新入社員に「主体性を持て!」は意味がない 人が自然に動く「タスク管理」の手法

2

2025年04月08日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

  • 限定公開( 2 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

部下に「主体性を持て」と言う前にやるべきこととは

 「部下に主体性がない」「もっと当事者意識を持て」と声高に叫ぶ上司がいる。にもかかわらず部下たちの主体性はなかなか高まらない。なぜなのか?


【画像】ゴールから逆算させる。


 私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。真の主体性を育てるには「タスク管理」から始めるべきだと強く主張している。なぜなら、タスクを適切に管理し、一つ一つ着実にこなしていくことで、主体性は自然と育っていくからだ。


 そこで今回は、部下の主体性を育てるには「タスク管理」から始めるべき理由を、4つのポイントから解説する。部下育成に頭を悩ませているマネジャーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。


●主体性を「気持ち」で論じる危うさ


 主体性について話すとき、往々にして精神論に陥りがちである。


 「もっと積極的に動け」


 「当事者意識が足りない」


 「自分で考えて行動しろ」


 こうした言葉を投げかけても、部下は何をすればいいのか、具体的な行動指針が見えない。大事なことは、行動の結果を細かく見て、どこに課題があるかを明確にすることだ。


 私はこれを「主体性の分解」と呼んでいる。


 例えば、指示された資料作成が締め切りに間に合わなかった部下がいたとする。このとき「やる気がない」「責任感がない」と決めつけてはいけない。進め方が分からなかったのか、優先順位を誤っていたのか、それとも予期せぬ障害があったのか。


 「何が原因で遅れたのか」


 「次回から、どうすれば間に合うのか」


 このように「行動の要素」に目を向け、分解して考えることが真の主体性を育てる第一歩だ。


●「タスク管理」ができていれば、部下は自然と動く


 タスク管理を徹底している部下ほど、上司からの指示を待たずに自ら動き出すようになる。


 あるIT企業での事例だ。入社2年目のAさんは、週初めに自分の「やるべきことリスト」を作成し、上司と共有する習慣をつけていた。リストには「優先度」「期限」「進捗(しんちょく)状況」などが記されており、進め方で迷うことがあれば自ら相談を持ちかけていた。


 その姿を見た上司は、「Aさんは主体性がある」と周囲に言っていた。


 ところが、Aさん本人に話を聞くと、


 「私は心配性なタイプなので、何でも確認しないと不安なんです。だからタスクを丁寧に管理しているだけで……」


 と答えたのだ。


 つまり、Aさんの「主体性」は「仕事をタスクに分解して管理する習慣」から生まれていたのである。


●主体性は「結果」であって「前提」ではない


 タスク管理が徹底されると、次のステップとして「先回り行動」ができるようになる。


 「このデータは経理部に確認してもらう必要がある。だから3日前には資料を渡しておこう」


 「この案件は法務チェックが必要になるな。早めに相談しておこう」


 このような思考回路が身に付けば仕事は格段にスムーズに回る。まさに「自走できる人材」の誕生だ。


 しかし誤解してはならない。自走とは「好き勝手に動くこと」ではなく、「必要な作業を先読みし、段取りする力」である。そしてタスク管理こそが、その基礎体力を育てるのだ。


 主体性とは、前提として求めるものではなく、結果として現れるものだということも覚えておこう。


 「部下にもっと主体性を持ってほしい」と思ったとき、まず上司がすべきことは、次のような問い掛けだ。


 「この部下はタスクをきちんと分解できているか?」


 「作業の優先順位を判断できているか?」


 「いつまでに何をすべきか理解しているか?」


 そのうえで、細かい進捗確認や、小さな成功体験の積み上げを支援すること。それこそが、上司としての役割だ。


●タスク分解、3つの手順とは?


