東大目黒研究室が開発「災害放送業務支援システム」で、地域特性を踏まえたコミュニティFMの情報発信をサポート

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2025年04月07日 20:20  TOKYO FM +

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東大目黒研究室が開発「災害放送業務支援システム」で、地域特性を踏まえたコミュニティFMの情報発信をサポート
TOKYO FMグループの「ミュージックバード」で放送のラジオ番組「みんなのサンデー防災」。防災の専門家・目黒公郎教授がパーソナリティの黒瀬智恵とともに、防災に関わるさまざまなゲストを迎え、最新の防災情報をお届け。日本SDGs防災機構が監修を担当します。

3月30日(日)の放送では、災害時にコミュニティFM局が活用できる「災害放送業務支援システム」を紹介しました。


(左から)目黒公郎教授、FM西東京の飯島千ひろさん、加藤宗一郎さん、コミュニティFM大図鑑編集長のコシバタカシさん、パーソナリティの黒瀬智恵



◆東京大学目黒研究室が作成「災害放送業務支援システム」とは

黒瀬:今日は、全国のコミュニティFMへの取材やアンケートでいただいたご意見などを反映したデータベースを、東京大学・目黒先生の研究室で作成してもらいましたので、発表していただきたいと思います。

目黒:コミュニティFM は放送エリアが最も狭いメディアですが、これは言い換えれば、対象地域についての理解度が最も高いと言えます。災害は、同じ地震や台風でも地域の特徴が変われば被害は大きく変わります。ですから、地域の特徴をよく把握していることは、 災害報道においてはとても重要で、この点はコミュニティFM が最も有利な点なのです。

一方で、放送エリアが狭いことから、実際の災害対応の体験を持っている方は少ない。さらに、小規模で人的資源が限られることから、災害やその対策に関する専門知識が不十分なことも多いので、せっかく地域のことを良く知っていても、適切な情報を適切なタイミングで出すことは難しいわけです。

そういった課題を解決すべく、1 つは災害対応の経験を持っている方々の知見や経験をデータベース化するとともに、それらのデータを、地域特性の異なる他の地域用にカスタマイ ズして使っていただけるようにできないかと考えました。その際に、受ける災害の特徴や対象地域の社会特性から、自分たちと似ているのは全国のどのコミュニティFM なのかを分析し、日ごろから情報共有したり連携した活動をするうえで有利となる「自分たちと似て いるコミュニティFM」を提案します。

もう1 つは、災害が起こる前から、コミュニティFM のみなさんはどんなことをやらないといけないのか、業務全体の流れを示すとともに、それぞれのタイミングでおこなうべき具体的なアクションを提示できるようにしました。これを日ごろから勉強しておいてもらえば、対応業務はずっとスムーズになります。

また、パーソナリティが新人で地域のことをまだよく知らないとか、経験不足からうまく伝えられないような場合も考えられます。そういうときのためには、具体的に重要な施設の名前や地名を地図情報と合わせて示して、これらを聴者に伝えてもらえばいいですというサポートシステムがあればいいと思いました。このようなシステムを、私の研究室の修士学生である加藤宗一郎君と研究開発を進め、2025年3月に晴れて修士修了となりまし た。余談ですが、この修論は優れた修論であるという賞もいただきました。

◆地域特性を踏まえた災害情報発信を支援

黒瀬:本日は加藤宗一郎さんをゲストにお呼びして、お話を伺います。

加藤:私の修士論文の研究の一部を紹介させていただきます。私の修士論文は、「地域特性を踏まえた効果的な災害情報発信のための、コミュニティ FM向けの災害放送業務支援システムの提案」というものです。

私自身、よく聴くラジオを、地域防災に役立てるために何かできることはないかと考えま した。まず、とっかかりとして始めたのは、コミュニティ FM局がどのような場所に向けて放送しているのかに関するデータベースをつくることです。

黒瀬:全国にラジオ局がどれぐらいあって、それぞれの局が放送しているエリアはどの市町村なのかを調べた結果、市町村数は 350になったんですね。そこから、それぞれにどう いった災害リスクがあるのかをピックアップしていったのでしょうか?

加藤:災害リスクだけではありません。各放送エリアの特性をハザード特性と社会環境特性の2 つに分かて分析しました。まずはハザード特性だけを使って分類した話をします。

黒瀬:ハザード特性の分類は8つにわかれていますけども、どうやって分けたのでしょか?

加藤:分類の数は多くすればいいというものではありません。ハザード別のデータの数が十分ないと、正確な分類分けはできません。そこで、分類の数として、いくつにすれば分類の正しさが高まるのかを評価する方法を使って確認したところ、分類数は8つがいいということになりました。

黒瀬:私たちのハザードのイメージだと地震とか津波を想定するのですが、どういった分類なのでしょうか?

