選択的夫婦別姓で日本はどう変わるのか?「子どもの約50%が反対」専門家が“杜撰な法案”の危険性と指摘するワケ

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2025年04月08日 09:01  日刊SPA!

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東京あかつき法律事務所 岩本拓也弁護士(56歳)
◆選択的夫婦別姓で日本はどう変わるのか?
選択的夫婦別姓というと、2025年3月8日の「国際女性デー」に合わせ、市民団体が9日に都内で開催した集会で「男は黙れ 男は黙れ 男が産めるのうんこだけ」のコールで物議をかもしたのが記憶に新しい。集会には社民党首の福島瑞穂氏や前東京都武蔵野市長で立憲民主党の松下玲子氏、共産党の吉良佳子氏ら現職の国会議員も参加した。

立憲民主党の野田佳彦代表は、「国際女性デー」の前日7日に東京都内で街頭演説し、選択的夫婦別姓制度について「この国会中に実現していくことを誓う」と訴えている。賛成派は、個人の自由と自己同一性(アイデンティティ)の侵害、ジェンダー平等の観点からも、法案の成立を目指している。世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数(2024年版)で、日本が146カ国中118位と低迷している背景には、夫婦同姓義務化のような制度が影響していると賛成派は指摘する。

この問題に詳しい、東京都豊島区南大塚にある東京あかつき法律事務所の岩本拓也弁護士(56歳)に話を聞いた。

◆「別姓を導入すべき」と考える国民は26%

 令和6(2024)年7月7日のJNN(日本の民放テレビ局のニュースネットワーク)の夫婦別姓に関する調査結果では、「同じ名字を維持すべき」が21%、「同姓を維持し通称(旧姓使用)を法制化」が47%、「別姓を導入すべき」は26%に留まった。朝日新聞の2024年7月調査だと、「賛成」が73%とかなりの差があるものの、JNNニュースがネットワーク各局の共同制作であることを踏まえると、国民の大半は反対と考えられる。

「たたき台となる法務省案は、平成8(1996)年 に出ています。立憲民主党案では、婚姻時か妊娠時に子どもの氏を決めることになっていますが、夫婦の話し合いで決まらない時は、家庭裁判所で決めることになります。婚姻時や妊娠時など、幸せで絶頂の時に、なぜなくていい対立を生み出すのだろうと思います。家裁の調査官は、どちらの姓がいいかなんて、どういう基準で決めるのでしょうか?」

日本の場合、姓は遡れば、出自の問題にまで行きつく。双方の親も含め、揉める・差別問題にまで発展する可能性は大いにある。

岩本氏は、立憲民主党が推し進める夫婦別姓の問題点は以下にあるという。

1 氏は名字としての役割を喪失し、個人を示すものに変わる
2 子どもの氏を出生時に夫婦で協議して決めるため、子の氏が出生から14日以内に決まらない場合、無戸籍児となる可能性がある。「親子別姓」「兄弟別姓」となる
3 令和3(2021)年の政府世論調査 では、国民の7割が子どもへの悪影響を心配している。具体例としては、「友人から指摘され嫌な思いをする」が79%、「親との関係で違和感や不安を覚える」が60%、「家族の一体感の喪失」が23%
4 別姓導入後、2年に渡り、既に結婚している同姓夫婦も別姓を選択する経過措置が用意されるが、別姓を選択した夫婦は、子をどちらの姓にするかが迫られる

「旧姓使用の法制化をすれば、同姓であることの不便・不利益は、全て解消します。パスポート・マイナンバーカード・運転免許証・各種国家資格などは、旧姓使用の拡大で解消できます。旧姓を併記すれば済む話です。金融機関での口座開設や旧姓での不動産登記・研究論文などの業績が旧姓のまま引き継ぎできないと懸念されますが、政府・自治体・業界団体の統一対応が可能になります」

◆子どもの約50%が夫婦別姓に反対

令和7(2025)年1月1日に公開された、産経新聞による小中学生2000人を対象とした調査 では、「反対」が49.4%、「親が決めたなら賛成」が18.8%、「賛成」が16.4%、「わからない」が15.4%で、約半数の子どもが反対している。

子どもたちからは、「両親の離婚への不安」や「兄弟姉妹で異なる名字になるのは嫌だ」といった声が上がっている。

家族としての一体感を保てるのか、いじめ問題に発展しないかはセンシティブな問題だ。

「今、ただでさえ、日本は少子高齢化しています。立憲民主党案は、肝心な子どもたちの問題は後回しにした杜撰な案です。私は婚姻率・出生率の低下につながると懸念しています」

2023年の日本の合計特殊出生率は1.20で、1947年の統計開始以降で過去最低を記録した。また、2024年の出生数は72万988人で、1899年の統計開始以降で過去最少となった。 ただでさえ、婚姻率が低下している今、子どもの氏の問題が関わると、より結婚へのハードルが高くなるのではないか。

「子どもが夫婦どちらの姓がいいかなんて、姓名判断にでも頼るしかないんじゃないでしょうか」と岩本氏は、苦笑いした。

◆日本の制度は時代遅れなのか

なぜ、国民の約半数が反対している夫婦別姓制度が、導入されようとしているのか。

「主に、推進しているのは、立憲民主党・共産党・公明党などですが、自民党も一枚岩ではありません。日本維新の会は反対しています。国民民主党は、慎重な立場を取っています。賛成派は、同性婚や国際結婚など、ごく少数の人たちにとって不便で不利益があると言います。だけど、制度設計というのは、多数派の意見を元にしなければ、混乱します。多数派に焦点を当てた制度設計が民主主義の根幹です」

日本の制度は時代遅れだという意見もある。海外の事例をご紹介する。

夫婦別姓を選べる国は多いが、逆に夫婦別姓が強制される国もある。日本の別姓案は、「例外のない自由な選択性」という意味で、スウェーデンに似ている。しかし、「福祉国家」のイメージの強いスウェーデンでは、事実婚や同棲が多く、離婚率は5割を超えている(日本は2023年度で約39% )。

大半がヒンズー教徒のインドや、慣習法の国のジャマイカは夫婦同姓だ。しかし、夫・妻のどちらの姓にもできる日本と違い、妻が夫に合わせる形での同姓で、子どもは夫(父親)の姓を継ぐ。キリスト教国のイタリアでは、夫は元々の姓を使い、妻は結合姓(自分の姓と夫の姓を結合させる)を使うのが原則。アルゼンチンも同様だが、旧姓の通称使用も認められている。ドイツは、1993年に夫婦別姓を許容したが、原則は同姓で、別姓にするには、役所への申告が必要だ。韓国は儒教の影響で、妻は夫の姓を名乗れない。イギリス・アメリカでは、妻が夫の姓を名乗る同姓夫婦が圧倒的に多い。ベルギー・ポーランドでは、子は父親の姓を名乗ることになっている。日本が時代遅れとも言えない。

「夫婦と家族の姓は、それぞれの国の伝統や家族観により異なります。賛成派は、家制度による呪縛だと主張しますが、それは極論です。また、スウェーデンの事例などには言及しませんよね」と岩本氏は指摘する。

今国会の会期は、2025年1月24日から6月22日までだが、一番に影響を受ける子の福祉を優先した、慎重な議論が望まれる。

<取材・文/田口ゆう>

【田口ゆう】
立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

このニュースに関するつぶやき

  • 朝日・産経・JNN…いろんな弁護士に聞いてみるといいかもしれないネ。 「幸せで絶頂」「対立」なんだ…夫婦あるいはその前にお二人で決めれば?
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