
長男の嫁には墓を守ってもらわないと(北関東/40代)
私は東京で生まれ育った代々の江戸っ子家系です。夫とは東京で知り合いましたが、東京から2時間弱の地域にある彼の実家はなかなかの男尊女卑で驚きました。2年ほど付き合って結婚することになり、相手の家にあいさつに行った時、初めて「大丈夫だろうか」と不安になりました。夫は姉が2人いる末っ子の長男で、父親はすでに亡くなっていました。長姉とは10歳、次姉とは8歳離れていて、女3人に囲まれて大事に育てられたということも、彼の実家に行って初めて聞いたこと。
「あんたは長男の嫁になるんだから、墓を守ってもらわないと困る」と義母となる人に言われて、それもびっくり。彼に「そんなすごい家柄なの?」と聞いたら、「別に。お母さんがそう思ってるだけ」って。
同居するわけじゃないから気軽に考えていればいいよと言われて結婚したものの、その後も義母と義姉たちからは毎日のように電話がかかってくる。義姉たちはそれぞれ実家近くで家庭を持っていましたが、毎週末、必ず実家に行くことになっているんだそうで、その誘いの電話がくるわけです。
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最初は鷹揚(おうよう)だった夫も、そのうち「たまには行こうよ」と言い出して……。でも私は共働きだから週末くらいは夫とゆっくり過ごしたいし、たまった家事も片付けたい。そうしたら夫はひとりで実家に帰るようになりました。挙げ句、近所で祝儀・不祝儀があるたびに「長男だから」と帰るようになった。
「付き合っている時は聞いたこともなかった」と言ったら、黙って帰っていたんだそう。近所の付き合いを怠ると、いわゆる「村八分」にされるらしい。
その後、夫が「同居」を言い出したところで離婚を決意しました。結婚から3年目のことでした。
決定権が男にあるのは当たり前だった(九州/40代)
うちは県庁所在地ではなく、代々地元の人だけが住むような田舎でしたから、けっこう男尊女卑が激しかったと思います。それは上京してから初めてわかったことですが。
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家では父が一番風呂。次が兄で、祖父母、それから母と私と妹でしたね。中学の時だったか、父より先に新聞を読んで祖父母に怒られたことがあります。
父がダメと言ったら、もう話は先に進まない。そんな家庭でした。知らず知らずのうちに私もそういう価値観が刷り込まれていたんだと思います。
ところが面白いことに、あんなに大事に育てられた兄が父の期待を裏切って地元大学を卒業するやいなや、関西に脱出。どうやらずっと我慢していたようですし、大学で他県から来た友人達にいろいろな価値観を学んだんでしょう。わざわざ関西に本社がある会社を受けて、家を出ていったんです。
そのころ私は地元の大学生。兄に「早く出た方がいい」と言われて、私は東京の会社に就職しました。
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みんなで話し合おうということになった時、私、思わず「男たちに任せた方がいいんじゃない?」と言ってしまった。周りの女性たちは「なに言ってるの?」って。揉め事の解決は男に任せるのがうちの地域では普通だったし、女はしゃしゃり出てはいけないものと私は思い込んでいたんです。
「自分たちのことはみんなで話し合うのが当たり前でしょ」と言われて、うちの母などは面倒な事は父に任せていたなと思い当たりました。
日ごろ、男を威張らせて尽くしているけど、いざ何かあったら「責任は男が取るものでしょ」というのがわが家、あるいは地域の慣習だったんですよ。男も女も、そういう役割分担だと思っていたんでしょう、それで物事がうまく成り立っていた。従来の男らしさ、女らしさを駆使していれば、すべてがうまくいっていたわけです。
「男は女を守るべきだ」とか。でも、守るというきれいな言葉の裏には、「妻となったからには自分の所有物」という思いがある。これは九州だけの話ではないと思うけど。
でも本来は、個人が自分の責任で生きていくのが当然なんだよなと思いました。その後、私は北海道出身の男性と結婚。とことん話し合うことを最重視しながら、結婚10年、なんとかうまくやっています。
ただ、小学校のころから仲のよかった友達と話すと、今も「夫に聞いてみないと」と判断を先送りする。これはこれで、身を守る生き方なのかもしれないと思えるくらい、故郷が遠くなりました。
「さす九」は日本の問題
モラハラという言葉が定着して久しいが、もとを正せば相手の人権を尊重する思いがないから、ハラスメントになってしまうのだ。どんなに親しい間柄でも、恋人でも夫婦でも、相手は自分ではない。相手には相手の思いがある。それを腹に入れておけば、そうそう相手を軽視できないはずである。
九州はいいところだ。個人的には好きな地域だから「さす九」という言葉には筆者自身、抵抗がある。ただ、この言葉は象徴的なものだからこそ話題になったのであって、改めてこれは「日本の問題」なのだと痛感している。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))