※写真はイメージです。 移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
今回は、電車内で予期せぬ出来事に直面し、「困惑した」という2人のエピソードを紹介する。
◆高齢者に席を譲ろうと思ったら…
松田浩太さん(仮名・30代)は、いつものように混雑した電車に乗り込んだ。朝の通勤ラッシュにもかかわらず、幸運にも座席を確保できた。
「ホッと一息をつき、スマートフォンでメールをチェックしていると、杖をついた高齢の女性が乗ってきました。彼女は明らかに疲れた様子で、よろよろと揺れながら私の前に立ったんです」
松田さんが周りを見渡すと、若い人たちが座っている状況を目にしたが、誰も席を譲る様子はなかった。松田さんは、とっさに立ち上がろうとしたのだが……。
「隣に座っていた男性が私の腕をつかんで制したんです。『座ってください』と小声で言われました」
困惑しながらも男性の真剣な表情に押され、松田さんは立つことをやめたという。しかし、高齢の女性は松田さんの前でよろよろとしている。我慢の限界に達し、思い切って男性に尋ねることにした。
「なぜ、席を譲らないんですか? 本当に困っている人を見捨てるんですか?」
すると、男性は深刻な表情で答えた。
◆“席を譲らない”本当の理由とは…
「私たちは地域の医療関係者で、彼女の安全のために交代で見守っています。彼女は重度の骨粗しょう症で、転倒のリスクが高いんですよね。彼女自身は歩ける自信があるのですが、実際には危険です」
現在一部の地域では、高齢者見守りサービスといった高齢者や医療的な支援が必要な人を対象にしたサービスが提供されている。事前に登録された高齢者や通院中の患者など、リストに基づいて支援が行われることもあるそうだ。
松田さんは驚きながらも、男性の言葉に感銘を受けたという。
「彼らは通勤者ではなく、地域社会で活動する医療関係者だったんですよね」
すると男性は立ち上がり、さりげなく高齢女性の横に立った。万が一のときに支えられる位置だったようだ。男性の行動は、まわりの誰にも気づかれないように自然に行われていた。
◆“他人を助ける”ことの難しさを学んだ
その後、松田さんは男性から“彼らの活動”について聞いたそうだ。
「彼らは、地域の医療施設と連携して、高齢者の安全を守るシステムを整えていると教えてくれました。医師や看護師、介護職員などが協力して、地域住民の健康を支えているようです」
男性は、「難しい判断でしたね」と言い、電車を降りたという。
一方、高齢女性は「見守られている」と認識しているのだろうか。松田さんの推測に過ぎないが、
「男性の話を聞いて状況を理解するまでは、『席を譲らない人たちだな』と思っていました。でも、確かに女性の近くにさりげなく立ったり、支えられる位置に移動していたりしていたことに気づいたんです。女性が完全に見守られている状況に対して“無自覚”ではなく、『周りの人が気を配ってくれているな』くらいの感覚はあったかもしれません」
ただし、「それが見守り活動だと認識していたかどうかまでは、判断できませんでした」と付け加える。
「この経験を通じて、“他人を助ける”ことの難しさを学びましたね。表面的な親切ではなく、相手の状況や背景を理解することの大切さを考えた出来事でした」
◆女性の肩についていた“黒い物体”
「電車通勤だった頃の忘れられない出来事です」
田中由紀子さん(仮名・20代)が利用していた電車は、利用者数は多くなかったのだが、その日は沿線の駅で研修が行われており、いつもよりも満員に近い状態だったという。
「電車の中には、スーツ姿の人たちが多くて、私の隣には20代後半くらいの男性が座っていました。男性の前には同年代の女性が立っていて、2人は知り合いのようでした」
しばらくすると、女性の肩に“黒い物体”がついていることに気がついた。
「あまり女性の肩をジロジロ見るのは失礼だと思いつつ、“黒い物体”に目を凝らしていると、その正体は“かなり大きなクモ”だったんです」
虫嫌いの田中さんは、思わずギョッとした。周りの人たちはクモの存在に気づいておらず、話をしたり本を読んだりしていたという。
しかし、そのクモに気づいた男性が大声で叫んだのだ。
「おい! 肩にデカいクモ乗ってるぞ!」
◆クモから大量の小クモが出てきて…
男性の声を聞いた人たちは一斉に振り向き、同時に女性が悲鳴をあげた。大きくて足の長いクモに対して、払いたくても払えない状態だったようだ。
「私はというと、自分のところにクモが落ちてくるかもしれないと気が気じゃなかったです」
すると、その男性がやらかしてしまう。
「なんと、女性の肩からクモを落として、靴で踏みつぶしたんです」
乱暴さにドン引きしただけでなく、踏んだクモから小さいクモがわらわらと飛び出してきたのだとか。
どうやら、女性の肩に乗っていたクモはメスで子どもを宿しており、男性が踏んだことで飛び出し電車内に散らばっていった。
「その状況を見てしまった私は悲鳴をあげて、1日中映像がフラッシュバックする羽目になりました」
その光景が田中さんは今でも忘れられないという。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。