レアルのチャンピオンズリーグ連覇に黄信号 アーセナルの衝撃ゴールには伏線があった

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2025年04月09日 18:10  webスポルティーバ

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 チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝。4試合はいずれも実力的に拮抗した戦いとなるが、優勝争いに最も影響する試合はどれかと言われれば、アーセナル対レアル・マドリードになる。

 英国ブックメーカー各社の予想によれば、2番人気対3番人気の対戦だ。アーセナルはUEFAランク1位のプレミアリーグの最上位クラブ。対するレアル・マドリードはディフェンディングチャンピオンで、同ランク2位のスペインリーグで現在、首位バルセロナに次ぐ成績を残している。格的にもレベル的にも両者は高位で拮抗する。

 好勝負必至。アーセナルホームで行なわれたファーストレグは、実際そうした雰囲気で始まった。その時、3−0という結果を予想することはできなかった。

 ヴィニシウス・ジュニオール、キリアン・エムバペ、ジュード・ベリンガム、ロドリゴで形成するレアル・マドリードの攻撃陣は、スタンドを埋めたアーセナルファンにも脅威に映っていたに違いない。ミケル・メリーノをトップに、左右のウイングにガブリエル・マルティネッリ、ブカヨ・サカ、左右のインサイドハーフにデクラン・ライス、マルティン・ウーデゴールで構成するアーセナルを、迫力、線の太さという点で、上回っているかに見えた。

 序盤、ボール支配率で上回ったのはアーセナルだが、たとえば前半4分、ヴィニシウスにボールが渡ると雰囲気は一変、ホームを埋めたアーセナルサポーターに戦慄が走った。レアル・マドリードはその時、恐ろしい集団に見えた。

 前半30分ぐらいまで、チャンスの数では、ボール支配率でやや劣るレアル・マドリードがむしろ勝っていた。アーセナルがボールを悪い形で失い、そこから1本のパスで場が一転するシーンが発生した。得点の可能性はレアル・マドリードのほうが上回るかに見えた。

 アーセナルに明るい兆しが見えたのは前半32分、サカがマークにきたベリンガムと対峙しながら縦突破を決めたプレーだ。マイナス気味の折り返しはゴール前を通過していったが、誰かが真ん中で触れば......という決定的な崩しだった。

 サカはさらに前半40分にも最深部からの折り返しを決めている。対峙するダビド・アラバに仕掛ける素振りを見せながら、脇のウーデゴールにボールを預けるとパス&ゴーでアラバの背後を取る。リターンを受けるやライン際からゴール前に決定的なボールを送った。

【ロベルト・カルロスを想起するFK】

 レアル・マドリードに傾きかけた流れは、このあたりからアーセナルサイドに移り始める。前半終了間際には、レアル・マドリードのGKティボー・クルトワを連続して急襲する大きなチャンスを迎えた。右SBユリエン・ティンバーが上げたセンタリングをライスがヘッド。クルトワがセーブしたこぼれをさらにマルティネッリが枠内シュートを蹴り込むという、この日一番の派手なチャンスだった。

 得点こそならなかったが、パンチは効いていた。ダウンこそ奪えなかったが、パンチの重さでレアル・マドリードに劣るとみられていたアーセナル自身を勇気づけるに十分な迫力ある攻撃だった。

 後半、最初にチャンスを作ったのはレアル・マドリードだった。5分、アントニオ・リュディガーの縦パスを、ベリンガムがワンタッチでさばき、それを受けたエムバペがシュートに持ち込んだシーンだ。揺らしたのはサイドネットだったが、後で振り返れば、シーソーの揺れ幅が大きくなった瞬間だった。

 次はアーセナルの番になる。後半12分だった。タッチライン際で右SBティンバーからパスを受けたサカが、対峙するアラバを引きつけながら20〜30メートル、カットインする。少しでも押されたらすぐに倒れる準備ができている、まさに謀ったようなドリブルだった。

 その策略にアラバははまる。イルファン・ペリト主審も釣られるように笛を鳴らした。ゴールまで27〜28メートルはあり、ほぼ正面であるためキックに角度を見出しにくそうな、決定的には見えない位置でのファウルだった。

 レアル・マドリードが築いた壁もゴールをしっかり覆っていた。だがライスの蹴ったキックは、こちらの想像を上回る軌道でゴールに向かった。枠の2メートルほど外から巻くような軌道で、ギリギリにネットに吸い込まれていった。

 想起するのは1997年に開催されたトルノワ・ドゥ・フランス。リヨンのスタッド・ジェルランで行なわれたフランス対ブラジル戦で魅せたブラジルの左SBロベルト・カルロスのFK弾だ。左足のスライスという軌道だったので、右足のカーブキックだったライスとは逆だが、枠の2メートルほど外から巻いてギリギリでゴールに吸い込まれるという衝撃的な絵柄は共通していた。

【レアルにふたつ目の落とし穴】

 このまさかのスーパーゴールをどう考えるか。1週間後にはセカンドレグが待ち受ける。追いつく時間は十分ある。

 流れはレアル・マドリードがボールを保持する展開に変わった。格上はこちらだと、プライドを前面に出しながらアーセナルに向かっていった。そこにふたつ目の落とし穴が待ち構えていた。

 後半22分、サカが内に切れ込むと、今度はMFエドゥアルド・カマビンガが倒してしまう。キッカーはまたライス。レアル・マドリードの間違いは、ここで壁の作り方を誤ったことにある。ライスが蹴るや、壁は消えた。そこに立っていたアーセナルの3選手がコースを開けるように散ったのだ。なぜ、その裏をレアル・マドリードはケアしていなかったのか。

 ライスのシュートは強烈な弾道で、コースも抜群によかったが、2点目のゴールを許した原因の多くはレアル・マドリードの壁の作り方にあった。まさかライスのFKが2発続けて入ることはないだろうと、楽観的だった感は否めない。

 今度は2010年南アフリカW杯日本対デンマーク戦で、本田圭佑のFK弾に続き、遠藤保仁のFKが決まった瞬間を想起した。遠藤のキックも見事だったが、デンマークに油断があったことも確かだった。

 2点差ならまだ30〜40%ぐらいの確率で逆転の目は残されていた。ホームで戦うセカンドレグに望みをつなぐことはできた。ところが15度欧州一に輝いているディフェンディングチャンピオンは、後半30分に三度目の失点を喫した。

 左SBマイルズ・ルイス・スケリーからのパスをCFミケル・メリーノに、ダイレクトで引っかけるようなテクニカルな左足キックでゴール右隅に蹴り込まれてしまった。万事休すとは言わないが、セカンドレグで0−3をひっくり返す可能性は10〜15%あればいいほうではないか。2度目のCL連覇に黄信号が点った。

 試合を振り返った時、明暗を分けるきっかけになったプレーを挙げるならば、サカが前半32分に見せたドリブルだろう。

 ベリンガムに縦勝負を挑み、きれいに抜き去ったプレーだ。そのサカが、ライスが決めた2発のFKにも関与した。「サカのドリブルは怖い」とのイメージをレアル・マドリードの守備陣に与えたことが、反則を誘った原因と見る。縦抜けからのマイナスの折り返し――その脅威をまざまざと実感させられた試合と言ってもいい。

 マン・オブ・ザ・マッチは2得点のライスだが、筆者にはサカの存在感がそれと同じくらい光って見えた。

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