカスしたセンセーショナルなバナーから興味をもった方が多かったようです。1巻を読んだら最後の12巻まで読まずにいられない面白さなので、一気読みで買う人が急増したんです。連載から時間が経っても一条さんの作品の面白さって全然衰えてない!と実感しました」

一条作品の吸引力はダイソン並。筆者も経験があるが、軽い気持ちで立ち読みしたら、続きが何十巻あろうと買ってしまう、強烈な魔力が宿っている。

「一条さんはマンガの方法論も鮮烈です。『新人さんって、読み切りを描いてもらってもなかなかネームが通らないんですよね』と一条さんに愚痴ったところ、『読み切りなんて、3回めくってつまらなかったら誰も読まないわよ!』と。つまり、『6ページ目までに、そのマンガで二番目に面白いシーンを入れておかないとダメ』ということなんです。しかも『一番面白いシーンはもちろん最後に持ってこないといけない』。実際、一条さんのマンガを読むとちゃんとそうなってるんですよ。『プライド』でも、扉を除けば6ページまでに史緒と萌がケンカを始める(笑)。本当におっしゃるとおりなので、新人さんに続々伝授しています」

ハリウッドにも引けを取らない、一条流マンガ術! ズバッと具体的で気持ちよく、読者目線でも膝を打つ。何もかも圧巻すぎて、一条のような“超一流”のマンガ家は今後出てくることがあるのだろうかと、不安になるほどだ。

■ 東村アキコ──頭の中は、大繁盛の「東村デパート」
東村アキコは2011年から担当している北方氏だが、担当する前からそのマンガには登場している。東村の出世作のひとつ「ママはテンパリスト」で、ときには板羽皆の担当編集「一見殺し屋みたいなKさん」として登場し、あるときは東村の誕生会に「頼んでもないのに宝塚メイクをして来てくれるKさん」として、その姿が確認できる。実際に担当が始まったのは、「かくかくしかじか」の2巻から。そこから「美食探偵 明智五郎」「ハイパーミディ 中島ハルコ」(原作:林真理子)を経て、現在「銀太郎さんお頼み申す」をココハナで連載中だ。

「銀太郎さん」は、コーヒーショップでバイトする岩下さとりが、店に現れた謎の着物美人・銀太郎に心を奪われたところから始まる。うつわ屋を経営する銀太郎の頼みをあれやこれやと聞いているうちに、さとりは着物をはじめとした日本の伝統文化にどんどん惹かれるようになっていく、というお話。元芸妓で、哀しい過去を抱きながらも粋に暮らす銀太郎をはじめ、着物好き界隈のお姉様がたや、いかにも今風なさとりの友達など、東村印の濃ゆいキャラたちによる丁々発止のやり取りを楽しみながら、気づいたら日本文化に詳しくなっちゃっている系、珠玉の作品だ。筆者は、「銀太郎さん」から、東村の作風がより奥深くなり始めたと感じている。

くらもちさんの頭の中が神殿なら、東村さんはデパートみたい(笑)。多種多様に品物を取り揃えた“東村商店”の中で東村さんが買い物して、どんどん自分で棚卸しもしていくイメージ。いろんなドラマや映画、本やマンガなど、話題作は必ずチェックして仕入れも怠りません」

デパートとはまた言い得て妙だ。加えて筆者のイメージでは、東村は天才落語家である。ネタや文化を吸収して、東村の口や手から再構築されたときに、数段階面白くパワーアップして読者のもとに届けられるのだ。加えて、東村は「担当を見て描く作品を決める」というのが面白い。

私が以前宝塚の舞台『明智小五郎の事件簿─黒蜥蜴』の明智小五郎が好きすぎる!という話を東村さんにしていて、まだ担当でもないのに『私の推しを見てください!』と舞台にお連れしたことがあったんです。後年私が担当になってから『美食探偵 明智五郎』が生まれました(笑)」

