
Aさんには妻とは別に心の支えとなる愛人・Bさんがいました。妻とは長らく別居生活を送っており、お互いに別の道を歩んでいるような状況です。法的な婚姻関係は続いているため、第三者から見れば複雑な関係といえます。
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年齢を重ねるにつれ、AさんはBさんへの感謝の思いが募るようになり、自身の財産の一部を彼女に残したいという気持ちが強くなっていきます。彼女が安心して生活できるよう、手助けしたいと真剣に考えていたのです。
そこでAさんは、Bさんに財産を遺すよう遺言書の作成を検討し始めます。ただ、不倫関係にある相手への遺贈は、遺言書に明記しても「公序良俗違反」とみなされ、無効になる可能性があることを知り途方に暮れます。
長年連れ添ったBさんへの想いを形にしたいものの、法律という壁が立ちはだかります。有効な手立てが見つからず、Aさんはいてもたってもいられなくなりました。果たしてAさんは、愛人であるBさんに財産を遺すことはできるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
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ー公序良俗違反になると遺言書は無効になるのですか
民法90条で「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と規定されています。不倫は公序良俗に反する行為と考えられますが、必ずしもこのような遺言のすべてが無効とされるわけではなく、不倫の態様や遺言による遺贈の内容によって判断されます。
ー愛人への遺言書でも無効にならない場合もあるのですか
愛人への遺言書であっても、公序良俗に違反しないとした昭和61年11月20日の最高裁の判決もあります。
ここでは、妻との婚姻が事実上破綻の後、愛人と半同棲の関係が生じ一定期間継続している場合において、その遺贈がもっぱら生計を遺言者に頼っていた相手方の生活を保全するためにされたものであって、不倫関係の維持継続を目的としたものではなく、遺言内容が相続人の生活の基盤を脅かすものではなかったとして、公序良俗違反ではないと判示しています。
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この判決から考えるとAさんの場合は、愛人の生活保障が目的であり、妻などの遺族の生活を脅かすものでなければ、有効な遺言として評価される余地があると考えられます。
とはいえ別居する妻にもそこに至ったには相応の言い分があるでしょうし、遺言書で愛人の存在を知ったとして、すんなりと「わかりました。どうぞご自由に」とはならないはずです。AさんがBさんのことを本当に大事に思うなら、応分の負担を覚悟のうえで離婚協議や裁判離婚に取り組みケジメをつけることを目指し、見切り発車は避けるべきではないでしょうか。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)
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