 主体性を育てるには「タスク管理」から始めるべきだと書いた。ではタスク管理の第一歩である「タスク分解」はどうすればいいのか? 3つの手順を紹介しよう。


まずは「最終ゴール」を明確にする


 タスク分解の第一歩は、最終的なゴールを明確にすることだ。例えば「企画書を作る」といった漠然としたゴールではなく、「○月○日までに、A4サイズ10ページ以内、図表3つ以上を含む新商品企画書を完成させる」といった具体的なゴールを設定する。


 先日ある製造業の営業部長からこんな相談を受けた。


 「社長から『来期の戦略を考えろ』と言われたのですが、どこから手をつけていいか……」


 私は最初に「戦略とは具体的にどんなアウトプットでしょうか?」と尋ねた。すると部長は立ち止まり、考え込んだ。


 「確かにそうですね。考えても分からないので、直接社長に聞いてみます」


 社長に確認したところ「来期の営業予算と、その達成のためのアクションプランが欲しい」という答えが返ってきた。これで具体的なゴールが見えてきたのだ。


ゴールから「逆算」して作業を洗い出す


 次にゴールから逆算して必要な作業を洗い出していく。これを「バックワード・プランニング」と呼ぶ。


 先ほどの営業部長の例なら、「予算を立てるには過去3年間の売り上げデータが必要」「アクションプランには具体的な営業活動のリストが必要」といった具合だ。


 私がおススメするのは、マインドマップを使いながら作業を発散させていく方法だ。真ん中のセントラルイメージに「来期の戦略」と書き、必要な作業をテーマごとにブランチを描いていく。そのブランチごとに、ドンドン枝を伸ばしていけば自然とアイデアは発散されていくだろう。PCのアプリを使えば、作業の追加や順序の入れ替えが容易なのでおススメだ。


各作業の「所要時間」と「期限」を設定する


 最後に、洗い出した各作業に対して所要時間と期限を設定する。所要時間が測れるものはタスク、そうでないものはプロジェクトと認識する。そしてプロジェクトはタスクの集合体だから、さらに所要時間が見積もれるほどにタスク分解していこう。この際、必ず「余裕」を持たせることがポイントだ。


 あるIT企業のプロジェクトリーダーは、こんな工夫をしていた。彼は各作業の見積もり時間を1.5倍に設定していたのだ。


 「最初から余裕を持たせておくことで、想定外の事態にも対応できます。また、前倒しで完了すれば、チームの士気も上がりますしね」


 この手法を取り入れたことで、プロジェクトの納期遅延は大幅に減少したという。


●分解したタスクの「処理」方法


 タスクを分解したら、次は適切に処理・管理していく必要がある。ここでは特に、メモを活用した管理方法を紹介しよう。


 私がクライアント企業で最もよく提案しているのが「重要―緊急マトリクス」だ。これはA4用紙やノートを4つに区切り、次のようにタスクを仕分けする方法である。仕分けしたら番号の順に処理していく。


1. 左上:緊急かつ重要


2. 右上:重要だが緊急ではない


3. 左下:緊急だが重要ではない


4. 右下:緊急でも重要でもない


 このマトリクス図を用いると頭が整理される。意外と(2)よりも(3)を優先的に手を付けてしまう人は多い。目先の仕事に振り回されるタイプの人だ。いったん視座を上げるために、このようなマトリクス図はとても役に立つ。


 この方法を取り入れた中堅商社の課長は、こう語った。


 「以前は『今すぐやるべきこと』と『後でもいいこと』の区別がつかず、いつも目の前の雑務に追われていました。この方法を使いはじめてからは、重要な案件に時間を割けるようになりました」


 実践する際の重要ポイントは、常にメモを携帯して随時更新することだ。私自身も小さなメモ帳を常に持ち歩き、思い付いたタスクをすぐに書き込む習慣がある。


 処理すべきタスクの優先順位ができたら、「タイムボクシング」という手法で具体的“時間の枠”をとろう。処理時間が30分のタスクがあるなら、自分のスケジュールの中に30分の枠をとるのだ。このようにドンドン分解されたタスクに時間の枠を当てはめていく。そしてそのスケジュールに従ってタスクの処理に集中するのだ。


●部下の主体性を問う前に


 なかなか前のめりに仕事をしない部下を見て「主体性が足りない」「当事者意識に欠けている」とレッテルを貼るのはよそう。「やる気」がないわけではなく、まず何を「やる」のか? そのタスクが分からない可能性が高いのだ。


 部下の主体性を問う前に、


・やることは分かっているか?


・やり方は分かっているか?


・やる順番は分かっているか?


・やる時間を確保できているか?


 について一緒に考えてみよう。


 私の20年以上にわたるコンサルティング経験からも、それが部下の主体性を育てる一番の近道だと確信している。


 「主体性がない」と嘆くより、まずはタスク管理の仕組みを整えよう。そうすれば、部下は自ずと主体的に動きはじめるものだ。


著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)


企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。



    前日のランキングへ

    ニュース設定