写真はイメージですラブホテルでのぞき見はあるのかー。室内には盗聴器や盗撮のカメラが設置されているといった都市伝説もかねてからある。
今回は、そんな風評被害に苦しみながらも都内でラブホテル(ビル型)を20年程経営する支配人男性(56歳)に取材を試みた。
このホテルでは、男性が支配人になった過去13年で数回、のぞき見と思われる問題が生じた。
◆50代男性が浴室の窓から中をのぞいていた
その1つは、ある日の深夜1時頃、1階の部屋の女性客からフロントに電話が入ったことではじまった。
女性は「風呂場の窓付近に人影が映っている」とうろたえて話す。支配人が急いで向かったところ、暗がりの中、50代後半ぐらいの男性が風呂場の窓から中をのぞくような姿勢でいる。「何をしているのか」と尋ねると、酔っているようで要領を得ない。
「上半身は服を着ていたが、ズボンとパンツを脱いだままだった。あんな暗闇で何をしていたのだろう。妄想に浸っていたのでしょうかね」
防犯カメラは警察の助言もあり、駐車場やホテルの出入り口、室内の階段やエレベーター、廊下など利用客が歩くところを中心に設置している。
支配人によると、全国のラブホテルの多くが防犯カメラを敷地内に設けているようだ。その映像は、スタッフがバックオフィスで利用客の安全を守るために常時、録画し、確認している。
近くで犯罪が起きた時には、警察官がその映像を見せてほしいと依頼してくる場合がある。容疑者がホテルに来たかどうかを確かめるためだ。
「のぞき見が起きた時点で1階の風呂場の窓付近には、防犯カメラを設けていなかったのです。しかも、ホテルの周囲はビルや家が少なく、ホテルの駐車場には明かりがあまり入らない。のぞき見が起きた付近は私たちからすると死角でした。女性のお客さんは服を脱ぐ前の段階で気がついたようです。数センチ程、窓を開けていたみたいでした」
◆1階のお風呂の窓は防犯の盲点
警察に通報するとパトカーが現れ、警官が男性に質問をするが、答えない。警官は署に連行した。
被害を受けたと思われる女性と男性の客は被害届を警察に届けなかった。支配人は、「お客さんに申し訳ない思いで一杯でした」と語る。
男性が勤務する職場の連絡先を知ったのでその責任者に再発防止のために伝えておこうと電話を入れ、事情を説明した。
数日後に責任者が現れ、謝罪をした。男性は長年勤務するベテランで、勤勉だったようだ。支配人は、それ以上は責めなかった。
ところが、男性が再び来た。駐車場を歩く姿が防犯カメラに映ったので、厳しく言ったが、酔っているようで会話にならない。支配人は、翌日に職場の責任者に連絡した。その時点ですでに退職をしているようだった。
「本当はこんなことをしたくないのですが、お客様の安全を守るためには止むを得ないのです。ここのお風呂はビジネスホテルのものよりもはるかに大きく、キレイにしています。それだけに、腹が立ちました」
その後、1階の風呂場付近に防犯カメラを新たに設置したり、暗いところに照明やライトをつけた。防犯カメラでの確認は、一段と念入りにしている。のぞき見をしていた男性はもう来ない。
「うちだけでなく、ほかのラブホテルでも1階のお風呂の窓は開けないほうがいいかもしれませんね。のぞき見をする人がいるかもしれませんから。そこは、防犯上の盲点となっているケースがあると思います」
◆近所に住む男性の怪しい行動
のぞき見であるのか、今なおわからないケースもある。
ホテル付近に住んでいた男性が駐車場にゆっくりと歩いて入ってきて、利用客がいる部屋に向かう様子を見つけた。スタッフがそこへ行き、止めたことがある。
「のぞき見をしようとしていたのかどうかは、わかりませんでした。本人は話すことができないような状況でしたから。近所でも、怪しげな人で知られているようでした。こういうケースはほとんどないのですが、万が一に備え、ホテル内の安全を守るために敷地内は常に確認しているのです」
男性はその後、家族とともに他の地域へ転居し、ホテルの敷地内に入ってくることはなくなった。
◆3階の女性客から「見られていた」と連絡
のぞき見であるのか、それとも見間違いなのか、微妙な問題も生じた。
ある日、3階の露天風呂に入ろうとした女性客からフロントに連絡が入った。女性は、「見ず知らずの男が、外からこちらをのぞいていた」とこわごわ話す。
「そこに行った時には、男性はいませんでした。露天風呂の外から、つまり、1階からよじ登ってきたようなのです。こんな高さまでどうやって上がってきたのだろう。外から上がれるような造りにはなっていないはず。
駐車場をはじめ、周辺の防犯カメラにもそれらしい男性は映っていない。もしかすると、見間違いかもしれないと思ったほどです。うちではのぞき見はめったになく、利用客の安全はきちんと守られています」
警察に通報したが、その後も男性は捕まっていない。その後、このような問題は起きていない。
最近は、女性客が「駐車場内をドローンのようなものが飛んでいた」とフロントに言ってきたこともあった。だが、それらしいものは防犯カメラにも映っていない。
◆ラブホテルに関する都市伝説
支配人は、のぞき見をされていると誤解をする人がいるのは、ラブホテルに関する都市伝説の影響があるかもしれないとも語る。事実ではないことが、あたかも真実であるかのように語られていくことだ。
「部屋に盗聴器や盗撮のカメラがセッティングされていると信じている人が依然としているようですが、それはありえません。たとえば、テレビ画面やリモコン、電源コンセントにつけられているのではないか、とフロントに言ってきたお客さんはごく少数ですが、いました。うちでは部屋内に盗聴器や盗撮のカメラがないかを定期的に調べていますが、現在まで1つもありません。こういう誤解があるために、自分がのぞかれていると思ってしまうケースがあるのかもしれませんね」
支配人は利用客の安全を守るためにさらに防犯に力を入れていきたい、とも話す。ラブホテルについての風評被害に翻弄される人がいることも忘れたくないものだ。
<取材・文/吉田典史>
【吉田典史】
ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』『あの日、負け組社員になった…』(ダイヤモンド社)など多数