急増する“大学入試の年内化”は「貧困層だけにデメリットがある」理由。“一部の学生”だけが有利な状況に

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2025年04月13日 16:20  日刊SPA!

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物議を醸した東洋大学 竹澤宏 - stock.adobe.com
―[貧困東大生・布施川天馬]―
 みなさんは2月にどんなイメージを持ちますか?私にとっては「戦いの季節」。教育に関わる人ならば、受験戦争が強く印象づいているのでは。

 中学、高校、大学受験のほとんどの本番が1月後半から2月までに集中しているからです。

 ただ、これももはや「古いイメージ」になりつつあることをご存じでしょうか?いわゆる「推薦入試」と呼ばれる学校推薦型・総合型選抜入試は、大抵12月までに合否が確定することから「年内入試」と呼ばれます。

 もしかすると、いま30代後半より上の方からすれば「推薦入試」=「少数派」と思われるかもしれません。現実は真逆です。いまや、「テストを解いて入学する」方が、マイノリティ。

◆大学入学者の過半数が推薦入試に

 2022年に文部科学省が公表した「大学入学者選抜の実態の把握および分析等に関する調査研究」によれば、50.3%の過半数が推薦・総合型選抜を利用していることがあきらかになりました(学校推薦型選抜が31.0%、総合型選抜が19.3%)。

 これら総合型選抜では、小論文や面接など、学力試験を伴わない様式が一般的。年内に学力試験を課す選抜を行うと、年度末までの授業によってカリキュラムを修了させる高校での授業が受験対策のため早期化する可能性があるため、文部科学省から「個別学力検査は2月1日から3月25日までに行うように」とお達しが来ているのです。

 ですが、2025年度大学入試で「このルールが破られたのでは」と騒ぎが起きました。東洋大学の「学校推薦入試 基礎学力テスト型」は、12月までに試験を実施する「年内入試」でありながら、ペーパーテストを課したため。

 もしもこのまま学力テストの「年内入試化」が進んだ場合、どんなことが起こるでしょうか?

 少なくとも、しばらく塾に通えない貧困層の子どもたちにとって冬の時代が続くと私は考えます。ますますお金持ちを優遇する「年内入試化」の闇に迫ります。

◆授業のペースでは受験に臨めない理科社会

 みなさんは大学受験を志す高校生に出会ったら、どんなアドバイスをしますか?

 いろいろ言うことはあるでしょうが、私なら必ず「どんなに遅くても高3の夏までに理社の勉強を終わらせなさい」と伝えます。

 英数は高3までに基本事項をさらうカリキュラムを組む学校が珍しくない一方で、理社はどんなに早い学校でも高3冬まで授業が続きます。

 しかし、理社の試験範囲は、高3夏の模試から教科書の全範囲になります。学校の勉強だけでは、絶対に受験についていけないのです。

 そのため、映像授業や参考書などで、先取り自習を進めるように指示するのが通例。もちろん理社以外でも、新規事項の学習が早期に終わるほど受験では有利になります。

 最近中学受験で中高一貫校が人気なのは、6年間一貫教育が「高2までのカリキュラム完成」を可能とするから。また、東大進学黄金ルートとして有名な鉄緑会では、なんと中学卒業までに高校卒業までの授業内容を完結させます。

◆一貫校の学生がより有利な状況に

 このように、進学校や進学塾には、それなりのノウハウがある。もちろん、これを可能とするレベルの高い学生が集まることも要因ですが、「システム」自体で差がついています。

 中高一貫校のほとんどは私立であり、入学には試験による選抜が課される場合がほとんど。となれば、やはり幼少期からの厚い教育投資がなされる子どものほうが有利なのは言うまでもないでしょう。

 現状より受験シーズンが早まった場合、もちろん今より早く受験の準備に取り掛かる必要ができます。受験準備が早期化するといえばそれまでですが、一貫校の学生とそれ以外とで大きな差がつくことは想像に難くない。

 高校側にカリキュラムを変えろとお願いするのは無理ですし、それこそ文部科学省が懸念していた事態に陥りますから、高校もそのような授業計画は組まないでしょう。

 つまり、「教育の質」ではなく「システム」によって有利不利ができてしまう。これは、平等性の観点から見て、あまり喜ばしいものではないでしょう。

◆学力試験の年内化は大学と受験生の双方に利益はあるが…

 ただ、理想に反して年内入試化は以後進行し続けるでしょう。

 今回反発を生んだのは「学校推薦型であった点」とされており、東洋大学は総合型選抜枠への変更を検討すると発表しています。文部科学省も年内入試で学力を担保するよう要請しており、それに沿う入試方式でもある。

 大学にとっては年内に志望者が確定すれば入学金など予算の確保が容易になり、受験生からしても早期に受験できれば滑り止め確保、本命への複数トライなどが可能になり嬉しい。

 実施例もすでにあり、関西圏の私立大学群では学力試験を伴う総合型選抜が珍しくないようです。

 学力試験の年内化は、大学と受験生の双方にとって利益をもたらすように見えます。となれば、反対するのではなく、これに対応するような仕組みを作るべきでしょう。

 問題点は「カリキュラムが終わらないこと」でしたから、年間授業計画や指導要領を変更するといった対応策が妥当かもしれません。とはいえ、結局現場の先生方に負担を強いる変革となります。一層教員の成り手が少なくなる可能性は十分ある。

 教育以外の部分で様々な思惑が絡んだ結果、教育現場にしわ寄せがいくのは、なんとも悲しむべきことではないでしょうか。

「お金と教育」を考える機会が多い私ですが、マネーゲーム化した昨今の受験現場は、本当にあるべき姿なのでしょうか。

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)

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