
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「生成AI」について。
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生成AIに対するハラスメント問題が登場した。出した回答に「その答えは50点だ。100点の答えをくれ」といい続けるもの。「パワハラプロンプト」というらしい(笑)。やってみると、たしかに内容が改善する。
驚くのは早い。ビジネスの現場では、さらに「ハラスメント度」が増している。ChatGPT、Claude、Geminiなど複数の生成AIに、「報告書のあらすじを考えてくれ」などと指示をする。出てきた答えそれぞれに、他の生成AIが考えた内容を加えて戻し、「この内容を参考に、さらに良い案を考えてくれ」と、「蒸留」を幾度かくり返すのだ(この作業さえも自動化できそうだが)。
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また、生成AIはこの数ヵ月で劇的にプログラミング力を向上させている。私たちの会社では複数の生成AIを使って効率化を図っている。
Google Workspace(Gemini搭載のオフィスサポートサービス)を使って、メールが届いたら、自動的にChatGPTが返信の下書きを書いて保存するというプログラミングを全員に設定した。
もちろんそんなプログラミングを導入しなくても、相手のメールをコピー&ペーストしてChatGPTに指示を与えたら返信を書いてはくれる。しかし、いちいちやらない、つまり自動化がミソだ。
朝起きたらメールの返信下書きができあがっている。いまでは請求書の作成、顧客管理もすべて自動化した。
私たちはド文系の組織だ。コードはGoogle Apps Script(無料プログラミング言語)で生成AIに書いてもらった。設定のやり方も訊(き)くだけ。フリーのエンジニアに数十万円払っていた委託もすべてやめた。
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さらに、このところChatGPTが描いてくれる絵のレベルが急激に上昇した。
会社案内や業務マニュアルを漫画で説明するために同じくフリーの漫画家に委託していたが、それも代替できそうだ。近い将来には、もっと複雑な資料も文章も動画も生成できるようになるだろう。
進化が速すぎて、生成AI関連の書籍は内容が瞬時に古くなり、活用セミナーや講座もすぐさま陳腐化する。毎日のようにアップデートされている。多くの職業がなくなり、そして新たな職業も生まれるだろう。
話は変わるようだが、大阪・関西万博が開幕する。
批判の声が多いものの、私はすぐさま行ってみようと考えている。見てもいないのに非難する気にはなれない。なんたって我らが落合陽一さんのパビリオン「null2(ヌルヌル)」を見たい。
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ただ、未来の可能性を見せる意味での万博は、もうこれが最後になるのではないか。
開催の数年前にパビリオンと未来像を企画して建築しても、はるかに現実のほうが進んでいく。4年前に生成AIの登場を予想したひとはいても、人間と自由自在に話し、絵やプログラムまで書いてくれると考えただろうか。
生成AIは今後、実際の回路基板の設計や、ハードウエアの製図もするようになる。誰もが情報を作れる時代から、誰もがハードウエアを作る時代になる。
これからの万博は、ただただ物理的にデカいとか、圧倒的な規模で民族音楽を見せるといった方向に行くのではないか。現実の先取りではなく「現実を忘れるための非日常空間」としての存在意義を強めるかもしれない。
人間には何が残るのだろうか。そうだ。生成AIに訊いてみよう。
写真/時事通信社