FC町田ゼルビアのドレシェヴィッチの断食期間の生活リズムとは シーズン中でも「すっかり慣れた」

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2025年04月12日 07:20  webスポルティーバ

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FC町田ゼルビア ドレシェヴィッチ インタビュー 後編

 FC町田ゼルビアDFドレシェヴィッチのインタビュー最終回。ムスリムの彼は1年に一回、ひと月の断食期間を過ごしている。練習の日でも試合の日でも、日中は飲まず食わずというが、本人がその内容を明かしてくれた。

前編「ドレシェヴィッチが語るJリーグと日本での生活」>>
中編「ドレシェヴィッチが語る少年時代のストリートサッカー」>>

【日中は何も飲まず、食べない】

「練習後に選手がインタビューに臨む時、いつもクラブのスタッフが水を用意してくるんだけど、今回はそれがなかったので、あれ? なんでだろう、と思っていたんだよね」

 このシリーズの写真を担当するフォトグラファーは、取材後にそう明かした。さすが長年、様々な瞬間を切り取り続けてきたベテランカメラマンは、物事をよく見ている。

 取材と執筆を担う筆者といえば、インタビューも後半になった頃に食事の話になり、ようやくイブラヒム・ドレシェヴィッチが水を飲んでいないことに気がついた。彼はイスラム教の信者で、その信仰には食事制限と断食があり、このインタビューをした時がまさに、今年のラマダン(断食期間)だったのだ。

 期間中、イスラム教徒は日出から日没まで、食料も水分も控えることになる。信者によっては日中に水分だけ補給する人もいるようだが、敬虔で誇り高きムスリムであるドレシェヴィッチは、忠実にこれを守っている。3月下旬の当日は、いきなり夏が訪れたような暑さで、激しいトレーニングを水も飲まずに終えたわけだ。

「ちょうど今が断食期間で、あと3日、これを続けるんだ」とドレシェヴィッチは涼しい顔で言った。

「期間は毎年、太陽暦では異なるけど、大体ひと月にわたる。今年はあと3日間だね。その間は朝の4時頃に朝食を食べ、夕方6時くらいまで何も飲まず、何も食べない。練習中に喉が渇いても、水を口に含むだけで、飲み込むことはなく吐き出す。どれだけ厳しいトレーニングだろうと、強豪との激しい試合だろうと、日中であればそうしている」

【自分自身は逆に体が軽くなる気がするんだ】

 彼のルーツであるアルバニアやコソボは、かつてオスマン帝国の領土だったこともある歴史的な背景もあり、国民の大半がイスラム教徒だという。ドレシェヴィッチの家族は皆、その教えを守っている。

「13歳か14歳くらいから毎年断食をしているので、もうすっかり慣れたよ。プロになったのは17歳か18歳だったから、キャリアを通じて1年に1度は断食をしていることになる。

 確かに始まりの頃は、少し辛く感じる時もある。それまでの11カ月間、何の制限もなく食事をしてきたんだから、身体をアジャストさせなければならない。でもそれも数日で慣れるし、自分自身は逆に体が軽くなる気がするんだ。よりエネルギーを感じることもある」

 ちなみにリバプールのモハメド・サラー(エジプト代表)も敬虔なムスリムで、断食期間中だった2019年のチャンピオンズリーグ決勝では、トッテナムを相手に先制のPKを決め、フル出場して2−0の勝利に貢献している。信仰が選手にパワーを与えてくれることは、きっとあるのだろう。

 宗教的な理由により、ドレシェヴィッチは日本でもハラルフードしか食べないという。ムスリムの人々が口に運ぶことができる食べ物の呼び名で、野菜や果物、穀物、豆類、魚介類、牛乳、卵が中心。豚肉やアルコールは禁じられ、牛肉や鶏肉を食べるにはイスラム法に則った食肉処理がされていなければならない。ドレシェヴィッチは続ける。

「僕はムスリムだから、ハラルフード以外は食べられない。だから日本食もあまり食べないんだ。日本にはハラルフードのレストランが多くないので、基本的には家で妻がつくってくれた料理を食べているよ」

 これまでにこのシリーズに登場した選手たちは皆、異口同音に日本食のすばらしさについて語ってきたが、ドレシェヴィッチの口から焼肉や寿司の単語が出てくることはなかった。それでも日本の生活には満足しているようで、休みの日には家族で出かけることも多いという。

「町田からは東京や横浜の街が遠くないので、オフには妻と子どもを連れて買い物や散歩に行くんだ。渋谷、新宿、横浜、表参道あたりで、子どもが楽しめそうな公園で遊んだり、素敵なレストランで食事をしたり。僕らは都会で過ごすことも好きだから、今の生活は気に入っているよ」

【日本のファンはすばらしいと思う】

 日本のサポーターにも、好感を抱いている。FC町田ゼルビアは野心高いクラブで、残念ながら現状維持で満足しているようなクラブがあるJリーグにおいて、目立つ存在だ。ファンとしても、熱く応援する甲斐があるだろう。

「町田、そして日本のファンはすばらしいと思う。大好きだよ。僕が以前にプレーしていたトルコのファンと比べると、もちろんおとなしい。特にトルコのビッグクラブ、ガラタサライやフェネルバフチェ、ベシクタシュのサポーターは、本当にクレイジーだから。発煙筒を炊き、唸り声をあげ、時には喧嘩を始めることもある。一方、町田のファンはそこまでクレイジーにはならないけど、大声援で僕らを後押ししてくれる。そして選手に対するリスペクトを示してくれるね」

 その後、町田はドレシェヴィッチが先発を外れたアビスパ福岡とのアウェー戦を2−2と引き分けたが、彼が先発に復帰した敵地でのガンバ大阪戦は1−0とクリーンシートの勝利。第9節終了後には首位に立った。

「今季も昨季と同じように、リーグ優勝を狙う」とドレシェヴィッチは言った。

「今シーズンは途中からAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に参戦するので、序盤戦でできるかぎり多くの勝ち点を手にしておきたい。天皇杯、リーグカップもあるしね。自分もチームももっともっと成長できるはずだ」

 町田が勢いを維持できている要因のひとつに、バルカン半島にルーツを持つスウェーデン人DFの存在があるのは間違いない。
(おわり)

ドレシェヴィッチ 
Ibrahim Drecevic/1997年1月24日生まれ。スウェーデン・リッラ・エデット出身。エルフスボリのユースチームから2016年にトップチームへ。2019年にオランダのフェーレンヘーンへ移籍して活躍。2022年からはトルコのファティ・カラギュムリュクで2シーズンプレー。2024年からFC町田ゼルビアでプレーしている。ユース年代ではスウェーデン代表を選択していたが、A代表では2019年にコソボ代表でのプレーを選んだ。

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