大谷麻稀東京の上野でスナックを営む大谷麻稀です。会社員を辞め、未経験の水商売で独立してから早2年。日本屈指の飲み屋街で、昼も夜もさまざまな人間模様を見てきた私が、今夜のお酒がちょっぴり美味しくなるコラムをお届けします。
水商売の話が出れば、「そんなところに行く人の気が知れない、興味ない」
芸能人の訃報ニュースが流れれば、「知らない。誰? 興味ない」
なぜ、わざわざ「興味ない」ことを声高らかに主張してしまうのか。心の内で思っていればいいものを、なぜヤフコメやX(旧Twitter)に書き込んで「お気持ち表明」してしまうのか……。今回はそうした人たちについて思うことを書いていきます。
◆わざわざ「興味ない」と投稿する意味がわからない
私自身、幅広い分野に関心があるタイプではありません。エンタメについての知識も少ないですし、これといった趣味もありません。美容にも無関心。人生通して「推し」がいたこともありません。
でもわざわざ、「幼児向け番組なんて興味ない」なんて主張したことも、「誰この人? 知らない人が死んだとかどうでもいい」なんてYahoo!ニュースにコメントしたことも、「デパコスなんて興味ない、金の無駄!」なんてX(旧Twitter)で引用リツイートしたこともありません。
人の興味は様々で、興味がないジャンルが存在することは当たり前です。しかし、どうして興味のない話に自ら首を突っ込んで、声高らかに、意気揚々と、でっかい声で、「興味ない」と自己主張してしまう人がいるのか。「興味がないこと」と、「興味がないことを“わざわざ”主張すること」は、まったくもって違うことのように感じます。
◆「興味ない」は劣等感だった?
そもそも「興味ない」という発言は、中立な立場のように見えて、わざわざ宣言する時点で、だいぶネガティブな行動に思います。興味ないことは話題にしない、わざわざ口を突っ込まない人が多いからです。誰からも攻撃されてない(そもそも対象とも認識されていない)のに、わざわざ自分から「俺はここにいるよ! 俺の意見を聞いてくれ!」と姿を現し、攻撃しにいく言葉のように聞こえます。
誰かの好きを否定することは、誰も幸せになりません。それなのに何故してしまうのか……それはきっと、「興味ない」ことで、「誰かが高評価をする対象物を、低評価する自分は、高評価する人よりも格上」と主張したいのではないでしょうか。それはまるで、イソップ寓話の「酸っぱい葡萄」のようです
そこまでの意識がなかったとしても、「興味がない」ことがアイデンティティで、「カッコいい」ことだと思っている。さらには、「他の人が興奮・熱中できるものを、冷めた目で俯瞰できる俺」というポジションを築きたいのではないか、と想像します。
そして、これは彼らにとってステータスであると同時に、世間一般からみると一種の厨二病とも言えるのではないでしょうか。Googleで「厨二病とは」と検索すると、AIによる概要で、「自分が特別な存在であるという根拠のない思い込み」という記述が。
「自分をよく見せるための背伸びや、自己顕示欲と劣等感を交錯させたひねくれた物言い」と解説されていましたーーそうか、「興味ない」は劣等感だったのか。
◆自分が優位なポジションに立ったつもりなのか?
改めて考えてみると、声高らかに何かを「興味ない」とバッサリ切り捨てている人、「多くの人に興味を持たれている人」は少ないような気がします。
「あいつは俺を嫌うだろうから、俺から先に嫌ってやる」と同じ理論で、「他人から興味を持ってもらえない自分を守るため」に、「対象物(または、それに興味がある人)を興味ないという言葉で拒絶する」ことで、自分が優位なポジションに立ったつもりなのではないか。
だってそうじゃなかったら、「興味ない」なんて主張してる時点でめちゃくちゃ「興味ある」という矛盾を、説明できません。話をシャットダウンしてるつもりで、自らにスポットライトを当ててほしいと思ってる気持ちが透けて見えます。
◆ハッとさせられた先輩社員の一言
余談ですが、この「興味ない」という言葉に、私自身忘れられないエピソードがあります。大学生の頃、いわゆる“意識高い系”だった私は、渋谷にあるIT企業で働いていました。午前中は少しだけ大学、午後はアルバイト、深夜はお酒と決まりきったルーティンを送る私は、興味の幅が狭く、決まりきった属性の人とばかり連んでいました。
ある時、先輩社員との雑談の中で、「私、ゲームとか興味持てないんですよね〜」と、ぽろりとこぼしました。これまで述べてきた方々のように“わざわざ主張”したわけではありません。しかし、私の何気なくこぼした言葉に対し、先輩から返された言葉がずっと残っています。
「『興味がない』で終わらせたらもったいないよ。自分は興味ないと思うことでも、熱烈に興味がある人もいるわけで、実際にゲームは市場規模も大きい。他の多くの人はゲームのどんなところに惹かれているんだろうって深掘りして考えた方が、人生面白くない?」
何気ない会話でしたが、これを受けて「興味がない」と声高に主張するのは、途端に恥ずかしい行為に思えました。
◆「興味ない」とシャットダウンすることは…
私のお店のお客様でも、何の話題でも拾って話を広げられる方が数人います。もちろん初対面のどんな方が隣に座ってもです。ゴシップや芸能ニュースといった俗世的な話から、アニメ、学問、マニアックな地方都市の知識、さらには伝統芸能まで……。
引き出しの多さに感心すると同時に、色々なことに興味関心を持てること(もしくは、意識的に勉強しているのかもしれませんが)にも人としての深みを感じます。
「興味ない」とシャットダウンすることは、まったくもって「カッコいい」ことではない。自戒を込めて、人生常に勉強していきたいと思う次第です。
<TEXT/大谷麻稀(まきぱん)>
【大谷麻稀(まきぱん)】
上野にてスナックを経営する28歳。大好きなお酒にコミットするべく鉄道会社を退職し、ほぼ未経験の世界へ転身。TOEIC910取得。趣味は海外一人旅。