人から引き出したネタを材料に、最高に美味しい料理にして出す料理人のようだ。

「決断力もすごいんです。一瞬で決断するのに、それが間違ってない。本能的に動いているのに、考え抜いた結果と同じ結論をはじき出すのがすごい(笑)。」

信じられない量の〆切+αを抱えて、実際に悩む時間がないこともあるだろうが、野生動物の嗅覚のごとき判断力だ。

「東村さんって、『キャラクターがしゃべったら勝手に物語ができる。それをマンガにするだけだから』とおっしゃいます。なので編集の指摘は事実の齟齬に終始します。そのかわり、今回の物語がどんなふうに素敵で、どんなに面白かったか、言葉を尽くしてお伝えすることに心をくだいています」

間違いなく東村も異色のマンガ家だと思うが、それ以前に「1人として同じ作家さんはいない」と言う北方氏。

「今回の質問に『編集者として譲れないポイントは?』とありましたが、作家さんそれぞれが感じることも考えることも、環境も生き方も違うから、編集者が自分にこだわっていても仕方ない。それよりも、常にその作家さんの最良になることを常に考えています」

■ 槇村さとるが「更年期」を描く新連載がスタート!
1973年デビューの槇村さとるもまた、北方氏が担当する大御所作家の1人だ。

「槇村さんには今、更年期世代を主人公にしたマンガを描いていただいています。実際、更年期で苦しんでいる方はたくさんいるし、更年期を身近に感じたことがある人だけが描ける作品がある。最初槇村さんにご提案したときは、『そんなの面白いの?』って言われたけど、面白いんです! 作家さんの年齢や体調に合わせて、描きたいものも変わってくるんだろうなと思う日々ですね」

槇村の新連載は、「ダンシング・ゼネレーションsenior」。槇村が1981年から1982年にかけて「別冊マーガレット」で連載していた人気ダンスマンガのシニアバージョン、というわけだ。キラキラした10代のダンサーたちが、一流になるために奮闘する元祖「ダンゼネ」とは違い、「senior」の主役は50代で更年期が始まりかけた編集者。3月号で連載開始し、第1話から破格の面白さなので、加齢の不安を抱えた人もそうでない人も、全員読んでほしい。

北方氏はほかにも、ファンからこよなく愛される作品を多数担当している。渡辺ペコ「ラウンダバウト」、伊藤理佐「ヒゲぴよ」、楠本まき「赤白つるばみ」などなど。さらに、萩尾望都や木原敏江ら、大御所作家からの信頼も厚い。

「『プライド』もそうですが、萩尾さんの『王妃マルゴ』をはじめ、ベテラン作家さんのすごい作品の最後に立ち会いがちなんですよね。

木原敏江さんの『白妖の娘』完全版も担当させていただくことができました。私、実は木原さんがずっと大好きで、そもそも私が歌舞伎好きになったのは木原さんのマンガからだったんです。『わたしが嫌いなお姐様』という作品からスタートし、ずっと読んできた。『完全版 白妖の娘』の制作時期はコロナ禍だったので、木原さんお1人で 200ページ加筆してくださいました。

そんなわけで私、好きな作家さんほぼ全員に会うことができているのではと思います。あとは岩館真理子さんにお会いできて、お仕事できればもう、言うことはないですね(笑)」

そう目を細めながら語ってくれた。

それにしても、ベテランたちの長く実り多いマンガ家人生を支えるコツはあるのだろうか。

「槇村さんの『モーメント』もそうでしたが、10代のキャラクターを主人公にして描くことに対して、葛藤がある作家さんも多いです。なぜなら、作家さんが10代のときの感覚と、今の10代の感覚とは違うと感じていて、ご本人もこれでいいのかと悩む。そうなったときに、ココハナでは『大人の話を描きましょう!』とご提案することが多々あります」

