冷静に考えると非合理的だが、みんなそうしているからとつい自分もそのままにしていることも多いのではないだろうか。そういった事柄も漫画という媒体で読むことで、不思議とよりしっかり考えようと思える。
Xに1月下旬に投稿された『エスカレーターの片側を歩かない』では、そのタイトルの通り、エスカレーターの乗り方をテーマにした作品だ。読了後に“エスカレーターの片側を空ける”という暗黙の了解について改めて考え直したくなるだろう。
エスカレーターの乗り方をテーマにしつつも、主人公の女子高生・マキの成長も描いた本作を手がけたあきの実さん(@akinomno)に話を聞いた。(望月悠木)
◼︎エスカレーターは片側を空けるのがマナー?
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――今回『エスカレーターの片側を歩かないと決意した女の子の物語』を制作した背景は?
あきの実:歩行禁止の条例が出ている地域があるものの、全国的にはまだまだ「片側を空けるのがマナー」みたいな空気感が根強いです。そこで「『なぜ条例が出ているのか』ということを条例のない地域に住む人にも考えて行動してほしい」という思いから制作しました。
――「エスカレーターの歩行禁止」をテーマにしながらも、「主人公の成長」も要素として加えた狙いは何ですか?
あきの実:「エスカレーターの片側を歩くのはやめよう!」と主張するだけでは、結局のところただの意見ですし、わざわざ漫画にする必要性はありません。“誰かの物語”にすることで読者さんに共感してほしかったので、マキちゃんという女の子を主人公にして描きました。
――マキを作り上げるうえで意識したことは?
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あきの実:多感な時期の象徴として“女子高生”を選びました。また、マキちゃんは私自身をモデルにしたわけではないのですが、私が人生の中で経験して感じたことを反映させています。
――テーマと主人公が決まり、それからどうストーリーを組み立てていったのですか?
あきの実:「カッコ良く生きられていない自分を変えたい」「挑戦してみる」「うまくいきそうになるけどやっぱりダメだった」「でも全部がダメじゃない」ということの繰り返しが人生なのかなと思っています。なので、そういう流れになるようにストーリーを考えていきました。
◼︎自主的に動けるかどうかは自分次第
――「SNSに投稿せずに共感できる投稿を探して安心感を得る」など、マキの自主性のなさが細かく表現されていましたね。
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あきの実:マキちゃんも幼い時は自分で考えて行動できる子だったんですよね。それが否定されて、ショックを受けて受動的な生き方になってしまった。でも思考停止まではしていないし、「したくない」とも思って生きている。上手くいかなくても「思考停止しない」っていうのは、すごく大事なことだと思います。
――ちなみに、マキの幼少期にしてしまった“余計なこと”を今も覚えており、それが現在の性格に何かしらの影響を与えている、ということはあきの実さん自身の体験も影響しているのですか?
あきの実:はい。この体験はほぼ私の実体験です。誰しもこういう過去のトラウマから人格が形成されていると思います。とはいえ、自主的に動ける人になるか、受動的に思考停止して生きていくのかは、結局のところ自分で選べると思っています。
――改めてになりますが、あきの実さんはエスカレーターの乗り方についてはどう考えていますか?
あきの実:私も昔は片側に立ったり歩いたりしていました。ただ、初めて歩行禁止の条例が埼玉県で施行された時に、片側を歩かれることで辛い思いをする人がいることを知りました。知ったのなら変えていけば良いだけのはずですが、「だってみんなやってるし…」「急いでる人にも事情がある」など、様々な理由から習慣を自分から変えようとする人は多くはありません。
――マキのような問題意識を持って行動に移せる人は稀有ですからね…。
あきの実:そうですね。もちろん、そういった人を否定はしませんが、カッコ良い生き方だとは思いません。小さなお子さんやお年寄り、体の不自由な人が常に目の前に乗っていると想像してエスカレーターを利用していれば「だって急いでるし!!」とはならないはずです。「エスカレーターは階段の利用が難しい人が優先して利用できる物であってほしい」と思っています。
――最後に今後の漫画制作の目標など教えてください。
あきの実:本作は想像以上に反響をもらえて嬉しかったので、今後も自分が感じている社会のモヤモヤを題材にしたり、読者さんが少しだけスッキリした気持ちになれる物語を描いたりなどしていきたいです。また、本業漫画家ですが、『ビックリメンバトルロイヤル』(てんとう虫コミックス)の連載が終了して現在失業中なのでお仕事募集中です!原作担当・作画担当等幅広くお受けしてます。
(文・取材=望月悠木)
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