
毎年、門出の季節になると、SNSで散見されるのが「来賓として出席してきました」という誇らしげな書き込みだ。その多くは、地元の学校の卒業式や入学式に出席した、地方議員たちによる投稿である。
子供の頃、保護者席よりもずっとステージに近い席に陣取った、来賓議員の紹介や祝辞を、違和感を抱えつつ「早く終わらないかな」とやり過ごした記憶のある諸氏も、少なくないのではないだろうか。
筆者も先日、都内の区立小学校を卒業する甥っ子の式に出席してきた。卒業生による「蛍の光」や「仰げば尊し」の合唱がない代わりに、Jポップが歌われたり、双方の代表者による送辞・答辞がなかったりと、30年ほど前に自身が小学校を卒業した際と比べ、変化も大きかった。
一方で、全く変わっていなかったのが、来賓議員たちの存在だ。
式次第の序盤、国歌斉唱の直後に始まる「来賓紹介」では、教育委員会教育長の代理や、PTA会長に続き、区議会議員や都議会議員の名前が読み上げられていく。そして自身の名前が呼ばれた議員たちは、そのたびに起立し、「卒業生のみなさま、保護者のみなさま、本日はおめでとうございます」と、他の来賓よりも一層恭(うやうや)しく頭を下げるのだ。
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筆者の頭に30年前に感じた違和感が蘇った。教育に関与する教育委員会やPTAの代表者が来賓として列席するのは納得がいくが、学校運営に直接関係のない地方議会の議員までを来賓として招待するのはなぜなのか。
そもそも、公立小中学校の来賓招待の基準はどこにあるのか。筆者は小学校が所在する区の教育委員会に電話で質問してみた。しかし回答は、「来賓招待についてはそれぞれの学校に任せている。教育委員会としては関知していない」というものだった。筆者は隣接する2つの区の教育委員会にも問い合わせをしてみたが、回答は異口同音だった。
ではそれぞれの学校は、どういったプロセスで招待する来賓を決めているのだろうか。校長の一存なのか、それとも来賓を選出する会議が開かれるのか‥‥。
関東某県の公立小学校で教員を務めるA氏がこう明かす。
「教育長やPTA会長は、公立校ならどこでも来賓としての出席が決まっているでしょうが、それ以外については学校によります。うちの学校の場合は児童館館長、民生委員会長、地元の保育園の園長などにも、正式に招待状を送付することになっていますが、決定プロセスを問われれば、職員会議などで決めたわけではなく『慣例』というしかありません。
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さらに、正式招待ではないものの、暗黙の了解として席を設けておくことになっている人たちがいます。それが市議や県議です。先方からあらかじめ『出席させていただきます』と連絡をしてくることもあれば、連絡なしにやってくる人もいる。卒業式や入学式だけでなく、運動会も同様です」(A氏)
一方で、近畿地方のある公立中学学校では、卒業・入学式の来賓招待に明文化された基準を設けている。ただ、基準が設けられたのは、ある騒動がきっかけだったという。同中学校の教員、B氏はこう話す。
「うちは1学年7クラスのいわゆるマンモス校で、式に出席する保護者の数も多い。政治家の『顔見せ』にとっては効率的なので、以前は市議や県議など5、6人近くが来賓として出席していました。
いずれも招待状を送付するのではなく、先方から出席希望を受けて、席を用意するという流れでした。しかし、市議会選挙を直後に控えたある年の卒業式に、20人近い出席希望が寄せられた。多くは現役の市議会議員でしたが、なかには議員の秘書や落選中の元議員もいました。
仕方なく、出席希望者を卒業式と入学式に割り振って席を用意しましたが、それでもそれぞれの式で、来賓席の半分以上を政治関係者が占めるという異様な光景でした」(B氏)
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以来、同中学校では、『校区内に居住する現役市議、県議に限る』という基準を設け、該当者には学校側から招待状を送るようになったという。しかし、基準が明文化された今なお、来賓招待は骨が折れる作業だとか。
「市議や県議のなかには席の位置にこだわる人も多く、『なんで俺があいつより末席なのか』とか『2列目だと保護者から顔が見えない』などといろいろうるさい。来賓の議員たちの取り扱いは、卒業式や入学式の準備の中でも気が重い作業のひとつです」(B氏)
卒業式や入学式の主役はあくまで子どもたち。大人のよこしまな思惑が挟み込まれない晴れの場であって欲しいものだ。
文/吉井透 写真/stock.adobe.com、photo-ac.com