この春はスギ、ヒノキ、黄砂が同時に大量飛散しアレルギーが重症化! しかし、黄砂からはただのアレルギーでは済まされない影響が!! 手立てはないのか?
「ここ数日、当クリニックの受診者数は、いつもの1.5倍に膨らんで受付はパンク状態です。
『苦しくて呼吸ができない』『咳が止まらなくて夜も眠れない』など、“黄砂”による健康被害を訴える患者さんが、ひっきりなしに来院されているからです」
そう切迫した状況を明かすのは、いとう王子神谷内科外科クリニック院長の伊藤博道さん。
伊藤さんが言う“黄砂”とは、中国大陸の砂漠地帯から、偏西風に乗って運ばれてくる黄色い“砂”のこと。鉱物や微生物、汚染物質なども付着している。
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例年、2月ごろから飛び始め、3〜5月がピークに。
3月25、26日には、全国的に大量の黄砂が飛来し、空がかすんだ地域もあった。
「とくに今年は、例年ならすでに終わっているスギ花粉もまだ飛んでいて、そこにヒノキの花粉も加わり、さらに黄砂も飛来するというトリプルパンチになっています。そのせいか、例年以上に症状が悪化している方が多い印象です」(伊藤さん)
黄砂による健康被害の症状は、冒頭で伊藤さんが述べたような呼吸器症状のほか、くしゃみ、目のかゆみ、皮膚の炎症など、花粉症に似た症状も現れる。
「花粉症かな、と思って来院したら、じつは黄砂の影響だった」という患者も少なくないという。
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このように、自分では判別がむずかしい黄砂の健康被害だが、見分ける方法はあるのか。
■金属アレルギーを持っている人のほうが黄砂によるトラブルが出やすい
黄砂に詳しい聖路加国際大学大学院・公衆衛生学研究科准教授の大西一成さんは、こう指摘する。
「症状には個人差があるので一概に『この症状は黄砂の影響』とは言えません。
ただ、花粉症のアレルギー検査をして陰性なのに、黄砂が飛来しているときに鼻水や目のかゆみ、喉の痛みや咳、肌の炎症といった症状が出ている場合は、黄砂による影響の可能性が大きいです」
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また、金属アレルギーを持っている人のほうが、黄砂による皮膚トラブルが出やすいという傾向も。
「黄砂には、さまざまな金属成分が絡まっています。私たちの研究では、黄砂のときに湿疹やかゆみなど、肌トラブルを感じた方の9割がニッケルという金属のアレルギーを持っていたことがわかっています」(大西さん)
加えて前出の伊藤さんは、臨床の経験から、「花粉より黄砂のほうが鼻や喉の炎症などがひどくなりやすい傾向にある」として、黄砂特有の特徴を、こう解説する。
「髪の毛の断面が70マイクロメートルとすると、スギ花粉の粒子は20〜40マイクロメートル、黄砂はマイクロメートルと、かなり小さいため、気道の奥まで入りやすい。加えて、黄砂は鉱物が絡まっていて硬いので、吸い込んだときに粘膜を傷つけてしまいます。その結果、花粉症よりも喉や鼻の炎症がひどくなり、粘膜が腫れてぜんそくのような症状が出る方もいます」
■黄砂が飛来したあとに、急性心筋梗塞の患者が増えるとの報告も
軽度ですめばよいが、命にかかわる大病の引き金になることも。
「2017年には熊本大学などの共同研究により、黄砂が飛来したあとに、急性心筋梗塞の患者が増える可能性があると報告されています。
生活習慣病などの既往歴がある方はもちろん、高齢者は影響を受けやすいです。そうでない方でも、黄砂が飛来するたびに吸い込んでいると、ダメージが積み重なって、発症につながる可能性もあるので注意が必要です」(大西さん)
■気候変動により近年、黄砂が全国に飛来
つまり、健康であっても、黄砂の吸い込みは避けるべきなのだ。一方で、黄砂が飛来するエリアは、近年、拡大している。
「黄砂は、地球のまわりを西から東へ向かって吹く偏西風に乗って飛んできます。近年では、気候変動や温暖化によって南からの高気圧に押し上げられ、偏西風の吹く位置が北へ押し上げられることがあり、以前は黄砂が飛ばなかった青森や北海道など広範囲で観測されています」(大西さん)
汚染物質や金属成分を含んで、日本列島を覆う黄砂。
ぜんそくや心筋梗塞など、重篤な病を防ぐためにも、次のような吸い込み防止対策が必要だ。
「気象庁の黄砂情報をチェックして、黄砂が多く飛ぶ日には、長時間の外出は避けること。外出が避けられないときは、マスクやゴーグル、帽子を着用するなどの対策を心がけましょう。また、鼻の下にワセリンを塗ると、黄砂の侵入防止につながります」(伊藤さん)
アウターの素材も吟味が必要だ。
「黄砂は粒子が細かいので、繊維の奥まで入り込みやすい。そのため、黄砂が多く飛ぶ日には、付着しにくい表面がつるんとした素材を選びましょう」(大西さん)
帰宅後は、すぐにシャワーを浴びて黄砂を落とすことも忘れずに。
「洗濯物は室内干しに。昼から夕方に風が強くなることが多いので、外干しするなら、風の弱い日の早朝や夜間にしましょう」(伊藤さん)
■マスクのノイズワイヤーをフィットさせるだけで黄砂の40〜50%をカット
加えて重要なのは、「不織布マスクの着用の仕方です」と指摘するのは、前出の大西さん。
「マスクを着けているだけでは、隙間からほぼ100%黄砂が侵入します。これを防ぐには、マスクについているノーズワイヤを曲げて、鼻にしっかりフィットさせること。そうすれば、黄砂の侵入を40〜50%カットできることが私たちの実験でわかっています」
また、肌の炎症やかゆみを起こさないためにも、顔や首など露出部分には、しっかり日焼け止めクリームを塗るなどして、直接、黄砂が肌に付着しないようにしよう。
日ごろから、アレルギーなどに負けない体づくりも心がけたい。
「人間の体には、異物が体内に侵入すると抗体を作って体を守ろうとする免疫が備わっています。しかし、ライフサイクルが乱れると、免疫機能も乱れ、過剰反応してアレルギーを発症しやすくなることも。そうならないためには、規則正しい生活を送る、バランスのよい食事をとる、適度な運動をするなど、ライフスタイルを見直すことも大切です」(大西さん)
黄砂は5月ごろまで飛来する。お花見も防御しながら楽しみたい。
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