マンガ家生活が長くなっても、描くことに飽きがこないように、楽しんで描き続けられるように──作家のバイオリズムに合わせた提案やケアに心を砕く、北方氏の姿勢が見えた思いだ。

■ よしながふみ「Talent -タレント-」 ──編集長の長年のラブコールが実る
ココハナでは昨年末にも大型連載が始まり、筆者としてもとてもワクワクしている。よしながふみの「Talent -タレント-」だ。

「「コーラス」時代から、編集長がずっとよしながさんにアプローチしていて、それが実った作品です。当時はまだ『大奥』が始まったばかりの頃。『連載が終わるまで待ちます』と編集長が粘り強く待ち続けた作品が、ようやく始まりました」

「Talent」は、とあるドラマの撮影現場から始まる。完璧に美しい顔立ちの麻生涼平、大学演劇のキング・柘植一慧、容姿抜群の弥琴(みこと)、底知れぬ演技力の二世・高屋敷華蓮、そして大物女優・桜庭貴和子。それぞれに旬な俳優たちが、どのように生き馬の目を抜く芸能界を泳いでいくのかが描かれていくことを予感させる、スリリングな群像劇だ。

満を持して始まった『Talent』は、よしながさんの人間に対する観察眼が光っています。まるで芸能界の人間模様を長年そばで見てきた人が描いているような感じがして、すごく面白い。人間ドラマではありますが、芸能界という特異な場所のことを描いているので、一般の人ではやらないようなことをやるシーンもあり、それを思いつくのは流石だと驚いています」

■ 恋愛至上主義ではなくなった──マンガの進化
筆者が「Talent」が始まる「ココハナ」1月号の発売を指折り数えていたように、愛するマンガがあり、好きな作家の新作を心待ちにしながら、日々のしんどさを乗り切っている読者は、どのくらいいることだろう。そうしたファンにとって、珠玉の作品たちを長年編集者として支え、育んできた北方氏は、さながら守り神のような存在だ。そんな北方氏は、女性向けマンガの変化について感じていることがある。

「恋愛至上主義ではなくなりましたよね。女性向けの作品でも、最終的にヒロインが誰ともくっつかないこともある。“恋が叶って、その先は結婚!=ハッピーエンド♡”という作品より、ハッピーエンドのむこうを描く作品も増えました。少女マンガの進化であり、深化ではないかと……」

みんな気づいている。一昔前なら、ヒロインは第1話に登場した素敵な男の子と、紆余曲折の末結ばれ、ウェディングベル。本編完結後の番外編では子供が生まれて育児に奮闘し、かわいい肝っ玉母さんに……という定型があった。だけど、多くの少女が憧れ、“普通”だと思っていたルートは、絶対的な幸せを約束するものではない。結婚してもしなくても、子供がいてもいなくても、幸せはあるし、地獄もある。

最後に、これから編集者を目指す人の心得を聞いたところ、まずは「経済」。少女時代の北方氏の影が一瞬よぎるような、背筋の通った答えが返ってきた。つまり、「作家さんがマンガで食べられるようにすること」。

「多かれ少なかれ、少女マンガってその人の本質が作品に出る。設定の面白さを重視する少年マンガとはそこが違うところで、恋愛について作者がどう考えているのか、このセリフをなんで言わせたいのかがそのまま出るんです。そして、それって意外とその人の一番柔らかいところだったりする。そこを傷つけないように、でも、ちゃんと売れるうようにするにはどうしたらいいのか、一緒に考えることが大事だと思っています」

■ 北方早穂子(キタカタサホコ)
1977年、神奈川県生まれ。清泉女子大学文学部国文科卒。2000年に集英社に入社し、YOU編集部、コーラス編集部を経て、現在はココハナ編集部の副編集長を務める。現在の担当作品は「銀太郎さんお頼み申す」「ダンシング・ゼネレーションsenior」「星とみちくさ」「Talent―タレント―」「とことこクエスト」「失敗飯」など。

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