なぜ“おすそ分け”可能に? 「Switch2」から見える、任天堂のDNA

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2025年04月11日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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Nintendo Switch 2が発表された(出所:公式Webサイト)

 2024年5月、任天堂が企業広報Xアカウントを通じて「今年度中にNintendo Switchの後継機種に関するアナウンスを行う」と投稿して以来、ファンの注目を集めていた次世代機がついにベールを脱いだ。


【画像】初代switchから変更となった、画期的な「着脱方法」


 4月2日に放送されたNintendo Directでは、次世代機「Nintendo Switch 2」(以下、Switch2)を2025年6月5日に発売予定であること、また同機種の仕様やローンチタイトルの詳細が明らかになった。


 この新たなゲーム機に込められた任天堂社の思い・狙いとは何か。考察したい。


●後継機としての位置付け


 発表されたNintendo Switch 2の特徴をおさらいしたい。Switch2は据え置き型ゲーム機であるNintendo Switchの後継機種であり、任天堂が発売するゲーム機としては初めてナンバリングが付けられているのが印象的だ。


 ただ、ハードウェア面では前世代機と比べて大幅に進化している。本体サイズが大きくなり、画面は7.9インチのフルHD(1920x1080)、最大で120fpsの出力に対応。内部ストレージは256GBと前世代機の32GBから大幅に増加。ストレージ拡張には最大2TBのmicroSD Expressカードを採用し、従来のmicroSDカードよりも高速な読み書きを実現するなど、現代のゲーム体験に必要なスペックを備えている。


 コントローラーも大幅に刷新している。従来の上下スライド方式から磁石を利用した横方向着脱方式に変更しており、小さな子どもでも容易に取り外し可能になっている。さらに、新たに「Cボタン」を追加し、オンラインでのボイスチャット機能「ゲームチャット」にアクセス可能になったことも特徴的だ。


●Switch2を通じてもたらされる価値


 Switch2に加えられた新機能や変更点の意図を考える上で、一度任天堂のルーツを振り返ってみたい。


 1889年、山内房治郎氏が京都で創業した「任天堂骨牌」は花札の製造から始まった。当時の花札やカルタは、家族や地域コミュニティーで顔を見合わせながら楽しむコミュニケーションツールだった。


 テレビやゲーム機など存在しない時代では、人々はカードを通じて娯楽に興じ、笑顔を交わした。これこそが130年以上もの間「娯楽×コミュニケーション」を提供し続ける任天堂の原点だ。


 ビデオゲーム事業が中心となって以降も、任天堂が娯楽だけでなく人と人のつながりを重視していたことは過去のゲーム機やゲームソフト、周辺機器を見ても明らかだ。ビデオゲームは家で一人で遊ぶものという傾向が強くなり始めた1980年代後半から1990年代にかけても、ゲームボーイの通信ケーブルやスーパーファミコンのスーパーマルチタップなど、任天堂は2人以上がリアルの場で集まってコミュニケーションを取りながら遊ぶ環境を必ず用意してきた。


 筆者もまた、学校が終わり、ハードとソフトを所有している友人の家に集まり、最大5人でボンバーマンシリーズをプレイした経験があるうちの一人だ。今や日本を代表するコンテンツとなったポケモンの躍進に、この通信ケーブルを通じた交換、リアルでのコミュニケーションが大きく寄与したことは言うまでもない。


 Nintendo64の時代では、前世代機から続くマリオカートシリーズに加え、スマッシュブラザーズシリーズ、マリオパーティシリーズなど、複数人で楽しめる名作が次々と誕生した。


 現代では複数人でのプレイが前提となるゲームは珍しくないが、それはリアルの場ではなくオンラインでつながることが中心だ。Switch2の仕様を見るに、任天堂はこのデジタル時代において、新たな形で旧世代から続く人々の「つながり」「コミュニケーション」を「娯楽」を通じて実現しようという試みが見て取れる。


 そう考えられる理由の1点目は、先述したゲームチャット機能とそれを起動するためのJoy-Con 2のCボタンだ。Webカメラを使用したビデオ通話機能も提供する予定で、離れていても表情や反応を共有できる。