加藤:まず、ハザード特性としてデータを用いたのは、地震・液状化・津波・火山・洪水・ 内水氾濫・高潮・土砂・豪雪の合計9種類のハザードです。350 の放送エリアを対象に、これら9種類のハザードのリスクを分析しました。その結果、複数のハザードの組み合わせを含め、特性の似ているエリアとして、8つの分類ができました。

具体的には、「津波・土砂災害の危険性が高い」「土砂災害の危険性がやや高い」「火山噴火の危険性のある豪雪地」「洪水・内水氾濫の危険住が高い」「液状化・高潮・内水氾濫・洪水の危険性が高い」 「火山噴火・土砂災害の危険性が高い」「津波・高潮の危険性がとくに高い」「日本海側の豪雪地」の8つの分類です

黒瀬:そこから、社会環境特性についても調べたのでしょうか?

加藤:社会環境特性は、ハザード特性とは別に分析しました。社会環境特性は、放送エリアの面積、年齢別人口、昼夜人口比、外国人割合、高齢化率、世帯数、事業所数、産業別売上割合、財政力指数を用いて分析しました。 ハザード特性では、8つの分類をしましたが、社会環境特性に関しては、上記の9つの指標を対象に、これらの値同士を比較して、類似性を評価しました。

◆地域に寄り添った災害対策を重視

黒瀬:ハザード特性でわけたものと社会環境特性でわけたものを合わせて考えたりもしたのでしょうか?

加藤:はい、しました。あるラジオ放送局が、どこのラジオ局と連携すればいいのかをみるために合わせて考えました。基本的には、ハザード特性が似ているところと災害対策を連携するのはわかりやすいですよね。

ですが、災害対策の観点から言うと、災害対策は地域に寄り添ったものでないといけません。大都会と過疎地域では、同じハザードの危険性に晒されていても、そこで起こりうる被害は大きく異なります。

黒瀬:なるほど。

加藤:なので、社会環境特性も似ているところと災害対策を連携すればいいんじゃないかなと思って調べていきました。

黒瀬:これまでの災害経験の情報は加味されていないのでしょうか?

加藤:可能な限り集めましたが、すべての局から情報収集することは困難でした。しかし、 別途、過去数十年以内に、どこで、どのような災害があったかのデータは調査しています。

黒瀬:いずれは過去の災害経験の情報も加わり、精度が高い情報になってくるということ でしょうか?

加藤:基本的に精度は向上すると思いますが、過去に被災した経験があるからといって、そのときに正しい災害対応ができていたかどうかはわかりません。教訓などのデータは活用できますが、行動自体は正しかったのかどうかは十分な分析が必要です。しかし、その地域が被災したことは事実であり、そのデータは貴重です。

このデータに基づいて、過去に被災した地域に、当時のパーソナリティの方がおられれば、 過去の被害の事実に基づいてインタビュー調査をおこない、データを補強していくことも可能だと思っています。

◆災害放送業務の文言に地域情報を反映

加藤:災害放送業務を時系列的に整理するとともに、災害時の情報需要の推移や地域との 関連も踏まえてマッピングしてみました。そして、この結果を「災害情報業務フロー」としてまとめました。

地域との関連ですが、たとえば、避難誘導業務だったり、施設名を交えた放送業務などは、 対象地域の詳細な地理を知らないとやりにくい業務です。業務フロー図は、横軸に地震発 生からの経過時間、縦軸にその業務の担当者に放送エリアの理解度が求められるか否かの 視点からマッピングしました。

目黒:災害時の放送業務の中にも、地域のことをほぼ知らなくてもできる業務もあります。 一方で、地域の地名や施設名などを知らないとやりにくい業務もあります。つまり、具体的な経過時間に沿って、個別の業務内容とともに、求められる対象地域の理解度の高低を分けた業務分けができるということです。

黒瀬:地域によってやることも変わってくるのでしょうか? それとも、全国的に同じ情報で対応できるのでしょうか?

加藤:基本的に、災害時に何をやるべきかは全国同じだと考えています。一方で、避難誘導などの詳細な業務にかかわる部分では、地域の地名や施設名などが必要となるので、これをシステムによって表示します。

目黒:どのタイミングでどんな業務をすべきかという業務フローがあって、それぞれの箇所をクリックすると、具体的に「こういった文言で話してください」と表示されます。そこに具体的な地名や施設名などが表示されれば、戸惑うことなく正確な情報を流すことができますよね。

黒瀬:そうですね!

目黒:このようなシステムを使うことの意味として何が一番重要かと言うと、アクションの抜け漏れがなくなるということです。災害時はみんな慌てていますから、全身全霊でや っていたとしても、どうしても抜け漏れが発生してしまいがちです。そういったことを防ぐために、加藤君が「災害放送業務支援システム」を作ってくれたということです。

黒瀬:素晴らしいですね。こういったフローが全国的に共有されて、みんなが使えるようになれるといいですね。

目黒:そうですね。そうすることで各項目の文言も充実してくると思いますし、この文言を人工音声で流すこともできます。そうなれば、パーソナリティが不在の場合でも、適切な情報提供が可能になるということです。

黒瀬:みなさんにも「災害放送業務支援システム」をどんどん使っていただきたいです。

番組では他にも、ディスカッションにコミュニティFM大図鑑編集長のコシバタカシさん、FM西東京の飯島千ひろさんがゲスト出演し、災害放送業務支援システムについて語っていただく場面もありました。

<番組概要>
番組名:みんなのサンデー防災
放送日時:毎週日曜日 14:00-14:55
パーソナリティ:目黒公郎、黒瀬智恵

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