六本木の元クラブママであり、現在は作家・ライターとして活動している蒼井凜花氏 日系航空会社CAから六本木のクラブママを経て作家となった蒼井凜花が、実際に体験した、または見聞きしたエピソードをご紹介。今回は「特急列車の化粧室」におけるハプニングについてお届けする。
◆特急列車のトイレで遭遇した怪しい男性
私は不定期で地方取材に行くのだが、今回は修善寺を訪れるため『特急踊り子号』に乗車。その車中、化粧室に立った際に思わぬ事態に遭遇した。
化粧室は「男性用トイレ」「男女兼用トイレ」と二種類あり、私はもちろん「男女兼用トイレ」に入ろうとした。男性用トイレは空いていたが、男女兼用トイレは使用中だったので、ドアの前に並んだ。
しかし、ほどなくして筆者の後ろに20代と思しき若い男性が並んだのだ。私は「えっ、なぜ隣の男性用トイレは空いているのに、わざわざ男女兼用に並ぶの……?」と当然ながら不思議に思う。
このときは「もしかして、女性も使用する個室を使う変質者?」とか「もしかして盗撮器の設置?」など、よからぬ妄想を抱いてしまった。
こんな時に限って、男女兼用トイレはなかなか空かず……。男性も後ろに並んだまま動かない。このままでは耐え切れず、筆者は振り返って若い男性に「あの、男性用トイレをどうぞ」と、勇気を出して告げた。
◆まさかの「大をする」宣言…
直後、思わぬ言葉が返ってきた。
「いえ、大のほうなので」
あまりのあっけらかんとした物言いに、筆者の頭の中は「???」である。
聞き間違いかと思い、再度若者に「男性用トイレは空いていますよ」というと、相手も引き下がることなく「知ってますよ。でも、大のほうなので」と、2回も「大」を強調されたのだ。しかも、堂々たる口調で……。そのとき私の脳裏には二種類の疑問が生じた。
「“大”って大便の意味よね?」「男性化粧室で「大」は不可能なの……?」
◆男性トイレを開けてみることに…
微妙な空気が漂うなか、私は「男性トイレで『大』はできないんですか?」と言いつつ、男性の許可を得て男性トイレのドアを開けた。
そしてビックリ! なるほど、男性用の小便器しかなかったのだ。
思わぬ赤恥をかいたが、タイミングよく使用中だった男女兼用のトイレのドアが開いた。私が「よかったら、お先にどうぞ」と、大を我慢していたであろう彼に順番を譲ると、若者は丁寧に「いえいえ、先に使ってください」とニッコリ。
その後、あまり待たせては申し訳ないと思いつつトイレを使用し、そのあと男性も無事トイレに入っていったのだ。10分ほどの出来事だが、この10分は大きな気づきや学びをもたらせてくれた。
◆知らない女性も多いはず
もしかすると男性からしたら当たり前の話かもしれないが、例えば「男性トイレは小水用のみ」と知っている女性はどれほどいるのだろうか。
また、筆者のように、男性トイレが空いているにも関わらず、男女兼用トイレを使う男性に対して不審な目を向ける女性もいるのではないか。だとしたら、あまりにも男性が不憫な気がする。
前述したが、筆者の無知ゆえの疑念めいた勘繰りに、顔色ひとつ変えず、平然と「『大』のほうなんで」と告げた若者の態度に大いに感心した。
文/蒼井凜花
【蒼井凜花】
元CAの作家。日系CA、オスカープロモーション所属のモデル、六本木のクラブママを経て、2010年に作家デビュー。TVやラジオ、YouTubeでも活動中。