 今や小学生から、オンラインで複数人が集まってゲームする時代である。そのニーズに対し、ゲーム機単体で応えることの意義は大きい。単にゲーム機単体でのチャット機能であればPCや他社ゲーム機でも可能だが、Switch2では「Nintendo みまもり Switchアプリ」と連動して利用の制限や条件設定、モニタリング可能な点が特徴である。世界共通のニーズである「親が安心して子どもに与えられる遊び」を意識しているといえる。


●「おすそわけ通信」から分かること


 2点目は「バーチャルゲームカード」である。本機能はSwitch2の発売に先駆け、2025年4月下旬からNintendo Switch向けに導入される。バーチャルゲームカードはダウンロードしたソフトを物理カードのように管理するシステムである。ダウンロード販売の普及により不可能となった「ゲームソフトの貸し借り」を公式の手段として提供するものと言い換えられる。Nintendo Switchシリーズは据え置き型ゲーム機でありながら、携帯ゲーム機としての側面も持ち、親子または兄弟姉妹で1台ずつ保有しているケースも少なくない。本機能により、例えば親がデジタル購入したゲームを子どもの端末へ貸し出すことが可能になる。


 3点目は「おすそわけ通信」である。これは、SwitchまたはSwitch2本体を持ち寄り、対応ソフトを所有している端末が一つあれば、そこから他端末に対してゲームを「おすそわけ」し、一緒にゲームをプレーできる機能である。


 Switch2に限っては「ゲームチャット」の参加者に限定することでインターネットを通じた「おすそわけ通信」も可能となる。


 これらの3点から見えてくるのが、創業期から続く娯楽の形態をデジタル時代に適合させた形で再構築しようという意図である。親が購入したソフトを子の端末に貸与する、ソフトを所有している友達の家に集まり会話しながら楽しむ。更にさかのぼれば花札やトランプ、カルタを所有している家庭に集まり遊びに興じるといった、人と人が「娯楽」を通じてつながることを、現代の環境・ツールにあわせて実現させようとする試みといえる。


 生活形態の変化にあわせ、デジタルの世に対応しながらもアナログの接点の良さを残す、日本の娯楽を130年に渡り観測し続けた同社ならではの取り組みといえる。


●環境に即した販売形態


 Switch2の販売形態にも特筆すべき特徴がある。日本市場向けに、4万9980円の日本語・国内専用モデルと6万9980円の全世界対応・多言語対応モデルという選択肢を用意した点だ。おそらくグローバル市場での円安を背景にした判断であり、日本の消費者が自国向け製品を適正価格で購入できるよう配慮した形だろう。


 日本では公式オンラインストア「My Nintendo Store」での抽選販売を採用。2025年4月4日から予約抽選を開始し、公平な購入機会を提供しようとしている。抽選応募条件として「2025年2月28日時点で、Nintendo Switchソフトのプレイ時間が50時間以上であること」「応募時点で『Nintendo Switch Online』に累積1年以上の加入期間があり、応募時にも加入していること」を設定している。これらの条件を設定した背景には、Switch2を真に欲している層に確実に届けたいという意図がうかがえる。


 Switch2は単なる新しいゲーム機ではなく、任天堂が130年以上に渡って探求してきた「娯楽×コミュニケーション」の最新形態だといえる。花札からファミリーコンピュータ、そしてSwitchへと続く長い歴史の中で、任天堂は時代の変化に適応しながら必ずこの2要素を組み込んだ体験を提供してきた。


 デジタル化・オンライン化が進み、オフラインでのつながりが希薄化しつつある現代において、Switch2は人と人の娯楽を通じたつながりを再構築する役割を担っているといえるだろう。


●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 


 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。


 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。



このニュースに関するつぶやき

  • 近所の公園に白黒ゲームボーイを友達と持ち寄って、通信ケーブルで繋ぎ合わせて、『ボンバーボーイ』や『テトリス』を対戦したのが懐かしい。35年ほど前か。楽しかったな。
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