
給与は上がらないまま物価高騰が続き、少しでも収入アップを目指したいという女性は多い。キャリアアドバイザーの高村祐規子さんによると、新たに資格を取得する人が増えているそう。
50代以降の強みは実務経験と人間力
「日本人は不景気になると資格を取る傾向にあり、大手の資格スクールの入学者は増加しています。物価高が、家計を圧迫していることは事実。確実に収入を得られる武器が求められています」(高村さん、以下同)
アラフィフ、アラ還女性が学び直しをしたり、定年後を見据えて資格取得をするケースも目立つ。
「女性の平均寿命は87.32歳。退職しても健康であれば、あと20年以上ありますし、まだ働ける。手取りが減る定年後に収入を補填(ほてん)するには、資格がわかりやすい実力アピールになります」※内閣府男女共同参画局 男女共同参画白書(令和2年版)より
「経験やスキルなんてない……」と、職歴に自信を持てない人も多い中、「50代、60代だからこそできる仕事はたくさんある」と高村さん。
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「最大の強みは、社会で積み上げてきた実務経験と人間力。面倒くさい上司や社内トラブルなど、ストレスや難題を乗り越えてきた女性は強い。そのコミュニケーション能力や共感力は、とても若い世代にはまねできません」
職歴だけでなく、子育てや介護、看取りといった人生経験も立派なキャリアになる。
「例えば、需要が増えている葬祭ディレクターは、経験豊富な大人に最適。遺族の気持ちを察して接したり、先回りして葬儀に必要なものを手配したりと、きめ細かい気配りが生きる仕事です」
とはいえ、取得すれば一生安泰という資格はない。人気や話題性だけで選ぶと、お金と時間を無駄にする羽目に。
「稼げる資格を選ぶのに重要なのは、時代背景を先読みすること。具体的にはAIの進化と、少子高齢化がカギです。事務職が行うデータ入力などの定型業務は、今後AIの領域になります。
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また、日本では家計の金融資産の6割を、60歳以上が所有しているというデータも。お財布に余裕のあるシニア世代をターゲットにできる資格や仕事を選ぶと、収入アップできる可能性が高いです」
※日本総研が2024年6月末に日本銀行「資金循環統計」、総務省「国勢調査」、「全国家計構造調査」などを基に試算
50歳からの資格取得で新たな人生が開けた
シニア世代を主なターゲットに、ウォーキング講師として活躍しているのが、朝倉真弓さん(53歳)。20年以上、フリーライターとして活動し、50歳でウォーキングインストラクターの資格を取得。
「職業柄、猫背が気になっていて、以前から興味はあって。コロナ禍で仕事が減ったときに日課になった散歩で、気持ちが前向きになることを実感し、ウォーキングを本格的に学びたいと思ったんです」(朝倉さん、以下同)
数あるウォーキング講座の中から選ぶ際に重視したのは、取得後に自由に活動ができることだった。
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「協会によっては、例えば活動時に資格名を表記しないといけないなど、細かいルールがある場合も。特に民間資格は、協会により条件が異なるので、どのように仕事にしていきたいか、その後のビジョンを持って選ぶのがおすすめです」
ウォーキング教室はモデルを目指す若者向けが多い中、“美姿勢・品格”を打ち出し、ターゲットを差別化したことも時代にハマった。
「私も50代になり、シニア世代の方の美や健康づくりをサポートする講師に特化したほうが、自分の特徴になると思いました。
現在は、カルチャースクールでの講座や、地方自治体などでの講演をしたり、他にもライター業を生かしたウォーキングの書籍出版、主婦向けメディアでの執筆など、幅が広がり、仕事がより楽しくなりました。50代からでも、新しい道にチャレンジできますよ」
経験『+資格』で稼ぐ力が上がる!
朝倉さんのように使える資格に出合い、稼ぐ力をつけるには、自分の“ウリ”を見つけることが大事。それには、「これまでの仕事を棚卸ししてみるのが良い」と高村さんはアドバイスする。
「新卒で入社した会社から、これまで経験したアルバイトまで、どんな会社でどんな仕事をしたのか、成果や学んだことなど、細かく紙に書き出してみて。ウリになるポイントがわからなければ、同僚や友人に聞いたり、無料の適職診断テストをやってみると自分の強みが見えてきます」(高村さん、以下同)
また、まったく経験のない業界・職種よりも、過去に実務経験のある仕事で「+資格」を武器にできるほうが、収入アップにつながりやすい。
「グローバル化により、英語ができると、すでに持っている資格や仕事でも収入アップが望めます。例えば保育士の実務経験があって英語の資格を取ると、英語教育ができるベビーシッターや保育士として重宝されます。
食関連の仕事をしてきた方なら、近年子どもに多い、アレルギーに関する知識を持つ、アレルギー対応アドバイザーなども需要が高まっています」
これまでの実務経験に、資格を『+α』すれば、定年後の収入ダウンも怖くはない。むしろ現役時代より、ザクザク稼げる可能性だってある。
「50代以降の資格取得のメリットは、お金だけではありません。仕事を通じて、これまで出会えなかった人との交友関係が生まれることも。
それが活力になり、『ハリのある人生を送れるようになった』『自分に自信を持てるようになった』という人もたくさん見てきました。シニアになって家にこもっているより、新しいフィールドでどんどん活躍してほしいですね」
心も身体もまだアクティブな現在のアラフィフ、アラ還女性。「残りの人生で何ができるのか」を見つめ直し、稼げる資格をゲットすれば人生が豊かになる。あと20〜30年で、“もう一花咲かせる”ことも叶うはず!
今おすすめの資格
葬祭ディレクター
厚生労働省認定の民間資格で、葬儀の相談や葬儀全般を仕切るディレクター。経験豊富で気遣いのできる50代以降の女性は狙い目の資格。
「葬祭ビジネス市場は拡大中で、今後も必要とされる職種です」(高村さん、以下同)
英語ができる宅建士
外国人による日本の不動産の購入が増加し、忙しくなっているのが英語力のある宅建士。
「不動産購入時の重要事項説明は宅建士にしかできません。資格があるなら英語を身につけて海外の方を顧客にすると収入アップ!」
建築系の知識があるドローン操縦士
建築や測量の知識があるなら、+αでドローン操縦士の免許を。
「高速道路など、日本各地でインフラの老朽化が進み、ドローンでの点検が行われています。特に建築関連の資格も備えている人なら、引く手あまたでしょう」
今後需要が上がる資格
高齢者向けペットシッター&ツアーコンダクター
飼い主が高齢化すると必要になるのが、ペットシッター。シニア向けのツアーコンダクターは、“段差のあるルートを案内しない”など、年齢に配慮した旅行を考案できるプロとしてニーズが増加。
「飼い主の突然の入院にも対応できる有資格者が求められます」
リハビリケア専門士
高齢者や障がい者向けにリハビリテーションを行う専門家。「国家資格の理学療法士は雇用側からすると人件費が高め。その点でもリハビリケア専門士を求める病院が増えるのでは」
英語や音楽を教えられるベビーシッター&保育士
少子化の中、子ども向けで需要が高まっているのが、英語や音楽の専門知識を持ったプロ。保育士やベビーシッターの資格があれば、英語を本格的に学ぶ手も。
「子どもに英才教育を受けさせたい、教育熱心な富裕層に人気です」
教えてくれたのは……高村祐規子さん●女性専門キャリアアドバイザー、FP、人材コンサルタント。1万人以上の女性のキャリア支援に従事。近著の『50代ひとりでも一生お金に困らない「手に職」選び』(WAVE出版)が好評発売中。
取材・文/釼持陽子