
ディフェンディングチャンピオンの頭上に、早くも暗雲が立ち込めている。
昨季J1で2連覇を成し遂げたヴィッセル神戸は、同時に天皇杯も制覇。初の二冠達成は、黄金時代の到来を予感させるものだったはずだ。
ところが、2007〜2009年の鹿島アントラーズ以来史上2クラブ目となる3連覇に挑む今季、王者・神戸はスタートから大きく躓いてしまっているのだ。
今季の神戸は、J1開幕戦から第3節まで3戦連続の引き分けに終わると、その後も勝ったり負けたりで、なかなか調子が上がってこない。
直近のJ1第9節アルビレックス新潟戦では、それまで今季未勝利で最下位に沈むチームを相手に、0−1の敗戦。東京・国立競技場で開催された特別なホームゲームは、皮肉なことに、神戸の病が思いのほか重症であることを示す結果となった。
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神戸はここまで2勝3敗3分け(第9節終了時)。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)との兼ね合いで、消化試合数がひとつ少ないとはいえ、勝ち点9の16位は、かろうじてJ2降格圏は免れているという状況である。
もちろん、ACLの影響はあるだろう。
まだシーズンが始まったばかりのこの時期、選手のコンディションは上がりきっていないうえに、チームとしても試合を重ねながら戦術の練度を上げていく必要がある。ところが、ACLがあることで、開幕早々ほぼ週2試合ペースで試合をこなさなければならず、コンディションや戦術を整える時間がなくなってしまう。
しかも、ACLでの神戸は、グループフェーズでの順位が突然変更になるという不測の事態にも見舞われている。余計なストレスを被ったことは想像に難くない。
とはいえ、ここまでの苦戦が決して過密日程によるものばかりでなく、2連覇中のJ1王者が壁にぶつかっていることも確かな事実なのだろう。
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2連覇に至った神戸の強みが、大迫勇也や武藤嘉紀を中心とした、個人能力の高さにあったことは言うまでもない。繊細な戦術など必要とせず、前線にボールを放り込みさえすれば、技術的にもフィジカル的にも優れた個が、いとも易々とチャンスを作ってしまう。
そんな問答無用の力技は、他のクラブが簡単には真似のできないものだった。
しかし、今季の神戸はその前提、すなわち"個人能力で圧倒する"という部分が崩れてしまい、なかなかゴールが奪えない。
前述の新潟戦にしても、90分を通してボール保持率で上回り、敵陣で試合を進める時間は長かった。だが、結局はノーゴール。よく言えば、神戸はバランスがいいサッカーをしていたが、裏を返せば、どこからもリスクを負って前に出ていこうという動きが見られなかった結果である。
「シンプルにクロスを上げることには、相手も対策をしてきている。もう少し深く攻め込むことは必要かなと思う」とは、ボランチを務める扇原貴宏の弁だ。
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局面ごとに数的優位を作ることができれば、チャンスが生まれる可能性が高まるが、その一方で、逆にそこでボールを失えば、ピッチ上の別のどこかでは数的不利が生まれる危険性も高まる。攻撃の厚みを作る作業は、失点のリスクと表裏一体だ。
それゆえ、数的優位など作らずとも個の力で局面を打開できてしまう神戸の攻撃力は脅威だったわけだが、それに頼ってきたことの弊害が見え始めているのかもしれない。
キャプテンの山川哲史も、「これまでのシーズンは個人のところでも勝てているシーンが多かった。細部のこだわりというところは、もう少し一人ひとりが意識してやらないといけない」と語り、こう続ける。
「アーリークロスはチームの狙いでもあるが、ただその数が増えてもはね返されるシーンが多かった。もう一個工夫が、さらにもう一個内側をとる人がいたりとかが必要かなと思う」
この苦境に際し、シーズン開幕後にFWエリキ(FC町田ゼルビア→)を緊急補強するなど、神戸も決して手をこまねいて見ているわけではない。だが、試合内容を見る限り、決定的な解決には至っていないのが現状だ。
まだシーズン序盤。とはいえ、これ以上の後れは取り返しのつかないことになりかねない。